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合同委員会で示された
   「疫学研究に関する倫理指針」の考え方について

 以下の資料は、厚生科学審議会科学技術部会の「疫学的手法を用いた研究等の適正な推進の在り方に関する専門委員会」及び科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会の「疫学的手法を用いた研究の在り方に関する小委員会」における議論、並びにパブリックコメントへの回答のうち、指針の考え方を示す部分を、委員会の事務局を勤めた厚生労働省及び文部科学省において要約したものである。

1 指針の趣旨(指針第1の1ほか)

  • 本指針は、疫学研究の倫理審査に当たってよるべき倫理指針と位置づけられる。
  • 疫学研究の推進に当たっては、学問・研究の自由を踏まえることも重要であるが、研究に用いる資料が保護すべき個人情報を含むことがあり、本指針に基づき倫理面に配慮して行うことが必要である。
  • 本指針については、現場で混乱を来さないよう、ある程度細かく規定するが、疫学研究の形態や内容、規模、期間が極めて多様であるため、運用面では、研究者の主体性や倫理審査委員会の判断にかなりを委ねる必要があることから、細かな手引書ではなく、基本的な考え方、基本原則を示すものとする。
  • 個人情報保護は、倫理的観点の一環である個人の尊厳と人権の尊重に含まれるものと位置づけられる。
  • 個人情報保護法案では、研究については概ね適用除外とされるが、同法案第4〜8条にある5つの基本原則は適用されるものであり、本指針でも、それぞれ対応する内容を規定している。 

2 適用範囲(指針第1の2)

  • 本指針の策定に当たっては、はじめは医学研究一般を対象とすべきとの議論があったが、非常に範囲が広くまとまらないと考えられたため、疫学研究に絞られた経緯がある。
  • 疫学的な手法については、心理学など医療以外の分野の研究でも用いられており、そのような研究に対し、倫理審査委員会を設置して厳格に審査するという本指針の手続きを適用することは難しいと考えられるため、適用対象外とされている。
  • @の法律の規定に基づき実施される調査については、健康の保持増進など行政上の必要から、権限を付与されて行政事務として実施されるものであり、必要に応じ手続きや適用要件が定められるので、本指針の対象には当たらない。
  • Aの連結不可能匿名化された情報のみを用いる場合には、人体由来試料の使用に伴う問題や、個人情報に関わる問題が生じないことから、本指針で規制する必要はない。なお、米国の規則でも、連結不可能匿名化された既存のデータについては、適用対象外となっている。
  • Bについては、法的規制が講じられている治験を適用対象から除くとともに、研究であると同時に診療でもある臨床研究については、そのあり方について別途の検討が必要と考えられるため、適用対象から除外している。

3 研究者等が遵守すべき基本原則(指針第1の3)

  • 研究機関の長は、当該研究施設で行われる研究に責任を負うことから、どのような研究が行われているかを把握しておくべきである。このため、本倫理指針では、ゲノム解析研究指針と同様に、研究者は所属研究機関の長に研究の許可を申請し、長が倫理審査委員会の意見を聞いて判断するという仕組みとしている。

4 研究機関の長の責務等(指針第1の4)

  • 研究機関が小規模であること等により倫理審査委員会を設置できない場合に、ゲノム解析研究指針と同様に、他の機関の倫理審査委員会に審査を依頼できることとしている。
  • 国立療養所のように研究に特化していない機関が共同して疫学研究を実施する場合に、いずれかの機関に倫理審査委員会を設置することは難しいと考えられるため、こうした場合には共同して倫理審査委員会を設置できることを明らかにしている。

5 倫理審査委員会(指針第2の5)

  • 倫理審査委員会の意見は、これを尊重して研究の実施等について許可又は不許可を決定する立場にある研究機関の長に正確に伝えられる必要があることから、様式や手続きは問わないが、文書で示される必要があるとしている。((1)@関係 パブリックコメントへの回答)
  • 倫理審査委員会については、研究機関に設置するだけでなく、学会が倫理審査委員会を設置した場合にこれを積極的に活用することも一つの方法と考えられるため、事前に包括的に他の倫理審査委員会に付議できる旨を定めることができるとしている。((2)B関係 パブリックコメントへの回答)
  • 既に倫理審査委員会を置いている研究機関がさらに別途共同で倫理審査委員会を置く場合には、既に置かれている倫理審査委員会の了解が必要でがあると考えられるため、倫理審査委員会がその旨を定めることにより、可能となる。((2)B関係)
  • 研究者等が倫理審査委員会の判断に不服がある場合の不服申立手続きについては、倫理審査委員会の判断で定めることができるため、本指針では個別に規定していない。

6 疫学研究に係る報告(指針第2の6)

  • 研究期間が数年にわたる場合の研究実施報告書の提出時期については、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成13年11月28日 内閣総理大臣決定)において、研究開発課題の中間評価が例えば3年程度を一つの目安として定期的に実施するものとされていることを参考とし、同様に規定している。(@細則関係 パブリック・コメントへの回答)

7 研究対象者からインフォームド・コンセントを受ける手続き等(指針第3 の7)

  • 仮に、指針ではインフォームド・コンセントを緩和できる条件を挙げるに止め、これを満たす場合に倫理審査委員会がインフォームド・コンセントの要件を緩和・免除できることとした場合、倫理審査委員会の判断の権限が広すぎると考えられる。このため、疫学研究を区分して、それぞれの原則的な方法を規定した。
  • インフォームド・コンセントを受けることが原則であるが、疫学研究の内容によっては、これを受けられなかったり、受けることが適切でない場合があり得る。
  • このため、インフォームド・コンセントを受ける手続き等について、他の方法によるだけでなく、緩和や免除等も認められることを明示している。
(1)介入研究
 ア 人体から採取された試料を用いる場合
  • 個人情報保護の理念からすれば、個人情報の取扱いは本人の同意を得ることが原則であり、また、通常は、研究の趣旨を説明し研究対象者が納得しないと、介入を受け入れないと考えられるので、インフォームド・コンセントを受けることが可能と考えられる。
  • さらに、試料の提供が侵襲性を有する場合には、事後的な救済等も視野に入れて、文書により説明し文書によりインフォームド・コンセントを受けることを原則とする。
  • これに対し、試料の提供が侵襲性を有しない場合には、文書によることまでを求める理由に乏しく、個人情報保護法案でも文書によることを求めていないため、文書によらなくとも良いこととする。
  • この場合の受けた同意に関する記録については、必ずしも研究対象者ごとである必要はないが、具体的に記述される必要がある。

 イ 人体から採取された試料を用いない場合

  • 個人情報保護の理念から、インフォームド・コンセントを受けることを原則とするが、文書によることまでを求める理由に乏しく、個人情報保護法案でも文書によることを求めていないため、文書によらなくとも良いこととする。
  • また、地域全体に保健指導を行う場合のように、集団単位で行う介入研究については、そもそも研究者等が研究対象者と接触しないことも多いため、インフォームド・コンセントを条件とすることができないことが想定されるが、この場合でも、研究実施についての情報公開を行い、研究対象となることを拒否できるようにする。
    なお、拒否できるようにする場合の手続きについては、拒否するとの申し出があった場合には研究対象者としないことが必要である。
(2)観察研究(人体から採取された試料を用いない場合)
  • 観察研究については、研究対象者が大規模な集団であったり、研究実施に関する説明を行うこと自体が介入となる等の指摘がある。
  • 個人情報保護法案では、個人情報取扱事業者は、本人に通知し又は公表することを条件に、個人情報の利用目的を変更する途を開いている(第23条第3項)ことから、既存資料等を用いる観察研究について、同様に、情報公開を条件に研究に利用する途を開くものとする。
  • ただし、研究計画書の立案時以後、当該研究に用いるために収集した資料を用いる場合には、研究実施についての情報公開を行い、研究対象となることを拒否できるようにする。
    なお、拒否できるようにする場合の手続きについては、拒否するとの申し出があった場合には研究対象者としないことが必要である。

8 資料の保存及び利用(指針第4の10)
(1)資料の保存について

  • 観察研究においては、長期にわたり蓄積した資料が大きな意味を持つことがある。また、せっかく提供を受けた資料を廃棄すると、再度提供を求めなければならないことも生じ、かえって資料を尊重していないとも考えられる。
    このため、研究終了後には廃棄することを原則とするのではなく、保存する場合は適切な管理を求めるものとする。
(2)既存の人体由来試料の利用について
  • 既存の人体由来試料を研究に利用する場合、原則として研究対象者の同意を受け、記録を作成することが必要であるが、同意を受ける際に、試料を利用する研究が必ずしも特定できないため、包括的な同意とならざるを得ない場合がある。
  • この場合、同意を受けるに当たっては、試料がどのように研究に利用されるのかが理解されるように説明することが望ましい。

9 他の機関等の資料の利用(指針第4の11)

  • 既存の人体由来試料を研究に利用するため他の研究機関に提供する場合、原則として研究対象者の同意を受け、記録を作成することが必要である。
  • しかし、研究者が個々の研究対象者の連絡先を継続的に把握することは困難であり、インフォームド・コンセントを受けることができないことも多い。
  • 匿名化されている資料の提供については、
  • @ 匿名化は客観的な行為であると考えられ、倫理審査委員会に審査を求める必要性が必ずしも高くないこと。
    A 倫理審査委員会の審査を要することとした場合、審査を受ける資料提供機関は、研究計画書を倫理審査委員会に付議することはなく提供する旨だけを付議することとなるので、過大な負担となりかねないこと。
    B ゲノム解析研究指針でも倫理審査委員会への付議を求めておらず本指針の規制も、ゲノム解析研究指針の範囲内にとどめるべきであると考えられること。
    といった考え方から、倫理審査委員会に付議を要しないものとしている。
  • 一方、匿名化されていない資料の提供については、研究に利用する目的で既存資料等の提供のみを行う機関は、共同研究機関ではないが、資料の管理に責任を負う機関として、資料提供に係る研究の適否を判断する立場にあるため、資料提供に係る研究の適否を判断するため、倫理審査委員会に付議することを求めることとしている。

10 用語の定義(指針第5の13)
(1)「疫学研究」

  • 臨床医が、自分が主治医を勤める患者を念頭に置き、あるいは、所属する医療機関に将来来院する患者を念頭に置いて、過去のデータを整理する行為は、診療に区分される。
  • 診療において幅広く共有されるべき知見が得られ、これが論文とされたり医学書に取り入れられる等の場合も考えられる。このような場合には、知見が得られた後、学会で発表する等のための準備や発表する行為は疫学研究に該当する。ただし、その際に改めて疫学研究に該当する行為を行うのでなければ、本指針は適用されない。
  • 産業医や学校医が、保健データを本来の役割により使用する行為、例えば、産業医が、社員の健康診断の結果血圧が高い者が多かった場合に、作業過程や環境との関係を調べる行為については、逐一倫理審査委員会に付議する必要はなく、本指針は適用されない。
  • いわゆるがん登録事業には本指針は適用されないが、本指針の全部又は一部を準用することが望ましく、その場合の基本的考え方は別紙2(疫学研究に関する倫理指針とがん登録事業の取扱いについて)のとおりである。
  • 検診の精度管理のための事業は、検診事業に含まれるものである。

(2)「既存資料等」

  • 疫学研究では、研究計画書を立案した後、研究とは無関係に診療等の目的で収集された資料について、事後的に研究に利用するために提供を求める場合がある。こうした場合にも、研究計画の立案時までに収集された資料と同じ要件の下で提供できるようにすることが適当と考えられるため、両者を一括して規定している。


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