No.17006 宇都宮市で発生したEscherichia albertiiによる食中毒事例について

[ 詳細報告 ]

分野名:細菌性食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2018/03/22
衛研名:宇都宮市衛生環境試験所
発生地域:宇都宮市
事例発生日:2017/05/10
事例終息日:2017/5
発生規模:
患者被害報告数:137名
死亡者数:0名
原因物質:Escherichia albertii
キーワード:Escherichia albertii

背景:
2017年5月、宇都宮市内の研修施設において野外活動に参加した3つの小中学校の生徒及び引率者274名中137名が下痢等の症状を呈し、調理済食品、患者便及び従事者便からEscherichia albertiiが分離され、所管保健所は研修施設で提供された食事を原因とする食中毒と断定した。

概要:
2017年5月12日、「5月9日~11日にかけ、学校行事として研修施設の野外活動に参加したA中学校1年生のうち複数名が、下痢等の症状を呈している。」旨、市民から保健所に通報が入り、即日調査を開始した。その後、同月11日~12日にかけ、同施設の同活動に参加したB小学校5年生及びC小学校5年生においても同様の症状を呈している者がいる旨の情報が入り、これらについても併せて調査した。
調査の結果、5月10日の12時を初発としてA中学校では140名中96名(68.6%)、B小学校では81名中27名(33.3%)、C小学校では53名中14名(26.4%)が発症し、いずれの学校でも腹痛、下痢、発熱(37.0~39.2℃、平均37.8℃)、頭痛および吐気を主徴としていた。
保健所では、患者が野外活動参加者に限られクラスや宿泊部屋における偏りがなかったこと、限定された時間内に集中的に発症しており感染症を疑う状況がなかったこと、患者の共通食が野外活動中の食事に限られたこと、調理済食品及び患者便並びに従事者便からE. albertiiが分離されたことなどから、A中学校については5月9日昼食から11日昼食までに提供された食事のいずれか、B小学校及びC小学校については5月11日昼食から12日朝食までに提供された食事のいずれかを原因とする食中毒と断定した。

原因究明:
患者便23検体及び従事者便11検体、さらに5月9日~12日までの調理済食品52検体、拭き取り15検体、5月6日と5月10日の原材料7検体及び別ロットの原材料4検体の合計112検体について食中毒原因菌及びノロウイルスの検査を実施した。その結果、調理済食品6検体、患者便12検体、従事者便1検体からE. albertiiを分離した。陽性となった調理済食品は、10日朝食の混合食品(ウインナー・筑前煮・春雨サラダ)、10日夕食のごはん・サラダ・混合食品(南蛮漬け・塩焼きそば・肉じゃが)、11日朝食の生野菜サラダ、11日昼食のシーザーサラダであった。
本事例では、研修施設内で提供された食事のいずれかを原因とする食中毒と断定されたが、原材料からE. albertiiは分離されず、施設の拭き取り検体も全て陰性となり汚染経路の原因究明には至らなかった。

診断:
E. albertii同定用プライマーを用いた診断的マルチプレックスPCR及びE. albertiiの病原遺伝子の一つとして報告のあるcdtBを標的としたPCRを行い、E. albertiiと同定した。

地研の対応:
食品と拭き取り検体は緩衝ペプトン水において37℃で20時間増菌培養後、DHL寒天培地及びSSB寒天培地に塗抹し37℃で20時間培養した。便検体は直接DHL寒天培地及びSSB寒天培地に塗抹し同様に培養した。食品、患者便及び従事者便で発生した乳糖及び白糖非分解の白色集落について、赤痢菌を疑いTSI寒天培地、LIM培地、VP半流動培地、SC培地、酢酸ナトリウム培地に釣菌し、赤痢菌免疫血清で血清型別試験を行った。また、簡易同定キット(API20E)を用いて同定結果を確認した。
その結果、全て同一の生化学的性状を示し、赤痢菌免疫血清で凝集せず、簡易同定キットではEscherichia coliと同定された。次に非典型的性状の下痢原性大腸菌を疑い、下痢原性大腸菌の病原遺伝子(VT1/2、VT2f、LT、ST1a、ST1b、invE、eae、afaD、aggR及びastA)を標的としたPCRを行ったところ、eae陽性となり、その他の病原遺伝子は陰性であった。追加検査として大腸菌に特異的なb-グルクロニダーゼ遺伝子(uidA)を標的としたPCRを実施したが、全て陰性であった。
eae陽性、uidA陰性の結果から E. albertiiを想定し、E. albertii同定用プライマーを用いた診断的マルチプレックスPCR及びE. albertiiの病原遺伝子の一つとして報告のあるcdtBを標的としたPCRを行ったところ、lysP陽性、mdh陽性、clpX陽性及びcdtB陽性となり、当該分離株を E. albertiiと同定した。

行政の対応:
研修施設で提供された食事を原因とする食中毒と断定し、3日間の営業停止処分とした。

地研間の連携:
平成24年度に秋田県健康環境センターにおいてE. albertiiの分離同定法に関する研修を受講しており、E. albertiiの検査を効率的に実施することができた。

国及び国研等との連携:
E. albertiiの検査法等について、国立感染症研究所感染症疫学センター・村上光一先生にご助言をいただいた。

事例の教訓・反省:
E. albertiiは特徴的な生化学的性状を示さないことから、 E. coliと誤同定する可能性があることを実感した。今後は、本事例のようにeae陽性で非典型的な性状を示す大腸菌類似株が得られた場合には、E. albertiiを疑い検査を実施する必要性が示唆された。

現在の状況:

今後の課題:
E. albertiiの分離同定法のマニュアル化

問題点:

関連資料:
宇都宮市で発生したEscherichia albertiiによる食中毒事例について、病原微生物検出情報、Vol.38、p175-176:2017年8月号