No.18016 イヌサフランの誤食による食中毒事例

[ 詳細報告 ]

分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:北海道立衛生研究所
報告者:北海道立衛生研究所 生活科学部 高橋正幸
事例終息:事例終息
事例発生日:2018/04/22
事例終息日:2018/04/22
発生地域:岩見沢保健所管内
発生規模:1家族2名喫食
患者被害報告数:2名
死亡者数:1名
原因物質:植物性自然毒(コルヒチン)
キーワード:イヌサフラン、コルヒチン、ギョウジャニンニク、北海道

概要:
平成30年4月22日、午後5時頃、岩見沢保健所管内在住の1家族2名が、自宅敷地内に生えていた植物をギョウジャニンニクと思い採取し、ジンギスカンの具材として喫食した。同日夜から下痢、嘔吐等の症状を呈し、うち1名が4月24日午前6時30分頃に同管内の医療機関に救急搬送された。同保健所の調査の結果、有症者が当該植物を採取した場所にイヌサフランが生えていたこと、有症者の症状がイヌサフランに含まれる毒成分コルヒチンによる中毒症状と一致したことなどから、同保健所はイヌサフランを原因食品とする食中毒と断定した。救急搬送された1名は4月24日に搬送先の医療機関で死亡した。なお、道立衛生研究所において、現地で確保された植物の特徴がイヌサフランと一致することを確認し、イヌサフランに含まれる毒成分であるコルヒチンを検出したことから、当該植物をイヌサフランと同定した。

背景:
近年、全国的に高等植物による食中毒が増加している。イヌサフラン(園芸名:コルチカム)はギョウジャニンニクなどと誤認しやすく、誤食による死者が急増している食中毒原因植物である。

地研の対応:
岩見沢保健所から「有症者の調理残品は確保できなかったが、当該植物採取場所から採取した植物の形態学的鑑別及び理化学的分析を実施して欲しい」との依頼を受けた。搬入された植物検体について試験を実施した結果、イヌサフランとの形態が一致したこと、さらに植物からコルヒチンを検出したことから、イヌサフランと同定した。なお、本事例において当研究所での有症者の吐物や血液、尿などの生体試料の分析は実施していない。

行政の対応:
岩見沢保健所は、岩見沢警察署から有毒植物による食中毒が疑われる患者が死亡したとの情報提供を受け、有症者からの聞き取り、治療にあたった医師からの聞き取り、自宅敷地内における採取場所の状況確認等を行った。植物採取場所からイヌサフランと思われる植物を採取し、道立衛生研究所に鑑定を依頼した。外観の特徴やコルヒチンを検出した成分検査の結果から、当該植物はイヌサフランと同定された。同保健所は本同定結果及び有症者の植物採取場所にイヌサフランが生えていたこと、有症者の症状がイヌサフランに含まれる毒成分コルヒチンによる症状と一致したことなどから、イヌサフランを原因食品とする食中毒と断定した。
通常、家庭で発生した食中毒について公表は行わないが、死亡者が発生した特異的な事例であること、また有毒植物による食中毒予防を広く道民に注意喚起するために事例の公表を行った。加えて、管内各市町、大型スーパー及びホームセンターに道作成の「毒草ハンドブック」を配布し、窓口等への設置を依頼した。また、空知総合振興局にて有毒植物による食中毒予防のパネル展を実施し、来庁者、職員への周知を図った。

原因究明:
岩見沢保健所は有症者からの聞き取りに基づく調査により、自宅敷地内の当該植物採取場所にイヌサフランと思われる植物及び刈り取られたような痕跡を発見した。この場所からイヌサフランと思われる植物を採取し、道立衛生研究所へ鑑別を依頼した。

診断:
搬入された検体についてHPLC-UVで分析したところ、葉・球根含む全草検体から0.91 mg/g、球根のみの検体から0.50 mg/gのコルヒチンを検出した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
聞き取り調査等によると、有症者らは数年前にギョウジャニンニクを自宅敷地内に植えたが、その後植え替え等を経て、今年初めて採取を試みた。しかしながら、採取した植物はギョウジャニンニクではなくイヌサフランで、臭い等を良く確認しないまま調理・喫食したため本事例が発生したと考えられる。食用植物を栽培する家庭菜園に有毒植物を混栽しないこと、異常を感じた際には一刻も早く医療機関を受診することなど、住民への注意喚起が必要である。
食中毒原因調査目的の分析において、調理残品が確保できなかった場合、喫食したと考えられる植物の部位を分析することで、体内に摂取した毒量が推定される。今回は喫食が推定される「葉」ではなく「葉・球根を含む全草」として分析を実施したので、検体を分析する際にはその時点で判明している聞き取り調査結果等をふまえて、検体の区分けを行い、今後の資料・情報にもつながる形で分析を実施することが望ましい。

現在の状況:
道立衛生研究所では毒草による食中毒を防止する啓発活動として、平成20年度より北海道食品衛生課及び札幌市と合同で「春の山菜展」を開催しており、イヌサフランの誤食による食中毒の発生防止に関して特に強く注意喚起を行っている。また、有毒植物による食中毒発生時に対応すべく、形態学的鑑別を行う際に有用な当所薬用植物園の充実及び化学的分析に関する基礎的研究に取り組んでいる。

今後の課題:
イヌサフランの誤食による食中毒は北海道内で4年連続死者が発生している。イヌサフランをはじめとする植物性自然毒による食中毒が多数発生する前の3~4月期に、より効果的な注意喚起を行う必要がある。また、食中毒が発生した際に迅速且つ正確に対応できるよう、検査体制のより一層の充実が求められる。

問題点:

関連資料:
1) 佐藤正幸, 姉帯正樹, 南収:道衛研所報, 53, 82-83 (2003)
2) 佐藤正幸, 姉帯正樹, 南収:道衛研所報, 54, 107-108 (2004)
3) 佐藤正幸, 姉帯正樹:道衛研所報, 60, 45-48 (2010)
4) 藤本啓, 姉帯正樹, 佐藤正幸:道衛研所報, 64, 75-76 (2014)
5) 髙橋正幸, 藤本啓, 佐藤正幸:道衛研所報, 66, 99-100 (2016)