一般社団法人Healthcare BCP コンソーシアムを拠点として守る災害時の命と健康

『保健医療科学』第68巻第2号、P96-102 (2019年5月)
特集:健康危機管理 ―産学官連携を通じて次の災害に備えるために― <報告>

PDF 一般社団法人Healthcare BCPコンソーシアムを拠点として守る災害時の命と健康

 

中尾博之 1),有賀徹 2,3),坂本哲也 4),野口英一 5),横田裕行 6,7),溝端康光 8),田中淳 9)
1)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科災害医療マネジメント学講座
2)独立行政法人労働者健康安全機構
3)学校法人昭和大学
4)帝京大学医学部救急医学講座
5)戸田中央医科グループ災害対策特別顧問
6)日本医科大学大学院医学研究科救急医学分野
7)日本医科大学付属病院高度救命救急センター
8)大阪市立大学大学院医学研究科救急医学
9)東京大学情報学環総合防災情報研究センター

 

抄録
平成16年,内閣府「民間と市場の力を活かした防災戦略の基本的提言」によると,大災害に備えるためには地域連携力や企業との協力体制のある平時社会システムが必要であると述べられている.しかし,災害時のHealthcare 継続計画(Healthcare BCP)においては,平時に行われていないことを,平時と異なる仕組みで実施しなければならない.
地域のHealthcareの組織化と役割分担,地域としてインフラの維持,医薬品の優先供給,避難所状況の把握のもとに,各施設単位でのBCPと地域一体型としての計画,「マクロBCP」が不可欠である.
さらに,Healthcare領域,インフラ・医療関連業界,生活レベルを安定化させる業界の 3 層構造間における「組織間学習」による相互理解を行う場が必要である.このような業種を超えた組織間学習の場として,平成29年11月に一般社団法人「Healthcare BCP コンソーシアム(HBC)」を設立するに至った.これは,内閣府が指摘する社会システムともなる.この基本概念は,異職種が目的を達成するためにともに知恵を出し合う機会を持ち,全体としてのレベルアップにつなげていく「能力構築連携」を継続的な進化を伴って成し遂げていくことである.また,災害時の地域医療対応能力は絶妙のバランスで構築された「災害医療の積木構造」からなり,コーディネートに係る経験,知識を持つ人材育成が不可欠である.
岡山県における2018西日本豪雨災害では,連携体制は構築(能力構築連携)されておらず,内外の支援組織(積み木片)を絶妙のバランスでマネジメントするために「倉敷地域災害保健復興連絡会議」(KuraDRO(クラドロ))が設置された.また,早期の保険医療移行は地域医療の底上げに寄与した.一方,準備期からのミクロ及びマクロのBCPを策定する制度がまだ一般的ではなかったために,医療の局所または全体像を俯瞰できる機会を失ってしまった.①被災範囲が比較的狭くために地域外からの支援を受けやすかったこと,②被災地域の結びつきが強かったことによって限局対応で済んだが,大災害では当てはまらない.
HBCを中心として,学術的な助けによる努力評価指標の設定,各種規格設定,教育・訓練仕法の確立を行う必要がある.

キーワード:評価指標,規格,積木構造,能力構築連携,バランス,組織化

 

Abstract
Although it is necessary to maintain a peacetime social system through regional cooperation and cooperation with companies, the healthcare business continuity plan (healthcare BCP) must be implemented under a different mechanism from peacetime onward.
Healthcare BCP has a double structure: BCP in each hospital and region. It aims to maintain a place for inter-organizational learning beyond specialized fields. The “Healthcare BCP Consortium (HBC)” was established as a place to offer assistance for the social system that the Cabinet Office selects. The basic concept involves cooperation for ability development in different fields and ability development to ensure the balanced community medicine.
In the 2018 West Japan heavy rain disaster in Okayama Prefecture, the Kurashiki disaster recovery organization (Kuradro) was established to manage the overview of the support organizations.
It is necessary to establish some disaster evaluation indicators, various standards, education, and training
systems centering on the HBC.

keywords: disaster evaluation indicators, standards, structure built with a stack of wood pieces, cooperation for ability development in different fields, balance, organization