No.19004 トリカブトの混入による食中毒

[詳細報告]

分野名 自然毒等による食中毒
衛研名 北海道立衛生研究所
報告者  
事例終息 事例終息
事例発生日 2019/04/25
事例終息日 2019/04/25
発生地域 小樽市保健所管内
発生規模 1家族2名喫食
患者被害報告数 2名
死亡者数 0名
原因物質 アコニチン
キーワード トリカブト、アコニチン、コジャク(シャク)、北海道

概要:
2019年4月25日、小樽市保健所は、同保健所管内在住の1家族2名が、山中で採取した野草「コジャク(シャク)」を自宅で調理・喫食し、下痢、嘔吐、血圧低下等の症状を呈しているとの連絡を医療機関から受けた。北海道立衛生研究所にて調理品残品を検査したところ、トリカブトに含まれる毒性成分であるアコニチンを検出した。同保健所は、有症者の症状がトリカブトによる食中毒症状と一致すること、調理品残品からアコニチンを検出したことなどから、採取した野草の中にトリカブトが混入していたことが推定され、アコニチンを原因物質とする食中毒と断定した。

背景:
例年、山菜と有毒植物の誤認による食中毒が、葉の形だけでは見分けがつきにくい春を中心に発生している。北海道では、2012年4月に1家族3名がトリカブトを山菜のニリンソウと誤食して、2名が亡くなる事例や、2016年4月に1家族2名がバイケイソウをギョウジャニンニクと誤食して体調不良を訴える事例が発生している。 シャクはコジャク、ヤマニンジンなどの別名を有するセリ科の植物であり、日本全国に分布し、産地の湿った林中に生える多年草である。食べても安全な山野草に位置づけられているが、葉の形態がドクニンジンと類似しており、誤食による食中毒事例が過去に発生している。

地研の対応:
小樽市保健所からの依頼により、同保健所が回収した、患者の隣家に譲渡されていた野草152本及び医療機関にて保管されていた調理品(以下、「検体」という)の形態学的鑑別及び理化学的分析を行った。その結果、調理品からトリカブトの毒性成分であるアコニチンを検出した。

行政の対応:
小樽市保健所は、市内医療機関から不整脈などの症状が診られることからトリカブト食中毒患者等発生届を受けた。同保健所は搬送先の医療機関にて患者と面会し、喫食状況や野草の採取状況等を確認した。道立衛生研究所による検体の検査の結果、調理品からアコニチンを検出したことを受け、喫食したシャクの中にトリカブトが混入していたと推察し、アコニチンを原因物質とする食中毒と断定した。 通常、原因施設及び発生場所が家庭である場合、食中毒について公表は行わないが、発生状況が特異であること、住民へ同様の食中毒について予防啓発する必要があると考えられたことから、事例の公表を行った。加えて、有毒植物による食中毒予防を図るため、市内の青果物販売店、高齢者関係団体、市関係施設、量販店、及びホームセンターにリーフレットの掲示または配布、道作成の「毒草ハンドブック」の設置について依頼するとともに、市ホームページや広報誌による周知を実施した。

原因究明:
小樽市保健所は有症者からの聞き取りに基づく調査により、道立衛生研究所へ確保した検体の形態学的鑑別及び理化学的分析を依頼した。

診断:
搬入された調理前の検体152本を、その形態及び道立衛生研究所薬用植物園植栽のシャクと直接比較した結果、148本は特徴が一致したことからシャクと同定した。その他、1本をフキ、1本をヨモギと同定し、2本は同定に至らなかった。調理品については、調理によって判別が困難であるものの、大半はシャクを茹でたものと認められた。 調理品及び形態から同定できなかった2本の不明な植物体について、LC-MS/MSによるトリカブトの毒性成分であるアコニチン検出試験を行った。その結果、調理品1gあたり、アコニチン0.03mgを検出した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
近年の植物の誤食による食中毒は「ギョウジャニンニクとイヌサフラン」や「ニラとスイセン」といった家庭菜園での誤認による事例が増加傾向にあるが、依然として野草採取による食中毒事例も少なくない。シャクやニリンソウなどの食用野草の生育環境にはトリカブトなどの有毒植物も生育していることがあるため、野草採取の際は1本1本確認し、食用野草の中に有毒植物が混ざらないよう最新の注意を払わなくてはならない。道内では有毒植物の誤食による食中毒が続いているため、継続的な注意喚起を行い、食中毒の発生を未然に防止することが求められる。

現在の状況:
道立衛生研究所では有毒植物による食中毒を防止する啓発活動として、平成20年度より北海道食品衛生課及び札幌市と合同で5月上旬に「春の山菜展」を開催しており、有毒植物の誤食による食中毒の発生防止に関する注意喚起を行っている。また、北海道の山菜採りは4月下旬頃から始まっているため、4月下旬に道立衛生研究所薬用植物園を一般開放し、見分けが難しい食用植物と有毒植物の芽だし期の観察による食中毒の発生防止のための啓発活動も行っている。また、有毒植物による食中毒発生時に対応すべく、形態学的鑑別を行う際に有用な薬用植物園の充実及び理化学的分析に関する基礎的研究に取り組んでいる。

今後の課題:
北海道では高等植物による食中毒が5年連続で発生している。高等植物による食中毒の発生を未然に防ぐため、関係機関との協力による、より効果的な注意喚起を行う必要がある。また、食中毒が発生した際に迅速且つ正確に対応できるよう、検査態勢のより一層の充実が求められる。

問題点:

関連資料:
1)登田美桜, 畝山智香子, 春日文子:食衛誌, 55(1), 55-63 (2014) 2)食品衛生検査指針 理化学編2015, 905-910 3)北海道保健福祉部健康安全局食品衛生課:食中毒の発生状況(平成24年)