No.19007 イヌサフランによる食中毒

[詳細報告]

分野名 自然毒等による食中毒
衛研名 群馬県衛生環境研究所
報告者  
事例終息 事例終息
事例発生日 2019/04/17
事例終息日 2019/04/20
発生地域 群馬県
発生規模
患者被害報告数 2名
死亡者数 1名
原因物質 植物性自然毒(イヌサフラン)
キーワード 植物性自然毒 コルヒチン イヌサフラン

概要:
 2019年4月18日(木)に、県内の医療機関から「ギョウジャニンニクとイヌサフランを間違えて喫食した可能性のある患者が救急搬送された。」旨の連絡が保健福祉事務所(保健所)にあった。 同保健所が調査したところ、患者は4月15日(月)に知人宅に自生していた野草を譲り受け、同野草をギョウジャニンニクと認識して、4月17日(水)昼に自宅で炒め物にして喫食していたことが判明した。4月20日(土)に採取場所に自生していた2種類の野草を群馬県立自然史博物館で鑑定したところ、有毒植物のイヌサフランが含まれていることが確認された。また同日群馬県食品安全検査センターで当該植物を検査したところ、コルヒチンが検出された。  同保健所では、当該野草の採取場所にイヌサフランが自生していたこと、患者の症状(嘔吐、下痢、呼吸困難等)がイヌサフランによる食中毒と合致していたこと、当該植物の鑑定及び検査などから植物性自然毒(コルヒチン)を含むイヌサフランを原因とする食中毒と断定した。 患者2名中1名は、4月22日(月)に死亡した。

背景:
イヌサフランはユリ科の球根植物で園芸植物として広く植えられており、葉はギョウジャニンニクやギボウシ、球根はジャガイモやタマネギと間違えられることがある。イヌサフランはコルヒチンを含んでおり、これを摂取すると嘔吐、下痢、皮膚の知覚減退、呼吸困難などの症状を引き起こし、重症の場合は死亡することもある。過去10年間(2009~2018)に全国でイヌサフランによる食中毒が13件発生しており、患者19人中8人が死亡している。群馬県内では本事例が初めての発生である。

地研の対応:
保健所から、採取場所に自生していた2種類の野草(イヌサフラン様植物及びギョウジャニンニク様植物)のコルヒチン検査の依頼があり、定性・定量検査を実施した。

行政の対応:
採取場所に自生していた野草が形態学的にイヌサフランであることが確認された4月20日(土)に、イヌサフランの誤食による食中毒事件として速やかに事件概要を公表し、県民に対し有毒植物の誤食による食中毒予防の注意喚起を行った。

原因究明:
保健所職員が、患者が喫食した植物が採取された場所を確認したところ、ギョウジャニンニクに類似した2種類の植物が自生していた。保健所はそれらの2種類の植物の形態鑑定を群馬県立自然史博物館に、コルヒチンの検査を群馬県食品安全検査センターに依頼した。
なお、喫食残品はなかった。

診断:
2種類の植物は形態鑑定により、イヌサフランとギョウジャニンニクであることが判明した。
2種類の植物についてLC/MS/MSで分析したところ、イヌサフラン様植物(2検体)の葉からコルヒチンが0.99mg/g及び0.81mg/g、球根からコルヒチンが1.45mg/g及び1.58mg/g検出された。ギョウジャニンニク様植物からはコルヒチンは検出されなかった。

地研間の連携:
東京都健康安全研究センターからコルヒチン標準品の分与を受けた。

国及び国研等との連携:
 特になし

事例の教訓・反省:
事件当時コルヒチンの標準品を所持していなかったが、東京都健康安全研究センターから分与を受けることができ、迅速に検査結果を出すことができた。有毒植物による食中毒は毎年発生しており、原因究明における検査機関の役割は重要である。発生事案に速やかに対応できるよう標準品の確保等試験検査体制を整えておく必要がある。

現在の状況:
発生頻度の高い自然毒の標準品を確保した。今後検査可能な項目を増やしていく予定である。

今後の課題:
 多くの自然毒による発生事案に備えた標準品の確保等試験検査体制の整備が必要である。

問題点:
課題解決には各地研単独では困難な場合がある。緊急時に備えた標準品分与等の地研のネットワークを作ることが必要と考える。

関連資料: