No.19016 Escherichia albertiiによる食中毒疑い事例について

[詳細報告]

分野名 細菌性感染症
衛研名 愛媛県立衛生環境研究所
報告者 衛生研究課 微生物試験室 細菌科 浅野由紀子
事例終息 事例終息
事例発生日 2016/10/21
事例終息日 2016/10/22
発生地域 愛媛県
発生規模
患者被害報告数 22名
死亡者数 0名
原因物質 不明
キーワード Escherichia albertii、eae遺伝子、腸管病原性大腸菌(EPEC)、病原因子遺伝子検査、食中毒疑い事例

概要:
 2016年10月20~21日に愛媛県内のホテルで開催された1泊2日の研修会の参加者59名中22名が、21~22日にかけて下痢、腹痛等を主症状とする胃腸炎症状を発症した。保健所で常法に基づき培養同定検査による食中毒菌検索と共に、リアルタイムPCRを用いた病原大腸菌の病原因子遺伝子検査を実施した。その結果、有症者10名中6名からeae遺伝子保有株を検出し、当該菌株を非定型のEPECと同定した。
 その後、2016年11月9日付け健感発1109第2号厚生労働省健康局結核感染症課長通知が発出され、改めて保存株を衛生環境研究所において精査した結果、当該菌株がE. albertiiであることが判明した。

背景:
愛媛県内ホテルで開催された研修会の参加者59名中22名が、下痢、腹痛等を主症状とする胃腸炎症状を呈した。調査の結果、有症者10名中6名から腸管病原性大腸菌(EPEC)を検出したが、疫学調査の結果、食中毒事例とは断定できず調査は終了した。その後、衛生環境研究所において保存株を精査した結果、当該株がEsherichia albertiiであることが判明した。

地研の対応:
 保健所からの依頼により、E. albertii疑い株6株について同定検査及び分子疫学解析を実施した。診断的マルチプレックスPCR法によりeae、clpX、lysP及びmdhの陽性を確認し、16S rRNA領域の塩基配列がE. albertiiの登録配列と一致したことから、当該菌株は全てE. albertiiと同定した。さらに、PFGE法及びMLST(Multilocus sequence typing)法により、同一由来株による集団感染事例であることを確認した。

行政の対応:
 疫学調査の結果、当該グループと同一メニューを喫食した他の施設利用者に有症者がいないこと、従事者便及び施設等の拭き取り検体から当該菌が分離できなかったことから、食中毒事例とは判断できず、同一原因に暴露したことによる集団発症事例として調査を終了した。

原因究明:
 保健所による調査の結果、当該グループの共通行動は10月20~21日の研修会のみであり、患者の発生状況から、同ホテルでの研修会期間中に何らかの原因でE. albertiiの暴露を受けた集団感染事例と考えられたが、同一メニューを喫食した他のグループからは患者発生が確認されず、感染経路は不明であった。

診断:
保健所では、有症者検便10件について、病原大腸菌(腸管出血性大腸菌含む)、赤痢菌、サルモネラ属菌、ビブリオ属菌、エルシニア、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ、黄色ブドウ球菌、セレウス菌及びウェルシュ菌を対象に、常法に基づき培養同定検査を実施した。さらに、リアルタイムPCRを用いて、病原大腸菌の病原因子(stx1、stx2、eae、lt、STp、STh、aggR)について遺伝子検査を実施した。その結果、有症者10名中6名からeae遺伝子保有株を検出した。当該菌株は、乳糖・白糖非分解、非運動性、β-グルクロニダーゼ陰性であり、典型的な大腸菌ではないものの、EPECと同定した。

地研間の連携:
 なし

国及び国研等との連携:
 なし

事例の教訓・反省:
 保健所検査室では、食中毒疑い事例の病原体検索を実施する際、病原大腸菌は血清型別により病原性の推定を行っていたが、血清型は必ずしも病原性を示すものではないため、病原因子遺伝子検査を実施する体制を整えていた。本事例は、食中毒疑い事例調査において、保健所で大腸菌病原因子遺伝子検査を実施した県内初の事例であり、結果的にE. albertiiによる集団感染事例の探知につながり、病原因子遺伝子検査の有用性を確認した。食中毒疑い事例の原因究明に遺伝子検査は有効なツールであり、今後も行政検査に活用する必要性を認識した。

現在の状況:
 リアルタイムPCRを用いたE. albertii迅速同定法を作成し、保健所検査担当者に技術研修を実施した。一部の保健所ではE. albertiiの迅速同定が可能となった。

今後の課題:
 E. albertiiは特徴的な生化学的性状を示さず、EPECや赤痢菌と誤同定される可能性があること、また本事例のように乳糖白糖非分解のeae保有株を分離した場合には、E. albertiiを視野に入れた検査を実施する必要がある。また、病原体や検査法に関する最新の情報を収集し、各検査施設に適切に周知していくことが重要である。

問題点:
 各検査施設における検査技術の標準化及び検査指導体制の構築並びに行政機関との情報共有。

関連資料:
  阿部祐樹ほか:愛媛衛環研年報, 20, 1-5(2017)