No.20003 バイ貝が原因と疑われる有症事例

[ 詳細報告 ]

分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:新潟県保健環境科学研究所
報告者:調査研究室生活衛生科 小林ゆかり
事例終息:事例終息
事例発生日:2019/10/22
事例終息日:2019/10/22
発生地域:新潟県
発生規模:
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:テトラミン
キーワード:バイ貝、テトラミン、嘔吐、めまい、眼の異常

概要:
2019年10月23日、県内の医療機関から「10月22日に飲食店でバイ貝の酒蒸しを食べた後、めまいや眼がチカチカするなどの症状を訴えて受診した人がいた」との連絡があったことから、保健所が調査した。当該飲食店の当日の利用客は10名で、全員が1人当たり1~3個のバイ貝を喫食しており、営業者自身も2個を試食していた。患者は2個を喫食していた。患者は10月22日17時40分頃当該施設に入店し、喫食10~20分後の同日18時頃に発症した(嘔吐、めまい、眼の異常(焦点が合わない、ちらつき))。患者以外の利用客9名のうち連絡可能であった6名及び営業者自身には同様の症状がないことを確認しており、連絡先不明の3名の発症に関する情報はなかった。 原因食品と疑われたバイ貝は、新潟県水産海洋研究所による鑑別の結果、エゾボラモドキと思われるとのことであった。また、当研究所において調理済み残品2個を検査したところ、それぞれ6.7 mg/個、8.1 mg/個のテトラミンが検出された。

背景:
エゾバイ科エゾボラ属に属するヒメエゾボラ、エゾボラモドキなどの巻貝の唾液腺には有毒なテトラミンが含有されており、唾液腺を除去せずに摂食することで、頭痛、めまい、眼のちらつき、嘔気などを発症する。毎年数件程度の中毒が発生しているが、死亡例はない。テトラミンは水溶性であり、加熱に対して安定で、通常の調理では毒性は失われない。また、加熱調理により、唾液腺中のテトラミンの一部は筋肉や内臓、煮汁に移行する。また、テトラミンのヒトでの中毒量は、「約10 mgという少量でも発症することを示唆する報告もある。 テトラミンの中毒量は50 mg以上というのが妥当だと思われる。」とされている。1)

地研の対応:
保健所から、調理済み残品の貝2個のテトラミン検査の依頼があり、定性・定量検査を実施した。

行政の対応:
保健所は、事案を探知した10月23日に当該飲食店を調査し、清掃状態や従業員の健康状態に問題がないことを確認した。患者の体調不良はバイ貝の酒蒸しを喫食したことによる可能性が高いと推察されたが、当該患者以外にテトラミンによる症状が疑われる利用者がいないこと及び検出されたテトラミンの量が中毒量とまでは言えないことから、食中毒事件と断定されなかった。テトラミンが検出されたことを受けて、10月29日、当該飲食店営業者に対し、今後はバイ貝の調理方法を見直すよう、あらためて指導した。

原因究明:
保健所が当該施設について10月23日に調査を行ったところ、営業者は、刺身用には唾液腺を除去して提供しているが、今回は殻長約4~8cmと小型のためそのまま調理したとのことであり、これが原因と考えられた。保健所は、同日、調理済み残品のバイ貝について、鑑別を新潟県水産海洋研究所に依頼し、テトラミンの検査を当研究所に依頼した。

診断:
バイ貝の鑑別結果は、分類上別種・同種が混沌としている分野であり明確に断定はできないが、エゾバイ科エゾボラモドキと思われるとのことであった。10月28日から10月29日に、調理済み残品2個(殻を除いた重量;貝A=18.0 g、貝B=9.3 g)をそれぞれ筋肉部(唾液腺含む)と内臓部に分けてLC-MS/MSで分析したところ、貝Aから6.7 mg/個(筋肉部4.3mg、内臓部2.4 mg)、貝Bから8.1 mg/個(筋肉部4.9 mg、内臓部3.2 mg)のテトラミンが検出された。今回の試験品は、筋肉と唾液腺の判別が困難であったため、唾液腺を含む筋肉部と内臓部についてそれぞれ分析したが、内臓部からもテトラミンが検出され、調理によってテトラミンが内臓部に移行したものと考えられた。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
事件当時テトラミンの標準品を所持しておらず、標準品を試薬メーカーから入手する必要があったため、検査の初動が遅れた。発生事案に速やかに対応できるよう標準品の確保等試験検査体制を整えておく必要がある。

現在の状況:
これまでに検査経験のある自然毒の標準品については確保している。

今後の課題:
多くの自然毒による事案に備えた試験検査体制の整備が必要である。

問題点:
(※対象項目データは登録されていません)

関連資料:
1) 厚生労働省:自然毒のリスクプロファイル:巻貝:唾液腺毒, https://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_14.html

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