No.20008 老人保健施設におけるヒスタミン集団食中毒

分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:熊本市環境総合センター
報告者:熊本市環境総合センター 武原 弘
事例終息:事例終息
事例発生日:2020/03/17
事例終息日:2020/03/20
発生地域:熊本市北区
発生規模: 老人保健施設で調理された昼の給食を食した利用者および職員
患者被害報告数:30名
死亡者数:0名
原因物質:ヒスタミン
キーワード:ヒスタミン、サバ、青魚、アレルギー、頭痛、顔面紅潮

概要:
老人保健施設で提供された給食を喫食後、施設利用者および職員複数名が頭痛や顔面紅潮などの症状になり、保健所の食品衛生法所管課に連絡された。 当センターへは、発生翌日3月18日と19日に発生現場および原材料の販売店から計10検体が持ち込まれ、即日、原因特定のため高速液体クロマトグラフ質量分析装置にて緊急検査を実施した。 検査の結果、喫食された調理品「サバのオーブン焼き」とその原材料から高濃度のヒスタミンが検出された。

背景:
2020年3月17日、老人保健施設(以下、発生施設)で調理された昼の給食を食べた86名のうち、発生施設の利用者および職員の30名が同日13時から13時30分の間で発症した。有症者は頭痛と顔面紅潮のアレルギー様症状を訴えた。 同日16時50分に食品衛生法所管する熊本市保健所食品保健課(以下、食品保健課)に食中毒発生疑いの連絡が有り、発生施設を調査し下記【概要】のとおり給食の検食等を採取した。

地研の対応:
発生施設と鮮魚小売店からの合計10検体を緊急検査とし優先的に検査を実施した。 結果、上述のとおり給食検食のうちサバを調理したもの(番号1)とその原材料(番号2)から比較的高濃度のヒスタミンが検出された。また、サバを販売した鮮魚小売店の6検体のうち3月12日加工分(番号5、6、7)3検体からも比較的高濃度のヒスタミンが検出された。

行政の対応:
対策委員会等は組織されず食品保健課のみで調査対応。 当センターの検査結果から、被害拡大防止のため鮮魚小売店に残っていた3月12日加工の食材(さば)は全て廃棄処分するよう指導された。

原因究明:
食品保健課が発生施設の調理施設および食材を販売した鮮魚小売店に臨検し、給食の検食と小売店で加工・冷凍保存されていた同日処理の食材計10検体を3月18日に熊本市環境総合センター(以下、当センター)へ検査依頼した。発症状況に関する情報は下記のとおりであった。 ・発症率は、喫食86名に対し30名のため34.8% ・発症時間は、昼食後13時から13時30分で、潜伏1時間程度の短時間で発症

診断:
当センターでは、高速液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS/MS)を使用し定量検査を実施した。検査結果は「表1 ヒスタミン検査結果一覧」のとおり。

表1  ヒスタミン検査結果一覧
番号1 品名;サバのオーブン焼き(発生施設から回収) 状態;3/17調理 結果;5600mg/kg
番号2 品名;原材料のサバ(発生施設から回収) 状態;加工日不明 結果;3400mg/kg
番号3 品名;ジャコのキャベツ炒め(発生施設から回収) 状態;3/17調理 結果;不検出
番号4 品名;白菜のおかか和え(発生施設から回収) 状態;3/17調理 結果;不検出
番号5 品名;原材料の冷凍サバ(鮮魚小売店から回収) 状態;3/12加工 結果;1600mg/kg
番号6 品名;原材料の冷凍サバ(鮮魚小売店から回収) 状態;3/12加工 結果;2400mg/kg
番号7 品名;原材料の冷凍サバ(鮮魚小売店から回収) 状態;3/12加工 結果;2300mg/kg
番号8 品名;原材料の冷凍サバ(鮮魚小売店から回収) 状態;3/14加工 結果;不検出
番号9 品名;原材料の冷凍サバ(鮮魚小売店から回収) 状態;3/14加工 結果;不検出
番号10 品名;原材料の冷凍サバ(鮮魚小売店から回収) 状態;3/14加工 結果;不検出
 * 報告下限値は10mg/kg

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
なし

現在の状況:
現在、当センターでは食品・生活衛生の理化学検査に従事する職員は4名で、平常時の業務に加え食品保健課と協議し自然毒等検査法の確立について優先順位をつけ取り組んでいる。

今後の課題:
当センターにおいては、平成30年から食品・生活衛生、環境の理化学検査機器を7ヵ年リースだったものを機器更新時8ヵ年に延長した。既存のリース機器についても2ヵ年再リースとし経費削減に努めている。 また、自然毒等標準品の保有については、発生状況や有効期限を考慮する必要があると考える。

問題点:
化学物質による食中毒など他の業務に比べ発生頻度が低く人員・予算面からも軽視されがちでは有るが、自然毒等未知物質の検査にあたっては熟練した知識と経験が必要で検査員の育成にも時間がかかる。

関連資料:
熊本市環境総合センター年報 平成31年度(第27号)

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