【疫学情報】 IDSC:新型インフルエンザの治療(09/9/1)国立感染症研究所感染症情報センター2009/09/04

2009年9月1日
新型インフルエンザA(H1N1)の治療

国立感染症研究所感染症情報センター

抗インフルエンザ薬

新型インフルエンザウイルスA(H1N1)に対して、リン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)、またはザナミビル(商品名:リレンザ)などのノイラミニダーゼ阻害剤は効果が期待されるが、アマンタジン(商品名:シンメトレル)またはリマンタジン(国内未承認)は耐性遺伝子が確認されており、推奨されていない。抗ウイルス薬の効果に関しては、新型インフルエンザA(H1N1)に関する知見は限られているが、季節性インフルエンザでは、早期投与により有症状期間を短縮することや、重篤な合併症を防ぐ可能性が報告されており、これらに準じるものと考えられる。有症状期間の短縮は1日前後との報告が多い1)。また肺炎、脳症などを予防できるとする十分なエビデンスはない。新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスに感染したほとんどの症例は、合併症なく短期間で治癒していることと合わせ、生来健康で合併症のリスクが少ない場合には、抗インフルエンザ薬は推奨しないとするガイダンスも多い。米国CDCでは合併症のリスクが高い場合や、入院を要するケースに対しての投与を勧めている2)(「臨床像」の表参照)。WHO(世界保健機構)も合併症のリスクが高い群に対して早期からの投与を推奨している3)。国内では多くの患者に対して抗インフルエンザ薬が投与されているが、投与のタイミング、副作用、耐性の出現、国内備蓄量の限界などの要素を勘案し、投与の必要性を慎重に決定すべきである。

投与量、投与方法

現在までの知見では、季節性インフルエンザと同様に考えていくことが妥当である。具体的な投与量に関しては薬剤の添付文書などを確認されたい。ただし、重症例に対して通常量の倍量を投与している報告もある4)。なおリン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)に関しては、10歳以上の未成年者における異常行動との関連について議論がある。この点に関しては日本小児科学会が、1歳未満を含め、治療の有益性が危険性を上回ると判断された場合、患者・両親の承諾の下で使用することは可能との提言を発表している5)。

その他の治療

1. 解熱剤

 発熱に対する解熱剤(アセトアミノフェンなど)や、脱水症状への補液などの対症療法は、必要に応じて行う。サリチル酸(アスピリンやアスピリン含有薬剤など)やジクロフェナクナトリウム(商品名:ボルタレンなど)やメフェナム酸(商品名:ポンタールなど)は、季節性インフルエンザにおいて、ライ症候群のリスクや急性脳症発症時の致死率の上昇と関連している可能性が指摘されている6)ため、15歳未満には使用すべきではない。

2. コルチコステロイド

インフルエンザ脳症ガイドライン7)において、インフルエンザ脳症の特異的治療として、オセルタミビルやγ-グロブリン大量療法と合わせ、メチルプレドニゾロン・パルス療法が推奨されている。これは季節性インフルエンザによる脳症に対する推奨であるが、現時点では新型インフルエンザによる脳症においても同様に考えることが妥当と思われる。なお、米国からの報告ではステロイドは使用していないようである8)。

3.抗菌薬治療

肺炎等の予防を目的として抗菌薬を投与すべきではない。肺炎を呈しており、細菌感染の合併が疑われるようなケースにおいては市中肺炎に準じて、抗菌薬を使用する。新型インフルエンザA(H1N1)感染後には、黄色ブドウ球菌による重篤な肺炎をきたすことがあり注意を要する12)。

妊婦に関して
妊婦は、新型インフルエンザA(H1N1)感染によって肺炎などの合併症のリスクが特に妊娠後期に高くなることが知られている13)。WHOは、妊婦に対しては速やかにリン酸オセルタミビル(商品名:タミフル)を投与することを勧めている14)。薬剤の安全性は比較的高いものと考えられており、日本産婦人科学会では、服用による利益は、可能性のある薬剤副作用より大きいと判断している15)。

詳細については、下記のページをご覧ください。
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009idsc/treatment0902.html