No.21009 イヌサフラン誤食による食中毒事例(北海道)

分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:北海道立衛生研究所
報告者:生活科学部薬品安全グループ 高橋 正幸
事例終息:事例終息
事例発生日:2021/05/26
事例終息日:2021/05/26
発生地域:小樽市保健所管内
発生規模:1家族1名喫食
患者被害報告数:1名
死亡者数:1名
原因物質:コルヒチン
キーワード:イヌサフラン、コルヒチン、ギョウジャニンニク、北海道

概要:
2021年5月26日、小樽市保健所管内在住の男性1名が、自宅付近に生えていた植物を「ギョウジャニンニク」として採取し、5~6本ほどを炒め物、酢の物にして喫食した。喫食6時間後におう吐、下痢の症状を呈した。翌日も継続したため、5月28日に医療機関を受診し、入院治療を行ったが、おう吐、下痢、脱水、急性腎不全、白血球減少等の病状進行により、6月10日に死亡した。小樽市保健所は、患者の症状がイヌサフランによる食中毒症状と一致すること、医師からイヌサフランの誤食として食中毒患者等発生届があったこと、回収した調理前残品からイヌサフランの有毒成分であるコルヒチンが検出されたことから、イヌサフランをギョウジャニンニクと誤食した食中毒と断定した。

背景:
北海道は有毒植物の誤食による食中毒の発生件数が都府県に比べて多い。特に、ギョウジャニンニクを食べる食習慣があることから、葉の形が酷似するイヌサフランとの誤食が後を絶たず、これまでに死亡事例も頻発している。

地研の対応:
小樽市保健所からの依頼により、検体の形態学的鑑別及び理化学的分析を行った。その結果、搬入された検体をイヌサフランと同定し、検体からはイヌサフランの有毒成分であるコルヒチンを検出した。  

行政の対応:
小樽市保健所は、市内医療機関からイヌサフランによる食中毒患者等発生届を受けた。同保健所は搬送先の医療機関にて患者と面会し、この時点では軽度の会話が可能であったため、喫食状況や野草の採取状況等を確認した。患者の家族と連絡を取り、患者宅に保管されていた調理前の植物を回収した。また、詳細な場所の特定は困難であったが、自宅付近の道路脇を探索し、刈り取られた痕を有するイヌサフラン様植物を発見した。道立衛生研究所に検体の形態学的鑑別及び理化学的分析を依頼したところ、イヌサフランと同定したこと並びにコルヒチンを検出したとの連絡を受けた。  患者の症状がイヌサフランによる食中毒の症状と一致すること、医師からイヌサフランの誤食として食中毒患者等発生届があったこと、回収した植物からイヌサフランの有毒成分であるコルヒチンが検出されたことから、イヌサフランをギョウジャニンニクと誤食した食中毒と断定した。  前年度にも小樽市保健所管内でイヌサフランによる食中毒が発生していることから、住民へ同様の食中毒について予防啓発する必要があると考えられるため、事例の発生から7日後の6月2日に事例の公表を行った。小樽市のホームページ等を通じ、注意喚起を行った。

原因究明:
小樽市保健所は患者及びその家族からの聞き取りに基づく調査により、患者宅に残された調理前植物(以下、「検体」という)を確保した。検体の鑑定とコルヒチンの検査(形態学的鑑別及び理化学的分析)を道立衛生研究所へ依頼した。

診断:
 患者が植物を喫食してから5日後の5月31日、検体が道立衛生研究所に搬入された。検体は細切されていたが、主に植物の葉と茎の部分であった。検体を道立衛生研究所薬用植物園植栽のギョウジャニンニク及びイヌサフランと直接比較した結果、検体にはギョウジャニンニク特有の臭気はなく、葉に光沢が見られたことなどから、すべてイヌサフランと同定した。 同日、イヌサフランが疑われる葉と茎、各1検体について、LC-MS/MSによるイヌサフランの有毒成分であるコルヒチン検出試験を行った。その結果、コルヒチンを植物葉検体から491 µg/g、植物茎検体から442 µg/g を検出した。   ~診断(定性、定量)までの時系列~ 5月26日:事例発生 5月28日:保健所が探知及び食中毒疑い調査開始 5月29日:患者宅より検体確保 5月31日:道立衛生研究所へ検体搬入。形態学的検査、理化学的検査(コルヒチン定量試験)実施。 6月1日:試験成績書発行

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:
イヌサフランは園芸植物であり、自宅敷地内にて楽しむのが通例であるため、これまで報告されている誤認場所は「家庭菜園」が主である。しかしながら、本事例は自宅付近の道路脇で誤認・採取したものであり、野生化も含めて、管理者不明のイヌサフランが存在し始めている可能性がある。継続的な注意喚起が必要であり、食中毒の発生を未然に防止することが求められる。

現在の状況:
有毒植物による食中毒発生時に対応すべく、形態学的鑑別を行う際に有用な有毒植物を植栽する薬用植物園の維持管理並びに、有毒成分の一斉分析法の開発など理化学的分析に関する基礎的研究に取り組んでいる。

今後の課題:
誤食による食中毒はシニア層が多いことから、ターゲットを絞った、より効果的な注意喚起を関係機関と協力する必要がある。

問題点:
特になし

関連資料:
1) 登田美桜, 畝山智香子, 春日文子:食衛誌, 55(1), 55-63 (2014) 2) 衛生試験法・注解 2020, 301-304

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