No.22007 学校給食による大腸菌食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
衛研名:富山県衛生研究所および富山市保健所・国立医薬品食品衛生研究所
報告者:細菌部、国立医薬品食品衛生研究所 細菌部:木全恵子,富山市保健所 水上克己,国立医薬品食品衛生研究所:工藤由起子
事例終息:事例終息
事例発生日:2021/6/17
事例終息日:2021/8/2
発生地域:富山県富山市
発生規模:
患者被害報告数:1,896名
死亡者数:0名
原因物質:病原大腸菌 OUT (OgGp9):H18 (推定)
キーワード:大腸菌、学校給食

概要:
 令和3年6月17日、富山市保健所に、学校保健課等から「市内の小・中学校、保育所等において、腹痛、下痢、嘔吐の症状による欠席者が多数発生している」旨の通報があった。その後、富山市保健所の調査の結果、患者の発生した学校・保育所等の共通食材は、学校給食等で提供された牛乳であることが判明した。この牛乳と患者便について、富山市保健所および国立医薬品食品衛生研究所で検査した結果、これらの検体から大腸菌OUT (OgGp9):H18が検出された。国立医薬品食品衛生研究所等で実施した動物試験及びゲノム解析結果から、当該大腸菌が病因物質であると推定された。富山市保健所はこの牛乳を製造した乳処理施設を再発防止策が講じられるまで営業禁止処分とし、製造過程の改善を指導した。

背景:
 下痢原性大腸菌は大きく以下のカテゴリー(腸管出血性大腸菌EHEC、腸管毒素原性大腸菌ETEC、腸管侵入性大腸菌EIEC、腸管病原性大腸菌EPEC、腸管凝集付着性大腸菌EAECおよび分散粘着性大腸菌DAEC)に分類され、これらのカテゴリーは典型的な病原因子の保有によって定義されている。しかし、近年、国内では、これらの既存の下痢原性大腸菌のカテゴリーの典型的な病原因子遺伝子を保有していない大腸菌による大規模な食中毒事例が2事例発生している(2019年の大腸菌O166:H15による患者181名の食中毒事例、2020年の大腸菌O7:H4による患者2958名の食中毒事例)。このような下痢原性大腸菌の典型的なカテゴリーの病原因子を保有しない大腸菌の病原性は不明な点が多い。このような状況のなか、2021年6月に富山市内で、既存の下痢原性大腸菌のカテゴリーの典型的な病原因子を保有しない大腸菌が病因物質と推定される食中毒が発生した。

地研の対応:
 富山市保健所と国立医薬品食品衛生研究所の協力のもと、原因食品(牛乳)および患者便の細菌検査を行い、分離された大腸菌の一部についてPFGEおよびゲノム解析を行った。

行政の対応:
 富山市保健所は令和4年6月17日・18日に原因食品(牛乳)を製造した乳処理施設に立入検査を行い、令和4年6月19日に営業禁止とした。また、令和4年7月2日に国立感染症研究所等と調査・立入を行い、当該乳処理施設に対して再発防止策の指導を行った。当該乳処理施設の改善措置および牛乳試作試験による成分規格適合を確認したのち、令和4年8月2日に営業禁止措置を解除した。

原因究明:
 6月17日、富山市学校保健課およびこども保育課から、市内の小学校・中学校、保育所等において、腹痛、下痢、嘔吐の症状による欠席者が多数発生していること、共通の飲食物が学校給食で提供された牛乳であることが情報提供された。保健所は探知後速やかに当該牛乳を製造した乳処理施設に立入調査を行った。患者の健康調査、喫食調査および検便は富山市学校保健課およびこども保育課を通じて実施し、小学校・中学校については各学校の教頭等を介して学校ごとに調査した。
 病因物質の特定については、患者検便64検体、当該乳処理施設従業員検便6検体、6月14日~16日に提供された牛乳について細菌およびウイルス検査を行った。国立医薬品食品衛生研究所による検査の結果、患者検便64検体中61検体、従業員検便6検体中2検体から大腸菌が検出され、それらの血清型はOUT(O血清型別不能):H18であり、O抗原遺伝子型別ではOgGp9であった。また、6月15日および16日に提供された牛乳から大腸菌OUT(OgGp9):H18が検出された。分離された大腸菌OUT(OgGp9):H18は、ベロ毒素(VT)をはじめ、下痢原性大腸菌(EHEC、ETEC、EIEC、EPEC、EAEC、DAEC)が保有する典型的な病原因子を保有していなかったが、国立医薬品食品衛生研究所で実施した動物試験の結果や国立感染症研究所で実施したゲノム解析の結果から、本食中毒の原因物質を病原性大腸菌(推定)とした。
 立入調査の結果、当該乳処理施設は製造工程の記録、製造機械類の洗浄方法や管理、殺菌剤の保管や使用時の濃度管理等の衛生管理が不適切であることが判明した。

診断:
(記述事項なし)

地研間の連携:
 該当事項なし

国及び国研等との連携:
 国立感染症研究所実地疫学研究センターが、疫学調査および当該牛乳を製造した乳処理施設への立入調査を行った。
 国立医薬品食品衛生研究所が、原因食品(牛乳)および検体からの病原体の分離、毒素検出試験を行った。

事例の教訓・反省:
 大規模な学校給食による食中毒の発生に際して、小中学校および保育所での調査は、学校単位で行った。しかし、患者数が膨大であり、聞き取り調査や検便の協力が得られにくい状況であった。
 また、今後は市保健所と県衛生研究所が日常の情報交換等を行うことにより、本事例のような事案が発生した場合に速やかに情報交換と連携できるように努めてまいりたい。

現在の状況:
(記述事項なし)

今後の課題:
 本事例の病因物質と推定される大腸菌OUT(OgGp9):H18の病原性の詳細は不明である。現在、厚生労働科学研究事業にて病原性に関する研究を継続している。

問題点:
 (事例の教訓・反省と重複するため、記述事項なし)

関連資料:
・水上克己他.富山市内の学校給食で発生した集団食中毒について.食品衛生研究Vol.72 (No.6) p15-22, 2022・工藤由起子
.富山市の学校給食を原因とした集団食中毒由来大腸菌の病原性に関する研究.令和3年度厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)「食中毒原因細菌の検査法の整備のための研究」総括研究報告書. p21-43, 2022
・廣瀨昌平他.富山市集団食中毒の原因食品からの原因物質調査.病原微生物検出情報Vol.43 (No.10) p235-236, 2022
・水上克己他.富山市の学校給食における牛乳を原因とする食中毒事例疫学調査解析.病原微生物検出情報Vol.43 (No.10) p236-238, 2022