No.22006 シキミの実を喫食したことによる食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
衛研名:岡山県環境保健センター
報告者:衛生化学科 難波 順子
事例終息:事例終息
事例発生日:2021/11/20
事例終息日:2021/11/24
発生地域:岡山県新見市
発生規模:
患者被害報告数:1名
死亡者数:0名
原因物質:シキミ
キーワード:植物性自然毒、シキミ、アニサチン、八角

概要:
 保健所に「知人から八角を譲り受け、自宅で鶏肉、調味料と煮込み、家族4名で喫食したところ、実を喫食した1名のみが嘔吐、けいれんの症状を呈し入院した。譲り受けた八角がシキミの実と疑われたため、調査してほしい」という申し出が患者家族からあった。

背景:
 シキミには、有毒成分のアニサチンが含まれており、実には有毒成分が特に多い。 誤って食べた場合、通常1~6時間の潜伏期間の後に嘔吐、下痢、意識障害、けいれん等を引き起こす場合がある。シキミの食中毒事例は稀であり、全国で平成2年以降2例のみ報告されている。

地研の対応:
 シキミの毒成分であるアニサチン標準品は輸入品であることから入手に時間を要するため、地方衛生研究所全国協議会が設置した「自然毒食中毒の情報ネットワーク」事務局の国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部 第三室の登田美桜先生に相談したところ、岐阜県保健環境研究所が標準品を有しているとの情報があり、当該研究所が所有する標準品の譲渡について調整していただけた。このことにより、標準品の早期の譲渡が可能となり、11月22日の検体搬入の翌日の23日には分析結果が得られ、迅速な原因究明に繋がった。

行政の対応:
 保健所と農林水産事業部森林企画課が現地において、食中毒の原因となった実を採取した木を確認し、シキミと判断した。併せて、当センターの分析結果を踏まえ、県庁生活衛生課が11月24日にプレス発表した。

原因究明:
 患者家族から提供された食中毒の原因となった実に、アニサチンが含まれていることをLC-MS/MS測定により確認した。

診断:
 食中毒原因検体から2併行で試験溶液を調整し、EPIモードで測定したところ、アニサチン標準品と同じ保持時間にピークが検出され、そのEPI MS/MSスペクトルからアニサチンと同定された。また、MRMモードで測定したところ、その濃度は617 µg/gであった。アニサチンの中毒量については明確ではないが、患者の喫食量から少なくとも1200~1450 µg程度を摂取したものと推定された。

地研間の連携:
 岐阜県保健環境研究所から標準品を譲渡していただいた。

国及び国研等との連携:
 「自然毒食中毒の情報ネットワーク」事務局の国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部第三室から岐阜県保健環境研究所に標準品の譲渡について、便宜を図っていただき、標準品の早期譲渡の対応がとれた。

事例の教訓・反省:
 特になし

現在の状況:
 シキミによる食中毒事例に迅速に対応する体制を整えることが出来た。

今後の課題:
 「自然毒食中毒の情報ネットワーク」の有用性を他の地方衛生研究所に周知する。

問題点:
 特になし

関連資料:
 南谷臣昭:令和元年度厚生労働科学研究費補助金 食品の安全確保推進研究事業 植物性自然毒による食中毒対策の基盤整備のための研究 研究分担報告書「植物性自然毒の多成分同時分析法の開発」