保健医療科学 with コロナ時代の持続可能なエイズ対策—新規感染ゼロへの挑戦—(2023年6月)

『保健医療科学』 2023 第72巻 第2号 p.79(2023年5月)
特集 : with コロナ時代の持続可能なエイズ対策—新規感染ゼロへの挑戦—<巻頭言>

with コロナ時代の持続可能なエイズ対策 ―新規感染ゼロへの挑戦―

児玉知子

国立保健医療科学院公衆衛生政策研究部

Sustainable public health system for people with HIV/AIDS in the era of COVID-19: The Challenge to Achieve Zero New Infections

KODAMA Tomoko

Department of Public Health Policy, National Institute of Public Health

 

<巻頭言>
 エイズ対策に関する本誌特集号は,2007年9月の “新しいエイズ対策の展望”(「保健医療科学」第56巻第3号)において,エイズ予防指針改正後の対策等について取り上げてから,はや15年が経過した.この間,治療薬の開発と普及により,抗ウイルス薬の服薬負担は大幅に改善され,HIV陽性であっても,通常の生活を送りながら長期療養が可能となった.またウイルス量を極限まで減らすことにより,パートナーへの感染が抑えられることから,新規感染者をゼロにすることも期待されている.このような背景から,WHO/UNAIDSでは,主要な予防戦略として早期診断・早期診療を基本としたケアカスケード戦略”95-95-95”(診断率95%,治療率95%,ウイルス制御率95%)を展開し,国連持続可能な開発目標(SDGs)でも2030年までのエイズ流行終結と差別ゼロ(共に生きる社会)を掲げている.
 国内の年間HIV新規報告数は未だ1,000件を越えており,エイズ治療者総数は増加している.また,新型コロナウイルス感染症流行によって保健所等でのHIV検査件数は大きく減少しており,今後の検査体制の見直しを余儀なくされている.HIV陽性者に対する社会的偏見や差別も依然として根強く,今後も多様性を尊重する社会における感染予防対策のあり方について引き続き検討が必要である.
本特集号では,第一線で活躍されている著者らから,HIV感染の発生動向とエイズ流行終結に向けた戦略,最新の知見を踏まえたHIV感染症の診療,エイズ治療の医療提供体制,コミュニティと協働したMSM(男性間性交渉者)におけるHIV感染症予防,多様性社会における若年者へのHIV予防教育について述べられている.最終稿には,エイズ対策に携わる公衆衛生・地域保健人材の育成について,当院研修についても触れさせて頂いた.
 本特集号により,多くの公衆衛生関係者が,with コロナ時代の持続可能なエイズ対策について,最近の知見を踏まえつつ理解を深め,地域活動の一助として頂けたら幸いである.

with コロナ時代の持続可能なエイズ対策 ―新規感染ゼロへの挑戦―

 

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