No.16 インフルエンザ(A香港型)

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:愛知県衛生研究所
発生地域:愛知県
事例発生日:主に1957年、1968年、1977年
事例終息日:
発生規模:1957年 不明、1968年6,645名、1977年65,277名
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:インフルエンザウイルス(AH2、AH3、AH1)
キーワード:インフルエンザ、アジアかぜ、香港かぜ、ソ連かぜ、ウイルス分離、伝染病流行予測事業(感染源及び感受性調査)、流行例調査

背景:
愛知県では1954年から、細菌病理部血清科血清係においてインフエンザの血清診断を冬期に実施しており、実施初年の検査件数は100件であった。その後、鶏卵培養によるウイルス分離も行なう様になり、毎年冬期には集団発生例の検査及び伝染病流行予測事業の一環としての検査を行なっている。

概要:
1957年6月に愛知県下(以下県下)で新型インフルエンザの流行が始まり、12月まで続く大流行となった。この流行に先立ち、東京都では5月より流行が始まっていた。この流行時に当所で検査した患者数は、県内の小中学校生377名及び名古屋刑務所の服役者614名であった。分離されたウイルスは、東京インフルエンザセンターにおいてA愛知57型として登録された。同年12月には、この新型ウイルスは厚生省によりA-アジア-57と命名された。また、同年、当研究所は厚生省インフルエンザ調査の指定研究機関となった。翌1958年には、厚生省の調査として当所において県下600名のインフルエンザウイルスA-2型、A-1型及びB型の抗体調査を実施した。
その後、1960年、1962年、1964年及び1965年にも愛知県下ではアジア型インフルエンザの流行があった。
1968年10月からは県下において新型インフルエンザ(A香港型)の流行が始まり、1969年3月まで続く大流行となった。これに先立ち、香港では7月から大流行が始まっていた(患者総数50万人、総人口の10~15名の患者血清から抗体調査を、また141名のうがい液からウイルス分離を行なった。その結果、288名(77%)において赤血球凝集抑制抗体(HI抗体)が、また20株のA香港型インフルエンザウイルスが確認された(代表株:A愛知/1-68)。東京都における患者報告数は約23,000人、一方アメリカにおける同型インフルエンザの大流行では、数百万人の患者数と約5,000人の死亡が報告されている。
1976年2月、スペインかぜの原因ウイルスと同種のものによるインフルエンザの流行がアメリカ・ニュージャージ州の陸軍基地内で発生した。約500名が罹患し、1名が死亡した。WHOはただちに国際的な監視網を敷いた。また、我が国の厚生省は、同年4月15日に伝染病予防調査会、伝染病対策部会を召集した。その結果、愛知県等におけるスワイン型ウイルスに対する血清疫学調査が伝染病流行予測事業に加えられると共に、約100万人分の緊急用ワクチンの製造が実施された。
1977年11月から翌年1月までは愛知県下ではA香港型のみが分離されていたが、2月からはスペインかぜの病因ウイルス及び30年前の流行株と抗原的に関連性のあるAソ連型が分離され、これらのウイルスによるインフルエンザが大流行となった。県下の報告患者総数65,277名。

原因究明:
このような経緯でインフルエンザ集団発生から病因と推定されるウイルスの検索、及び流行予測事業(抗体保有状況調査)による県下住民の感受性調査を進めた結果、各新型インフルエンザ大流行時においてAアジア型、A香港型及びAソ連型ウイルスを検出した。
当所における検査法は先にも述べたように、当初鶏卵培養による分離であったものが、MDCK細胞による分離に代わり、最近ではPCR法による検出及びシークエンサーによる遺伝子型別が実施できるまでに進展した。

診断:

地研の対応:
前述のとおり、これまでの大流行時に当研究所では伝染病流行予測事業に基づく県下の血清疫学調査および流行事例からのウイルス分離を行なってきた。

行政の対応:
研究所からの要請に応じ、愛知県衛生部(環境衛生課)の担当者と保健所は、流行拡大を予防するため集団発生の積極的な監視に努め、保健所の担当者が現場(主に学校)へ直接赴き、疫学的な聞き取り調査を行ない、血液、うがい液等の検査材料の採取の依頼を行なった。

地研間の連携:
衛生微生物技術協議会・東海北陸支部ウイルス部会において、毎年各地域におけるデータを報告し、各衛生研究所間の情報交換によって、より正確な検査を行なえるように努めている。

国及び国研等との連携:
先に述べたように、アジア型ウイルスによるインフルエンザが流行した1957年に当研究所は厚生省インフルエンザ調査の指定研究機関となった。それ以降は現感染症情報センターがまとめる伝染病流行予測事業の検査機関として、愛知県民の抗体保有状況を調査し、全国データの一部として地域情報を国(感染症情報センター)へ報告している。また、国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)の呼吸器系ウイルス室からは型別用の抗血清を供給してもらい、分離ウイルスの型別決定に使用している。

事例の教訓・反省:
新型インフルエンザウイルスの大流行を3度も経験することによって、その体験が現職員にも受け継がれ、新たな新型ウイルスの出現が予測される今、的確な対処が可能であると確信される。

現在の状況:
1997年に香港で発生した鶏型のインフルエンザウイルス(H5N1)の人間への感染では、国立感染症研究所が直ちに検査用キットを配布し検査が可能となった。
現在、全国のインフルエンザ様疾患及びウイルス分離情報は、感染症情報センター及び国立感染症研究所・呼吸器系ウイルス室を通じて病原体検出情報(月報)やネットワーク等によって受領することが可能となった。
また、当研究所においても遺伝子の型別検索が可能となったことから、分離されたウイルスがどの程度変異しているかを早期に判別できるようになった。その結果、流行の予測が正確にできるようになりつつある。また、当所では名古屋空港検疫所の協力を得て、同空港への帰国者でかぜ症状を呈する者のうがい液を検体とした検査を実施しており、その分離ウイルスの遺伝子型別検索も現在なされている。

今後の課題:
インフルエンザの疫学調査法と検査技術の進展は日進月歩で望ましい方向に進んではいるが、なお以下のことが望まれる。

1) 国として
(1)  抗原変異に関する正確で迅速な結果の地研への還元
(2)  上記に基づく正確な流行予測
(3)  新型ウイルス出現に備えた検査体制の整備
2)自治体として
(1)  調査・検査に関わる予算の増額
(2)  行政・保健所担当者の啓発と定期的会合の開催(新型ウイルス発生時の検査と、迅速な情報交換の必要性)
(3)  インフルエンザ感染予防対策(高齢者等ハイリスク群におけるワクチン及びアマンタジン等による予防)の実施

問題点:

関連資料:
1)「愛知県に於けるインフルエンザA/アジア/57について」増山忠俊他、愛知県衛生研究所所報 第9号(1958)
2)「今春愛知県下に流行せるインフルエンザについて」岸田秋彦他、愛知県衛生研究所所報 第11号(1960)
3)「昭和35年(1960)3月から4月自衛隊守山駐屯隊内に流行せるインフルエンザA-2型について」山田不二造他、愛知県衛生研究所所報 第12号(1961)
4)「昭和42年11月から43年2月の愛知県におけるインフルエンザの調査成績」山田不二造他、愛知県衛生研究所所報 第19号(1969)
5)「愛知県の香港かぜ;抗体分布と流行例について」山田不二造他、愛知県衛生研究所所報 第19号(1969)
6)「眼でみるインフルエンザウイルス;香港かぜウイルスの電顕像」山田不二造他、愛知県衛生研究所所報第 19号(1969)
7) 「昭和43年愛知県下のインフルエンザA香港型ウイルス流行例の疫学的、ウイルス学的調査研究」山田不二造他、愛知県衛生研究所所報 第20号(1970)
8) 昭和52年度 愛知県衛生研究所年報 第6号;流行予測事業・インフルエンザ(感染源及び感受性調査)及びインフルエンザ流行例
9) 昭和53年度 愛知県衛生研究所年報 第7号;流行予測事業・インフルエンザ(感染源及び感受性調査)及びインフルエンザ流行例