No.24 栃木県内の1998年~1999年冬期におけるインフルエンザの流行について

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:栃木県保健環境センタ-
発生地域:栃木県内
事例発生日:1998年12月
事例終息日:1999年4月
発生規模:発生患者総数7,673名
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:インフルエンザウイルス、A/Sydney/05/97(H3N2)、B/北京/243/97、B/Harubin/07/94
キーワード:ウイルス、インフルエンザ、A/Sydney/05/97(H3N2)、B/北京/243/97,B/Harubin/07/94、ウイルス分離、インフルエンザ血中HI抗体価

背景:
毎年冬期にインフルエンザの流行は繰り返され呼吸器感染症の中でもインフルエンザの占める割合は高い。近年、高齢者施設における集団感染、高齢者の死亡、乳幼児の脳炎・脳症の問題が指摘され、その発生予防とまん延防止が重要課題となっている。
この様な状況下において、1998~1999年シ-ズン県内特別養護老人ホ-ムの入所者間にインフルエンザ様疾患の集団発生が起こり、数名の死亡例が報告され大きな社会問題として報道された。

概要:
1998~1999年シ-ズンにおける全国のインフルエンザ患者発生状況は、12月よりインフルエンザ様疾患患者の発生報告が始まり、1999年に入ってから患者数は急激に増加し、第3~4週でピ-クとなった後は急速に減少傾向に転じた。第6~9週に一時横ばいとなり10週以降はゆっくりとしたペ-スで15週にかけて減少していった。本県における状況も、1998年12月までは、ほとんど患者発生報告はなく1999年第1週に発生報告の情報が入り、第3週をピ-クとした流行が見られた。その後は報告数も減少したが第9週に第2の小ピ-クとした流行が見られ、第13週で流行は終息した(発生患者総数7,673名)。感染症発生動向調査・感染症流行予測調査・集団発生事例について、ウイルス分離検査及び血清学的検査を実施した。感染症発生動向調査・感染症流行予測調査のインフルエンザウイルス分離状況は、1998年第52週の検体からA/Sydney/05/97(H3N2)が分離され、1999年第4週をピ-クとし第8週まで分離された。次いでB/北京/243/97及びB/Harubin/07/94は1999年第4週に分離され、B/Harubin/07/94は第10週をピ-クとし第14週まで分離され、B/北京/243/97は第7週をピ-クとし第17週まで分離された。
分離ウイルスの内訳はA/Sydney/05/97(H3N2)は31株、B/北京/243/97は65株、B/Harubin/07/94は34株であった。感染症発生動向調査検体のインフルエンザウイルス分離陽性例は、0~10才の年齢層が多く、記載された臨床症状もA/Sydney/05/97(H3N2)は下気道炎が多くを占め、発熱も39℃から40℃と高く、脳炎・脳症の診断名記載検体もあり重症化の傾向が認められた。集団発生事例は5件あり、学童間では4事例発生し、20名の鼻咽頭うがい液から3種のウイルスA/Sydney/05/97(H3N2)2株、B/北京/243/977株、B/Harubin/07/941株で計10株分離された。
また、特別養護老人ホ-ムにおける1事例では、鼻咽頭ぬぐい液からのインフルエンザウイルスは分離されなかった。
しかし血清中のHI抗体価測定によってA/Sydney/05/97(H3N2)に対する急性期・回復期(ペア血清)の血清学的有意上昇が5名中1名に確認され、A/Sydney/05/97(H3N2)による流行が証明された。

原因究明:

診断:

地研の対応:
感染症発生動向調査に基づき、病原体定点医療機関より搬入された検体はウイルス検査(ウイルス分離及び血清学的検査)を実施し、感染症流行予測調査検体も同様な検査を実施した。集団発生事例では、保健所が採材し、検査結果は早期にその他の情報(全国情報等)と共に保健所を経由し、検査施設へ還元した。

行政の対応:
感染症発生動向調査の結果は、感染症サ-ベイランス委員会をとおして医師会や教育委員会、マスメディア等に情報の還元を行った。栃木県健康増進課では、インフルエンザウイルスの流行期前、インフルエンザ流行に対する注意、ワクチン接種等の推奨について、県民に注意喚起の啓発を健康福祉センタ-を経由して実施した。また、厚生省流行予測調査においては、積極的に県民のインフルエンザウイルスに対する抗体価測定等を行った。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
厚生省で実施されている感染症流行予測調査においてインフルエンザが対象疾患の際は要領に基づき調査を実施した。その他としてウイルス分離状況などの情報を主とした情報の提供を行った。インフルエンザ流行期に県内で分離された代表ウイルスの抗原分析を国立感染症研究所に依頼し分離ウイルスの抗原性を把握した。
国立感染症研究所呼吸器系ウイルス室(インフルエンザセンタ-)より分離インフルエンザの「型別用抗血清及び血清診断用抗原キット」の供給を受け分離ウイルスの型別決定等に使用した。このキットの供給により、全国的に統一のとれた検査結果が得られ、そのデ-タの信頼性(精度)が確保され精度管理にもつながった。

事例の教訓・反省:
特別養護老人ホ-ムにおける集団発生事例等から予防対策が必須であり、本県の状況を把握する必要があった。また各施設に対し保健所と協力してインフルエンザ予防の普及啓発を実施する必要があった。さらに施設では集団発生時においては、入所者の症状を的確に把握することが困難で、鼻咽頭うがい液、血液の急性期・回復期の採材に注意が必要であった。
入所者は、基礎疾患等を持ち、インフルエンザも高齢者は顕著な症状が見られないことから、日頃の入所者観察が大切である。

現在の状況:

今後の課題:
集団発生事例において、採血に関するインフォ-ムドコンセントを得ることが困難であり、鼻咽頭ぬぐい液等からウイルスが分離されない場合は、原因の特定が出来ないケ-スがあることから、今後、採血に関するインフォ-ムドコンセントを理解してもらえる様に努める必要がある。鼻咽頭うがい液は、高齢の入所者等では検体として採材しにくいため鼻咽頭をぬぐった綿棒を保存液に入れて搬入する方法が適当と思われる。インフルエンザ変異株の出現に対する対応について今後の取り組みを構築する必要がある。

問題点:

関連資料:
1) 「栃木県における1992~1994年冬季のインフルエンザの流行状況とPCRによるウイルス検出」八嶋努他 栃木県衛生研究所所報第23号(1993)
2) 「インフルエンザ様疾患の原因ウイルス検索と結果の活用」 八嶋 努他 栃木県保健環境センタ-年報第2号(1997)
3) 「CaCoII細胞を用いた臨床細胞からのインフルエンザウイルス分離」中井定子他栃木県保健環境センタ-年報第3号(1998)