No.63 C群ロタウイルスによる急性胃腸炎集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:佐賀県衛生研究所
発生地域:佐賀県Y町
事例発生日:2000年4月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:309名
死亡者数:0名
原因物質:C群ロタウイルス
キーワード:ロタウイルス、C群ロタウイルス、胃腸炎、集団発生、学校、寮

背景:
ロタウイルス感染症は、A群ロタウイルスによる冬季の乳幼児嘔吐下痢症がよく知られているが、近年、C群ロタウイルスによる急性胃腸炎の発生報告も散見されている。集団発生事例は、1988年に福井県で国内最初の事例が報告されて以降、大阪、福岡、東京、千葉、富山、北海道、岡山など全国で12年間に10数例が報告されている。

概要:
2000年4月、佐賀県内の全寮制中高併設校においてC群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生がみられた。患者発生は4月18日に始まり、23~24日をピークとして26日まで続いた。生徒数1,041名のうち有症者は生徒のみ309名で、全学年に及んだ。中1~高1は高2、高3にさきがけて発症し、発症率は、高2、高3では10%程度であったが、中1~高1では30~50%と比較的高率であった。寮別では、中1~高1が居住するA寮が41%、高2、高3が居住するB寮が12%で、A寮が3倍以上高かった。全体では30%の発症率であった。有症者の主な症状は、嘔吐および嘔気が最も多く(63%)、次いで頭痛(51%)、37~39℃程度の発熱(51%)、腹痛(41%)、下痢(38%)等で、これらの症状は3~4日で消失した。
患者発生の多かった4月23~24日に発症した患者の便および5月1~2日に採取した調理従事者の便について、電顕による観察を行ったところ、患者便23検体中16検体(70%)、調理従事者便33検体中1検体(3.0%)にロタウイルス粒子が観察された。RPHA法によるC群ロタウイルス抗原の検出では、患者便23検体中15検体(65%、電顕陽性検体)、調理従事者便33検体中1検体(3.0%、電顕陽性検体)が陽性であった。また、14検体の患者ペア血清について、RPHI法およびELISA法(一部検体)による抗体検出を行ったところ、5検体(36%)でC群ロタウイルスに対する有意な抗体上昇が確認された。C群ロタウイルスVP6遺伝子検出RT-PCRでは、患者便3検体中3検体(100%、電顕、RPHA陽性検体)が陽性であった。食品は、患者発生のピーク前3日分の給食17検体を用いてRPHA、RT-PCRを行ったがすべて陰性であった。

原因究明:
本事例は、当初C群ロタウイルスが検出された調理従事者から汚染された給食が原因かと思われたが、喫食状況調査の結果、共通食品は特定できなかった。この学校が全寮制であり、生徒は近接して居住し、風呂、トイレ等を共有していたことを考慮すると、主たる感染経路は食品を介さない直接的な伝播、いわゆるヒト-ヒト感染であると思われ、散発的な患者発生の間に感染者が蓄積し、その後何らかの原因で患者数が急増したと推察された。ウイルスの感染源および感染経路を特定することはできなかったが、同時期に近隣地区で急性胃腸炎散発事例の患者からC群ロタウイルスが検出されていることから、地域での流行があり、そこから持ち込まれたウイルスによって感染が拡大した可能性が考えられた。

診断:

地研の対応:
食中毒様疾患発生時には、細菌担当とウイルス担当が情報を交換しつつ並行して検査を行い、早期の原因究明を目指している。

行政の対応:
保健所による疫学調査、検体採取、衛生指導
本庁担当課による情報の収集、解析および提供

地研間の連携:
岡山県環境保健センターにELISA法による抗体検査を依頼するとともに、PCRプライマーの分与および情報提供を受けた。

国及び国研等との連携:
病原微生物検出情報オンラインシステムを通じて、国立感染症研究所および各地方衛生研究所の検査情報について、情報交換を実施している。

事例の教訓・反省:
C群ロタウイルスによる急性胃腸炎集団発生報告の多くは、小学生における発生である。
しかし、今回の事例はより年長の中高校生における発生であり、また、成人における集団発生も報告されていることから、低年齢層だけでなく、あらゆる年齢層における発生の可能性を考慮する必要があると思われた。

現在の状況:
感染症サーベイランス事業における急性胃腸炎検体について、RPHA法によるC群ロタウイルス検査を行っている。

今後の課題:
C群ロタウイルスによる急性胃腸炎発生報告は、A群ロタウイルや小型球形ウイルス比べて少数ではあるが、近年、全国から集団発生報告があり、今後の流行拡大が危惧されていることから、各地研での検査体制の整備、疫学調査、自然界での動態等の調査の必要性が指摘されている。

問題点:

関連資料:
1) 病原微生物検出情報 月報Vol.20、No.9(1999)
2) 病原微生物検出情報 月報Vol.22、No.2(2001)