No.76 手足口病

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:島根県衛生公害研究所
発生地域:全国
事例発生日:1970年
事例終息日:1977年
発生規模:流行
患者被害報告数:
死亡者数:
原因物質:コクサッキーA群ウイルス、エンテロウイルス71
キーワード:ウイルス、手足口病、コクサッキーA、エンテロウイルス71、哺乳マウス

背景:
手足口病は夏季を中心に流行する幼児、小児の咽頭口腔粘膜、手、足の水疱性発疹を主徴とする比較的軽症な急性熱性疾患である.現在ではコクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)、CA10が三大原因ウイルスとして知られ、それぞれのウイルスによる全国的な流行はほぼ4~5年周期で繰り返すとされている。
流行例からのウイルス分離同定は原因ウイルスの特定のみならず、流行に先立って、あるいは流行初期における原因ウイルスを確認することが疫学上あるいは診療上重要なことと考えられる。

概要:
国外では1957年から1960年にかけてこの疾患が発見、命名され原因ウイルスがCA16であることが確認され、わが国では1963年から1966年の間には散発的な臨床例の報告がみられるにすぎないが、1966年の流行例からCA16が国内で始めて分離されたのを契機に1970年にはCA16による全国的な流行がみられた。1973年には全国で髄膜炎を併発した手足口病が流行し多くの地域で髄液、水疱液からウイルスが分離されたが、当時原因ウイルス型が特定されずCA16の変異株あるいは新種ウイルスと論議された(後にEV71であることが判明後述)。1974~75年にはCA16による流行、1978年にはEV71(髄膜炎発生頻度は少なかった)が流行した。この頃から他のエンテロウイルスの流行と同様に5年周期説が一般的となった。1979~80年にはCA16(一部の地域では79年前半は前年の流れをうけたEV71が流行し、後半からCA16が流行)、その後1981年にCA10によるHFMDを確認(島根)、1982年(CV16)、1983年(CV71)、1984年全国でCA10による流行がみられた。その後CA16とEV71あるいはCA10による手足口病の流行が繰り返されるなかに他の複数のエンテロウイルスの分離報告がみられている。
手足口病から分離されるウイルスは主としてCA6、EV71、CA10であったが、この他にCA2、CA4、CA5、CA6、CA12、CA14、CB群、HSV等多種類がみられる。しかし、病原と確定できる水疱内容液からの分離は現在のところCA16、EV71、CA10の他にCA4、CA5、CA14に限定されている。
それぞれのウイルスが分離された全症例のなかで手足口病の発症頻度はCA16(91.1%)、EV71(76.6%)、CA10(19.3%)、CA2(5.2%)、CA4(3.1%)、CA5(8.2%)となっている。

原因究明:
感染経路はヒトからヒトへの気道感染であり、感染は比較的軽症に経過するが、時にEV71のように髄膜炎の併発がみられることから病原診断は診療上、疫学上重要なこととなる。

診断:

地研の対応:
流行の都度、小児科定点からあがってくる手足口病からのウイルス分離は培養細胞(Vero、AG-1、RD細胞)と哺乳マウスを併用しておこなっている。発生原因となるウイルスもCA16から、EV71、CA10の出現、さらに頻度は低いもののCA2、CA4、CA5、CA14が関わっていることを明らかにしてきた。そして一つのシーズンにしばしば複数のウイルスが関係することも明らかとなってきた。
これまで流行は一般に夏季を中心にみられるが、先進発生地の影響を受け複数のウイルスが入った時は季節と期間に変化(1987年、1990年、1992年)がみられる。また、前年の秋季から初冬にかけて前触れ的に発生する事があり、このような現象を事前に把握することは他地域の状況を知ると同様に発生の予知、予測につながる。

行政の対応:
感染症サーベイランスによる患者発生情報の収集・解析・還元

地研間の連携:
手足口病の原因となるエンテロウイルスはヒトの移動にともなって地域から地域へと伝播することから原因ウイルスの検索あるいは発生の予知、予測には隣接するブロック内の連携が必要となる。これまでに地研中四国ブロックではエンテロウイルス分離情報(平成5年12月~)の交換、山陰地区感染症懇話会を介した島根、鳥取両県のの情報交換、抗血清の分与等があげられる。

国及び国研等との連携:
1970年および1973年の各地での流行時に原因ウイルス型を巡って予研(当時)、地研、大学との研究班が組織され臨床、疫学、ウイルス、血清疫学的調査がなされた。
微生物協議会エンテロウイルスレファレンス委員会による抗血清の作成、および病原微生物検出情報への参画。

事例の教訓・反省:
過去数回のCA16、EV71の流行例の検査にはVero、RD等の培養細胞での分離培養が可能であったが、CA10あるいは他のCA群は培養細胞での増殖性が極めて低く哺乳マウスを使用せねばならない現状があり、これが実態、全容を明確にする障害となっている。また、島根県では1978年の流行時に典型的な症例がかなりの規模であったにも関わらず培養細胞、哺乳マウスでウイルスを分離することができなかった。このような例の原因を明らかにすることも今後の課題となる。

現在の状況:
前述のように複数のウイルスを原因として地域あるいは全国規模での発生がみられる。これらの状況は感染症サーベイランスによって把握され、地研を中心に原因ウイルスの分離同定がなされており、以前に比べると流行ウイルス型の情報入手は容易となりつつある。

今後の課題:
病原体を確定する手段としての水疱液からのウイルス分離と感染の確認あるいは感染実態を把握する疫学上の面からも血清の採取と抗体価の測定も必要となる。
また、培養困難なCA群の分離のための哺乳マウス(動物愛護の面からも)に替わる培養細胞系の樹立が望まれる。

問題点:

関連資料:
1)  松江市におけるウイルス分離を中心としたエンテロウイルス感染症の調査成績について(1969.5~1971.3)、板垣朝夫ほか、感染症学雑誌、46,280-289,1972
2)  Gobara, F., etal, Propertis of virus isolation from an epidemic of Hand-Foot-and Mouth disease in 1973 in the city of Matsue. Microbiol Immunol 21, 207-217, 1977
3)  Itgaki, A., etal, Aclustering outbreak of Hand, Foot, and Mouth disease caused by Coxsackie virus A10. Microbiol Immunol, 27, 929-935, 1983
4) 飯塚節子ほか、手足口病からのコクサッキーA14の分離と住民の抗体保有状況について,臨床とウイルス, 22, 308-313, 1994
5) 特集<手足口病>病原微生物検出状況月報Vol16, No 11, 1995