No.100 赤血球凝集能を欠く麻疹ウイルスの流行

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:秋田県衛生科学研究所
発生地域:秋田県全域
事例発生日:1988年
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:被害者数4,000名以上
死亡者数:0名
原因物質:麻疹ウイルス
キーワード:麻疹ウイルス、赤血球凝集能、ヘマグルチニン、HA遺伝子、糖鎖付加部位

背景:
1988年に秋田県で起こった麻疹ウイルスの流行は患者4,000人を超え、死者10名を出す大規模なものとなった。麻疹ウイルスは従来は変異しないものと考えられてきたが、このような流行を引き起こすような要因を探る意味で分離ウイルスを中心に性状分析を行った。

概要:
流行時に分離されたウイルスはサル血球凝集能を欠いており、また、血球凝集に関与するヘマグルチニンの分子量も従来株よりも大きくなっているなど特徴的な変異が認められた。ヘマグルチニンの遺伝子をクローニングして構造を調べたところ、アミノ酸変異によって糖鎖付加部位が増えており血球凝集能に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。過去30年間の保存血清中の麻疹ウイルスについて疫学調査をした結果、1980年代後半には、野生株は全てこうした型に置き換わっていることがわかった。なお、同様の結果は他県でも得られているし、米国と中国においても報告がなされている。

原因究明:
直接原因はワクチン未接種者が多かったこと。患者より検出されたウイルスが新旧いずれの型かはRFLP法で迅速に判定できるようになった。

診断:

地研の対応:
上記の調査研究

行政の対応:
ワクチン接種向上に関する指導

地研間の連携:
他県からの検査依頼

国及び国研等との連携:
厚生省予防接種研究班へ情報提供

事例の教訓・反省:
ワクチン接種漏れをなくすこと

現在の状況:
麻疹ウイルスが検出されれば型別を行っている。

今後の課題:
現在のところ従来のワクチンは有効であるが、このまま野生株の変異が進行した場合にどうなるかは不明である。

問題点:

関連資料:
1) Hiroyuki Saito, etal., Isolation and characterization of the measles viruss trains with low hemagglutination activity. Intervirology 33, 57-60(1992)
2) Hiroyuki Saito, etal., Cloning and characterization of the cDNA encoding the HA protein of a hemagglutination defective measles viruss train. VirusGenes, 8, 107-113(1994)
3) Hiroyuki Saito, etal., Molecular identification of two distinct measles viruss trains regarding hemagglutination activity by polymerase chain reaction and restriction fragment length polymorphism. Molecularand Cellular Probes, 9, 1-8(1995)