No.139 パラチフスAの集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:千葉県衛生研究所
発生地域:千葉県八千代市を中心に周辺6市町村
事例発生日:1998年4月
事例終息日:1998年5月
発生規模:
患者被害報告数:26名
死亡者数:0名
原因物質:Salmonella Paratyphi A
キーワード:パラチフス、集団発生、飲食店、Salmonella Paratyphi A、ファージ型4、パルスフィールドゲル電気泳動

背景:
パラチフスの原因菌がSalmonella Paratyphi A (S. Paratyphi A)に限定された1985年以後の厚生省統計によると、日本におけるパラチフスの発生は年間数十例以内で、国内感染例と海外感染例が約半数ずつである。いずれも散発例がほとんどであるが、国内感染例では、時として限られた地域での流行が見られることがある。最近では、1993年から1994年にかけて、三重県で発生した生ガキが原因と考えられる集団事例、1995年に1都13県にまたがって発生したファージ型3の流行事例があった。千葉県では1998年、県内の飲食店利用者に発生したパラチフスの集団事例を経験したので、その発生状況および分離菌株の解析結果の概要を報告する。

概要:
1998年4月7日に最初のパラチフス患者が発生した。その後3日間に4名がパラチフスと診定された。患者はいずれも友人およびその関係者であり、疫学調査の結果、約3週間前に会食をした千葉県八千代市のK料理店が原因施設として浮上した。患者発生は5月中旬まで続き、有症者26人中19人からS. Paratyphi Aが分離された。26人の年齢、性別は様々であったが、いずれも1年以内の海外渡航歴が無く、その居住地は千葉県内の八千代市を中心に極めて限られた地域であった。調査の結果、全員が発症前1ヶ月以内に、K料理店を利用した事が判明した。特に26人中23人は、3月下旬の特定の日に同店を利用していた。これらのことからK料理店が原因施設と推定された。同店は従業員60人ほどの施設で、他に系列店が3店舗あるが、他店からパラチフス患者は発生していない。有症者の喫食調査、同店の環境および食品の検査、従業員の検便を行ったが感染源を特定することはできなかった。
患者から分離されたS. Paratyphi A 19株のファージ型は全て4であった。薬剤感受性は全株がストレプトマイシンにやや耐性を示し、うち2株がセファロチン耐性、1株がテトラサイクリン耐性、1株がカナマイシン耐性であった。これらの菌のDNAの制限酵素切断パターンをパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)で比較したところ、全株で一致した。これらのことから、本事例は1つの感染源から伝播した集団感染であると考えられた。

原因究明:
本事例は、発生初期に複数の患者が発生したことから、容易に原因施設が推定され、かなり早い時期に当該飲食店の現地調査が行われた。しかし患者の喫食日からは約1ヶ月が経過しており、同一ロットの食材残品はなく、検査当日の食材や環境のふき取り検査から菌を検出することはできなかった。
患者から分離されたS. Paratyphi A 19株は全てファージ型4であった。近年、国内感染例から分離されるS. Paratyphi Aはファージ型1が最も多く、次は事例によりファージ型2あるいはファージ型3が多かった。国内感染例からのファージ型4の分離は非常に稀であることから、本事例の感染源の特異性が推察された。さらに、分離菌のDNAをPFGEにより解析したところ、制限酵素BlnIあるいはXba I切断パターンは全株で一致し、そのパターンは海外感染例由来株には無い特異なものであることが判明した。
以上のことから本事例は、国内の、ある特定の感染源から伝播したと推定された。そこで、当該飲食店の関係者の中に保菌者がいる可能性を考え、従業員の検便を2回にわたり実施したが菌は検出されなかった。ただし従業員は臨時雇用者が多く、すでに退職したヒト、検便に協力を得られないヒトもあり、詳しく追跡することは困難であった。

診断:

地研の対応:
衛生研究所では患者から分離されたS. Paratyphi Aの細菌学的検査、薬剤感受性試験、DNAの解析を行った。飲食店従業員の検便も衛生研究所が担当した。

行政の対応:
主な患者発生地の八千代市を管轄する習志野保健所を中心に、パラチフス対策本部が設置され、原因究明のための疫学調査、摂食者および環境中の細菌学的検査、二次感染防止対策、周辺の環境衛生対策、食品関連施設の衛生指導等が行われた。特に原因施設と推定されたK料理店への衛生指導は再三にわたり行われた。しかし、同店の環境中や従業員から菌が分離されなかったことから、同店に対する行政処分は行われなかった。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
ファージ型別は国立感染症研究所に依頼した。

事例の教訓・反省:
パラチフスは潜伏期間が長いこと、診断の根拠となる特徴的な症状が乏しく早期診断が難しいことなどから、ひとたび患者が発生しても、その感染源を突き止めることは困難を極める。本事例のように、集団発生であり、早期に原因施設が推定されてもなお、感染源を明らかにすることは難しい。
パラチフスはS. Paratyphi Aによる経口感染症であり、菌の宿主・感染源はヒトである。近年は海外での感染例が増加しているものの、本事例のように国内で、おそらく保菌者から感染が広がったと考えられる例が散見される。保菌者対策の重要性を喚起する必要があると考えられる。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
病原微生物検出情報Vol.20(7), 10-11, 1999