No.149 複合レジャー施設の循環濾過式浴槽水を感染源とするレジオネラ症の集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:静岡県環境衛生科学研究所
発生地域:静岡県ほか
事例発生日:2000年3月
事例終息日:2000年4月
発生規模:
患者被害報告数:23名
死亡者数:2名
原因物質:Legionella pneumophila、血清群1
キーワード:レジオネラ肺炎、循環濾過式浴槽水、温泉、集団発生、尿中抗原

背景:
レジオネラ症は平成11年4月1日から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症新法)で4類感染症に指定され、診断した医師には保健所への届出義務が課せられている。
感染症新法にかかわる地研の業務のなかに感染症発生動向調査がある。これは感染症の患者発生状況、病原体の検査結果等の流行実態を早期かつ的確に把握し、その情報を速やかに地域や医療機関に還元するとともに、流行の拡大を未然に防止する措置を講ずるものである。この感染症発生動向調査が発見の端緒となった循環濾過式浴槽水を感染源とする全国的にも例をみないレジオネラ症の大規模集団感染事例を経験したので、公衆衛生上の危機管理の面から当所が行った検査業務について報告する。

概要:
平成12年3月下旬、静岡県西部の複数の病院からレジオネラ肺炎を疑う患者の検体が、感染症発生動向調査で送付されてきた。当所で菌の培養や尿中抗原等の検査を行い、4名をレジオネラ症と確定診断した。これらの患者は、いずれもK市内の複合レジャー施設内のS温泉に入浴していた。そこで、当所は保健所にその施設への立入り検査を依頼するとともに、同行して浴槽水等14か所の採水を行った。
培養検査の結果、同一循環濾過装置を使用している2か所の浴槽水(露天気泡湯,内湯)から、患者と同型のLegionella pneumophila血清群1が検出された(露天気泡湯:菌数57,000CFU/100ml,内湯:菌数88,000CFU/100ml)。浴槽水分離株と患者分離株のRAPD解析(即日判明)および制限酵素切断によるパルスフィールド・ゲル電気泳動パターン(5日目に判明)が一致したことから、同施設のレジオネラが検出された浴槽水をレジオネラ症患者の感染源と特定した。
本施設は2月11日にオープンした後、営業を停止するまでの約50日間で57,000人の利用客があった。ナトリウム-塩化物温泉を使用した27種類の浴槽をもち、塩素殺菌機付きの5基の砂濾過装置で浴槽水を循環濾過し、部分的な換水を1~2週間毎に行っていた。後日、レジオネラ属菌の検出された浴槽水の系統の塩素殺菌装置の薬液添加ノズルが目詰まりしていたことがわかり、塩素殺菌の不備がレジオネラ属菌の増殖をまねいたと推察された。汚染浴槽水、特にエアロゾルを発生させやすい気泡湯から入浴者へのレジオネラ属菌の暴露が、患者の発生のみられる3月上旬から営業を停止するまで約1か月間にわたって続いていたと考えられた。
S温泉は1日平均約1,000名の入浴者があったことから、当所では、今後起こりうるレジオネラ症患者の検査にそなえ、レジオネラ尿中抗原等の検査を実施可能な旨を、県感染症対策室を介して、医師会あてに情報提供した。その後、患者の検体(尿、血清、気管支肺胞洗浄液、喀痰)約250件のレジオネラ検査を実施し、計13名の患者を確定診断した。
S温泉入浴後に発症して4類感染症として届出られた患者の総数は23名(男21、女2)で、年齢は50才~86才までと高齢者が多かった。病型は肺炎型:21名,ポンティアック熱型:2名で、うち肺炎型の2名が死亡した。患者の発生は3月2日~4月4日までの約1か月間にわたっており、潜伏期間(入浴日から発症日までの期間)は1日~10日(平均5.2日)であった。

原因究明:

診断:

地研の対応:
当所では、感染症発生動向調査の検体について、レジオネラ症の確定検査を行い、集団発生を最初に探知した。患者が入浴していた温泉施設の浴槽水から患者と同型のLegionella pneumophila血清群1を分離し、浴槽水分離株と患者分離株のDNA解析を行い、両者が一致したことから、同施設の浴槽水をレジオネラ症患者の感染源と特定した。さらに、病院等からの検査依頼に尿中抗原等の迅速検査で応え、患者の診断・治療に役立てた。

行政の対応:
当所からの感染症発生動向調査の結果報告をふまえ、管轄保健所が直ちに原因と疑われる温泉施設に立入調査し、浴槽水等の採取を行い、消毒の徹底を指示した。菌検査の結果、S温泉施設が感染源と特定されたため、県感染症対策室が、医師会、各保健所、各中核市あてに、レジオネラ症患者の集団発生と迅速検査が可能な旨をファックスで情報提供した。各保健所は病院、医院の医師からの4類感染症病原体検査(依頼)票により、検体の受付を行い、当所に送付した。検査からレジオネラ症と診断された患者については、医師から4類感染症のレジオネラ症の発生届けが保健所に提出された。

地研間の連携:
本事例の発生後、他県で発生した循環濾過式浴槽水を原因とするレジオネラ症の同様な集団事例の際、尿中抗原検査法や遺伝子診断法(PCR法)についての情報を、担当地研の検査担当者に提供した。

国及び国研等との連携:
本事例の発生前から、国立感染症研究所細菌部からレジオネラ検査法についてアドバイスを受けていた。それらのことは集団発生時に検査をスムースに進める上で多いに役立った。

事例の教訓・反省:
本事例の発生が明らかになって以降、全国各地で循環濾過式浴槽水を原因とする死亡例を伴うレジオネラ症の報告が相次いでいる。本事例等を契機として、厚生労働省は平成12年12月に公衆浴場の水質基準にレジオネラ属菌に関する数値を新たに盛り込み、浴槽水のレジオネラ属菌を10CFU/100mL未満と定めた。併せて「公衆浴場、旅館業における衛生管理要領」を改正し、循環濾過式浴槽水等の消毒を義務づけている。
また、レジオネラ肺炎は経過が速く、有効な抗菌薬(マクロライド系抗生物質など)の投与がなされない場合死亡するケースもあるので、早期診断が重要である。今回の集団発生時には尿中抗原測定キット(約3時間で判定可能)が迅速検査法として活用され、検査結果は治療にも生かされた。

現在の状況:
レジオネラ感染症を疑う患者の検体は、4類感染症病原体検査(依頼)票により、医師から保健所経由で当所に搬入される体制が整った。

今後の課題:
早期診断法として優れている尿中抗原検査法が保険検査の対象となり、病院、医療機関などの医療現場で早期に導入されることが望まれる。循環濾過式浴槽水などにおけるレジオネラ除菌対策を確立し、誰もが安心して健康な入浴を楽しめるようにしていかなければならない。

問題点:

関連資料:
1. 「生活環境水のレジオネラ汚染およびレジオネラ症患者調査-レジオネラ症患者の検査と疫学調査-」杉山寛治ほか、静岡県環境衛生科学研究所報告,42,11-14(1999)
2. 「新版レジオネラ症防止指針」厚生省生活衛生局企画課監修、85-94,  (財)ビル管理教育センター,東京(1999)
3. 「循環濾過式浴槽水のレジオネラ汚染と殺菌法」杉山寛治ほか、静岡県環境衛生科学研究所報告,39, 47-52(1996)
4. 「複合レジャー施設の循環濾過式浴槽水を感染源とするレジオネラ症集団発生事例と検査」杉山寛治ほか、第83回日本細菌学会関東支部総会講演抄録集,57(2000)
5. 「茨城県における入浴施設を原因としたレジオネラによる集団発生事例」増子京子、第83回日本細菌学会関東支部総会講演抄録集,58(2000)
6. 「病院の風呂が感染源と推定されたレジオネラ肺炎の1例」飯沼由嗣、病原微生物検出情報,21, 191-192(2000)
7. 「公衆浴場における衛生等管理要領等について」厚生省生活衛生局長、生衛発第1811号,平成12年12月15日
8. 「循環濾過式浴槽水とレジオネラとの関係に関する研究-モデル浴槽水を使用したレジオネラ加熱殺菌法の検討-2)自治体として」杉山寛治ほか、静岡県環境衛生科学研究所報告,40, 5-8(1997)