No.193 長崎市内で発生したS. sonneiによる集団赤痢について

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:長崎市保健環境試験所
発生地域:長崎市内東部地区
事例発生日:1998年5月14日
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:46名
死亡者数:0名
原因物質:
キーワード:

背景:
1998年5月14日突然飛び込んできた「食中毒情報」は時間が経つにつれて大規模な赤痢菌による集団感染へと発展し、最終的には821名もの集団感染者が出るという、長崎県内最大規模の伝染病事件となった。

概要:
「大学生5名が下痢・発熱等の食中毒らしい症状で市内の病院へ入院した。」という食中毒情報の第1報があり、食中毒菌検出を目的として便、食品、水などの検査を実施した。その後発症者が次々と増え大規模な食中毒事件の様相を呈しているという情報も伝わってきた。
翌15日、コロニーの観察を行ったが、食中毒菌らしいものが確認できない中で、症状が出ていた学生数名の便培養に乳糖非分解菌が多数認められたため、赤痢菌及びサルモネラの血清凝集検査を行ったところS. sonnei I相と決定し、保健所長に報告した。これにより、赤痢集団感染事件として対策本部が設置され大学・高校への立ち入り検査も実施、赤痢菌検出のため大学構内および近傍の井戸水・河川水等の水質検査も本格的に始まった。
18日には、16日に採水した大学構内の2箇所の井戸水のうち1つからS. sonneiを検出した。その後は、大学周辺地区の井戸水をはじめとする環境調査や、保健センターでの市民を対象にした無料検便の実施など二次感染の防止と原因究明のための検査を続けるとともに、大学・高校関係者の集団検便を6月1日から4日まで実施した。このときの検便で発見された8名の保菌者および市外在住の関係者の家族1名の治療が終了し、新たな保菌者も出ていないことや、その後の二次感染の届出がないことなどから、対策本部は6月18日付で赤痢集団発生事件の終息宣言を出した。また、6月30日から3度目の有症者検便を実施したが、新たな陽性者は出ず、8月4日、今回の赤痢集団発生事件の検便をはじめ細菌検査をすべて終了した。総検便数は7,316件であった。

原因究明:
便からの赤痢菌の分離同定は通常のマニュアルどおりに行ったが、水からの赤痢菌検出については、まず文献や厚生省の微生物検出情報等から情報を収集し、主に1986年の長崎市夫婦川町で発生した赤痢集団感染事例で県の衛生公害研究所が湧水からの赤痢菌を検出したときの経験を参考にして、次のような手順で赤痢菌培養とPCRによる遺伝子増幅検査を実施した。
(1)  5~10ℓの検水を0.45μmのメンブランフィルターで吸引濾過し、そのフィルターを増菌培地に培養。
(2)  増菌培地には2本のTSB培地を用意し、そのうち1本には赤痢菌を検出しやすくするためにテトラサイクリン30μg/mlを添加した。
(3) TSB培地からSS、BTB寒天培地に継代し、分離培養。TSI、LIM培地、さらに同定キットで生化学的性状検査を行うとともに、免疫抗血清により血清型を調べ、赤痢菌を同定した。
(4) 水からの赤痢菌検出と並行して、PCRを実施した。プライマーはTakaRaの赤痢菌および腸管侵入性大腸菌invE遺伝子検出用Primerを用いた。
(5) MICは化学療法学会標準法に従い寒天平板希釈法で行った。

診断:
今回の大学および附属高校における集団感染事件は、患者便と大学構内の井戸原水からS. sonneiが検出されたことで、赤痢菌による集団感染事件ということが確定しました。また、発生原因については、保健所で行った実験調査により赤痢菌が検出された井戸近傍の排水設備の漏水が確認されたこと、井戸の自動塩素注入器内の塩素切れの事実が判明したことなどから、何らかの原因により存在していた赤痢菌が汚水管から漏水して井戸を汚染した可能性が指摘されている。
赤痢菌が検出された分離株(環境由来7株と臨床由来33株)を国立感染症研究所に送付し、PFGE法によるDNA解析を依頼したところ、「今回の長崎市の集団赤痢事件の分離株はすべて同一タイプで、その中にa-dまでのサブタイプ(変異株)があり、単一株に起因する集団赤痢事件と考えられる。」という結果であった。薬剤感受性については、当所で今回分離したS. sonni、160株と井水より分離したグラム陰性桿菌を用いMICを行い報告する。
また、多数の雑菌混入が考えられる検体(特に水系)からの赤痢菌分離には、増菌培地への適切な種類、量の抗生剤添加が重要と考えられるため今回赤痢菌を検出した井水から定量的に赤痢菌以外の菌を分離し、同定、MICを行ったので併せて報告する。

地研の対応:

行政の対応:

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
今回の事例により規模の大きな伝染病や食中毒事件などが発生した場合に備える上からも、遺伝子検査の充実や迅速キットの利用などによる迅速かつ正確な検査方法は、大変重要なことであると思われるのでさらに追求していきたいと考えている。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料: