No.222 不審物件中の炭疽菌検査に対する対応

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県
事例発生日:2001年10月18日
事例終息日:2002年5月21日
発生規模:
患者被害報告数:特定せず
死亡者数:0名
原因物質:不明
キーワード:バイオテロ,炭疽菌,不審物件,公共交通機関,白い粉

背景:
2001年10月米国では新聞社に勤務する写真編集者の男性が肺炭疽症で死亡する事件が発生した。以降米国ではメデイアなどを狙って「白い粉」の封入された郵便物などが届けられ、炭疽症に罹患し炭疽菌が検出される事例が相次いだ。日本ではこれを模倣した事例が全国的に発生した。福岡県でも同様の事例が多数発生し、検体が搬入された事例は郵便局や公共交通機関など公共性の高い施設で発生した事例であった。

概要:
2001年10月米国で炭疽症の事例が報告された。しかし、当研究所では検査体制が整備されていなかったので、10月10日から検査体制整備を開始した。培養検査法については農政部中央家畜保健衛生所・病性鑑定課の協力を得て10月17日までに検査体制を整えた。最初の検体は10月18日に搬入され、寸前で間に合った。PCR法はプライマーを17日に手配、24日に到着し、2回目以降の検査からPCR法も併せて実施した。10月18日付けで厚生労働省から「炭疽菌等の汚染のおそれのある郵便物等の取り扱いについて」が通知された。ここで不審郵便物に関する対応や検査法が提示された。検査にはPCR法が導入されていた。10月25日、感染症研究所にて「炭疽菌に関する講習会」が開催された。2001年10月~2002年5月までに16事例が発生し、炭疽菌の検査を実施した。16事例の検体は、すべて炭疽菌陰性であった。本県では炭疽菌の検査については警察との細部にわたる連絡やマスコミの対応等すべての窓口が本庁でなされ、命令系統が明確で事件に対する対応が円滑であった。

原因究明:
各不審物件は搬入されると直ちに、P3の安全キャビネット内で検体の前処理、染色および培養を実施した。また、早期診断のため増菌液からのPCR法によるスクリーニング検査も併せて実施した。その結果、搬入された不審物件16検体はいずれも陰性であった。

診断:

地研の対応:
不審物件に関する炭疽菌の検査は、本庁保健福祉部企画課から依頼を受け、警察署から不審物件が搬入された。検査対象物件は、郵便局または個人宅等で発見された不審郵便物11検体および公共交通機関等で発見された白色粉末状物件5検体の合計16検体について、炭疽菌の培養および増菌液からのPCR法によるスクリーニング検査を実施した。

行政の対応:
バイオテロを想定した健康危機管理マニュアルを作成した。(2001年12月)

地研間の連携:
北海道立衛生研究所からPCR法のプライマーや検査にあったっての注意点について教示して貰った。また、その他得られた情報については九州各地方衛生研究所間でメールやFAXによる情報交換を行った。

国及び国研等との連携:
・ 国立感染症研究所細菌部から逐次メールで情報が送信されてきた。
・ 厚生労働省大臣官房厚生科学課長、健康局総務課長、結核感染症課長名で「炭疽菌等の汚染のおそれのある郵便物等の取り扱いについて」(10月18日付け)が通知された。同時にインターネット上で開示され、迅速な対応が可能となった。
・ 10月25日感染症研究所において「炭疽菌に関する講習会」が開催され、PCR用プライマーおよびコントロールDNA(陽性および陰性コントロール)が配布された。

事例の教訓・反省:
・平素からの危機管理体制の整備、情報収集並びに機関間の連携が重要であることが再認識された。

現在の状況:
炭疽菌の検査技術および体制は整備されたが、迅速診断を行うためにはリアルタイムPCRの整備が必要と考えられる。

今後の課題:
感染症の発生は予測が付かない場合が多く、しかも検体数も未知数である。限られた人員での対応は過密な作業が余儀なくされる場合が多いため、感染症における検査人員の予備的応援体制もマニュアル等に明文化されるべきであると考えられた。

問題点:

関連資料: