No.236 エキノコックス症媒介動物疫学調査

[ 詳細報告 ]
分野名:原虫・寄生虫・衛生動物
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:北海道立衛生研究所
発生地域:北海道
事例発生日:1937年以来
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:354名(1995年度まで)
死亡者数:
原因物質:エキノコックス(多包条虫、多包虫)
キーワード:寄生虫、人畜共通感染症、エキノコックス、キツネ、野ネズミ

背景:
1937年に道北の礼文島出身者にエキノコックス症の患者が発生し、その後礼文島在住者および出身者に本症患者が発生した。礼文島では、野ネズミの駆除と毛皮を得ることを目的として1924年から3年間に、千島列島のシンシル島から24頭のキツネを移入した。この時のキツネにエキノコックスが寄生していたと考えられている。これまでに130名を越える患者が島民関係者から発生している。ただし、礼文島では、キツネは密猟などで絶滅し、また、犬を飼わないことを徹底したため、エキノコックスは駆逐され、現在は、新たな患者の発生もない。一方、北海道本島では、1965年に道東の根室市で本症患者が発生した。そこで、野ネズミやキツネの感染状況について検査が行われ、根釧地方の10市町村にエキノコックスの分布が確認された。さらに、1983年に道東の網走支庁管内で飼育されていた豚からエキノコックスが確認された。この地域はこれまでエキノコックスの分布の知られていなかった地域であったため、その後、全道的に媒介動物の感染状況に関する検査が行われることとなった。

概要:
1983年に、従来分布の知られていなかった地域でブタからエキノコックスが検出されたことから、全道的な規模で媒介動物の感染状況調査が開始された。その結果、道東地方だけでなく、道南、道央、道北など、全道各地でキツネや野ネズミ、ブタからエキノコックスが確認され、1990年代前半には、全道一円に分布が確認される状況となった。また、1960年代後半から1980年代にかけては道東の根釧地域を中心に患者の発生がみられたが、近年は道南や道央を含め、全道一円で患者発生がみられるようになり、昨年は札幌市在住者からも患者の発生があった。

原因究明:
北海道庁が実施した媒介動物疫学調査では、昭和41年から平成7年度末までで、イヌ9,792頭中98頭(1.0%)、キツネ20,543頭中3,176頭(15.5%)、ネズミ61,655頭中884頭、ネコ91頭中5頭(5.5%)、タヌキ47頭中1頭(2.1%)からエキノコックスが検出されている。
また、ブタ12,196頭、ウマ24頭からも虫体が確認されている。また、患者数は1937年から1995年の間で354名である。ヒトへの感染源としては、終宿主であるキツネおよびイヌの糞とともに排泄された虫卵がなんらかの機会に口から入り感染する。

診断:

地研の対応:
北海道衛研では、礼文島での本症に関する疫学調査に参加以来、北海道庁が実施する各種調査や対策に参加、協力するとともに、各種調査研究を行ってきた。本症の診断のための血清検査法の開発、改良、そして、住民検診への導入が行われた。また、媒介動物の感染状況に関する動物疫学的検討や媒介動物の生態に関する調査研究、感染実験によるエキノコックスの生物学的検討が行われた。
また、衛生教育用スライド集やパネルを作製した。

行政の対応:
北海道衛生部(現保健福祉部)では、礼文島での患者発生以来、本症の防圧のため、健康診断、媒介動物調査、飲料水対策、衛生教育を実施してきた。また、学識経験者や市町村の代表者などによる北海道エキノコックス症対策協議会を発足させ、各種対策について検討を行っている。

地研間の連携:
北海道以外での患者発生はあるものの、他の都府県ではエキノコックスの分布は知られておらず、本症に対応している地研はなく、地研間の連携はない。

国及び国研等との連携:
厚生科学研究(平成9年度)「流行域が拡大しつつあるエキノコックス症の監視・防あつに関する研究」に参加し、調査研究事業を行った。

事例の教訓・反省:
エキノコックスの流行地が拡大していくなかで、新たな流行地に指定された市町村では、住民の健康診断や衛生教育のための講演会などを行い、予防対策のための取り組みが行われてきた。本疾患を退治するためには、手術による切除が基本のため、早期に発見し、治療することが重要である。しかし、本症は感染してから症状が出るまで数年から十数年を要することや、ヒトからヒトへの感染はなく、時間の経過とともに本症に対する関心や意識は次第に薄れていく傾向がある。

現在の状況:
全道のキツネの感染率は1996年度の調査では38.5%で、近年上昇傾向がみられる。また、都市部にもキツネが生息し、エキノコックスに感染している事例もある。札幌市定住者にも患者発生があり、都市部も含めて全道的に患者が発生しうる状況にある。

今後の課題:
野生動物が関与しているため、抜本的な対策はきわめて困難である。より積極的な衛生教育の実施や検診体制の充実を行う必要がある。また、感染源対策として、キツネに対する対応策の検討が不可欠である。駆除、駆虫を含め、ヒトの生活圏に入り込んでいるキツネに対する効果的な対策の検討が必要である。

問題点:

関連資料:
1)平成8年度食肉検査係・食鳥主査事業概要、北海道保健福祉部食品衛生課(1997)