No.500 百貨店催事場で販売した弁当による腸炎ビブリオ食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/03/17
最終更新日:2016/05/26
衛研名:栃木県保健環境センター
発生地域:栃木県宇都宮市
事例発生日:19998年9月20日14時
事例終息日:1998年9月23日10時
発生規模:摂食者数 1,003名
患者被害報告数:患者数 742名
死亡者数:0名
原因物質:腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)O4:K13 耐熱性溶血毒産生株等
キーワード:食品衛生、大規模食中毒、百貨店催事場、実演販売、生鮮魚介類、細菌学的検査、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、耐熱性溶血毒

背景:
腸炎ビブリオは、夏季に発生する食中毒の代表的な原因菌である。厚生省統計情報部の「食中毒統計」によると近年の細菌性食中毒のうち、腸炎ビブリオによる食中毒は、事件数および患者数において、首位をしめている。最近の食中毒は、患者数が500人を超す大規模事例がしばしば発生しているが、腸炎ビブリオの食中毒においては、患者数50人未満の小規模事例が約80%を占め、大規模事例の発生は少ない。

概要:
1998年9月21日、県内医療機関から百貨店催事場で購入した弁当を食べ、腹痛・下痢等の症状を呈している患者がいる旨、保健所に通報があった。発生期間は、9月20日から23日で発症のピークは21日の午前中であった。確認できた患者は、摂食者1,003名中742名であり症状は、下痢95.0%、腹痛83.3%、発熱34.9%、吐き気34.5%等であった。原因食品としては、百貨店催事場で9月20日から21日に提供された、すし飯の上に、かにフレーク・かに棒・蒸しウニ・いくら・中華ワカメ・桜大根をのせた海産物弁当が疑われた。患者便、未開封弁当および患者の食べ残し食品から数種の血清型の腸炎ビブリオが検出された。

原因究明:
細菌学的検査は栃木県保健環境センター・宇都宮市衛生環境試験所・栃木県県西・県東・県南健康福祉センター・茨城県衛生研究所・医療機関等で行った。
検査材料は、ふきとり10件、食品32件、調理従事者便2件、患者便174件で、そのうち食品15件と患者便83件から腸炎ビブリオが検出された。
当センターにおいて県内で分離された食品由来21株、患者便由来124株の合計145株について検討した。その結果、患者の食べ残し弁当の桜大根及び患者便から共通して分離された腸炎ビブリオO4:K13耐熱性溶血毒産生株27株は、RAPD-PCR及びPFGEにおいて、いずれも同じパターンを示し、同一由来であると推定された。
また、保健所の喫食調査による食品毎のχ2検定では、かにフレーク・かに棒・蒸しウニ・いくら・中華わかめ・桜大根・すし飯のうち、かに棒が最も有意であった。

診断:

地研の対応:
当センターにおいて、分離株の毒素及び毒素遺伝子等の確認を行い、食品及び患者便から得られた同一血清型の腸炎ビブリオについてRAPD-PCR及びパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGR)による遺伝子学的解析を行った。分離株は、宇都宮市衛生環境試験所、栃木県県西・県東・県南健康福祉センターにおいて食中毒事件の行政検査として、患者便、食品残品、ふき取り等の細菌学的検査の結果得られた腸炎ビブリオである。

行政の対応:
原因施設を管轄する宇都宮市保健所が中心となって疫学調査を実施し、食品衛生法に基づく食中毒事件として対応した。

地研間の連携:
本事例では特になかったが、広域的に発生した事例では各地研の担当者と情報交換を行っている。

国及び国研等との連携:
当センターからは感染症情報センターの病原微生物検出情報事務局へ流行・集団発生に関する情報として報告した。

事例の教訓・反省:
百貨店の催し物では、特産物や簡単な加熱調理した食品を販売していたが、近年のグルメ志向や冷凍冷蔵庫等の普及にともない、今回の事件のような生鮮魚介類を調理し持ち帰らせる催事が行われるようになってきている。簡易な催事店舗で危険度の高い弁当及び惣菜等の食品を、大量に調理するといった催事の危険性を再認識するとともに、保健所においては、営業者に対し催事での販売食品を限定するとともに施設改善及び措置基準の遵守について徹底を図った。

現在の状況:
本事例は、宇都宮市が中核市として検査体制を確立するため衛生環境試験所を設置した1998年に発生した。市から腸炎ビブリオを分離後、さらに毒素検出等の詳細な検査を実施したい旨、県に要請があり、当センターにおいて実施することとなった。次年度には保健関係の検査について市と県で役割分担し、委託契約を交わし、検査体制のサポートをした。
県は、宇都宮市に対し平成7年(1995年)から、人事交流及び研修等を実施して、市の検査技術面でのサポートをしている。

今後の課題:
最近の食中毒事件は、患者数が500人あるいは1000人以上といった大規模なものがしばしば発生している。その発生要因としては、食品製造施設の大型化、流通機構の広域化等により同一食品、同一ロットが大量に消費者に提供されることが考えられる。一般的には、腸炎ビブリオで500人以上の大型食中毒が発生するのは少ないが、生鮮魚介類が広域に流通している状況から一層の衛生管理強化が求められる。
腸炎ビブリオ食中毒の検査においては、患者から多種の血清型の菌が分離されたり、食品及び環境由来株では、毒素非産生性の血清型別不能の菌が多く分離されることから、原因特定に苦慮する場合がある。腸炎ビブリオの食品及び環境からの分離方法等についてもさらに検討が必要と考える。

問題点:

関連資料:
・ 腸炎ビブリオによる大規模食中毒事例の疫学的解析:栃木県保健環境センター年報,4, 114-117, (1999)
・ 食中毒発生詳報:平成10年 全国食中毒事件録
・ 情報ひろば「食中毒等事件例」:日本食品衛生学雑誌,40, 5(1999)