No.789 防カビ剤OPP

[ 詳細報告 ]
分野名:化学物質による食品汚染
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:日本
事例発生日:1975年
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:
死亡者数:0名
原因物質:OPP (オルトフェニルフェノール)
キーワード:防カビ剤、OPP、オルトフェニルフェノール、ポストハーベスト、かんきつ類、輸入食品、食品添加物、レモン、オレンジ、グレープフルーツ

背景:
OPP(オルトフェニルフェノール)は、果実、野菜の防カビ剤としてアメリカ、ヨーロッパ各国で広く使用されている。特にかんきつ類に変敗をおこさせる真菌類に対して生育抑制効果を示し、ジフェニルやチアベンダゾール耐性を示す白カビ病菌による腐敗を阻止することができ、これらの防カビ剤と併用することが多い。アメリカやヨーロッパ各国ではかんきつ類の他に、キュウリ、ニンジン、リンゴ、メロン、トマト、マクワウリなどにも5~125ppmの範囲で使用されている。
現在わが国ではOPPは収穫後腐敗の防止目的で使用されている合成保存剤であるということから食品添加物として扱われている。食品添加物の食品への使用は、指定された添加物を定められた食品においてしか使用できない。問題が生じた当時OPPは食品添加物として指定されておらず、指定外の添加物と見なされ、これを含む食品は食品衛生法に違反するものとして扱われた。

概要:
1975年4月4日新聞紙上に、農水省蚕糸試験所の職員がフロリダ産のグレープフルーツ6個の皮から、日本では許可されていない添加物であるOPPを検出したとの記事が掲載された。この記事を契機として、厚生省は保税倉庫に保管されていたアメリカ合衆国産グレープフルーツ、レモン、そしてオレンジについて通関済みのものも含めて出荷を停止させた。ロットごとに厚生大臣の指定検査機関と国立衛生試験所(現国立医薬品食品衛生研究所)で分析を実施し、4月10日前後から検査結果が出始めた。その結果約5400トンのかんきつ類を、OPPを検出したとの理由で処分した。4月時点での検査では通関前でレモンの50%程度が不合格となったが、6月以降の検査では90%以上の合格率となった。一時的にレモンの市場流通量が減少したために、レモンの価格が高騰し1個500円のレモンが出現した。合格率の向上は、アメリカかんきつ類生産者や輸出業者に日本の食品衛生法の理解を得られたため、OPPを使用していないレモンやオレンジが輸入されたためと思われる。しかしこの問題は翌年以降日米間の輸入農産物問題として大きな課題となった。一方国内においては消費者団体、かんきつ類輸入団体とこれを支持する国会議員、国内生産者とこれを支持する国会議員などがそれぞれの立場から主張して、議論がエスカレートした。また国内の消費者団体による不買運動などが展開された。

原因究明:

診断:

地研の対応:
当所においては、1975年に厚生省によるOPP検査の暫定法が定められたのを受けて、同年からグレープフルーツ中のOPPの検査を行った。1975年はグレープフルーツ9検体を分析し、果皮5検体からOPPを1-6ppm検出した。一方果肉からはOPPは検出されなかった。

行政の対応:
厚生省は、使用違反の疑いのあるかんきつ類の出荷を停止するともに、先に述べたようなOPPの緊急検査を行った。OPPの使用については様々な立場から議論が出されたが、厚生省は、科学的な行政判断の立場に立って、食品衛生調査会における遺伝毒性の有無について結論が出るまでは、使用を認めない立場を取った。一方アメリカ側は「WHOもFAOにおいても安全性が認められているものを、なぜ日本だけが遺伝毒性にこだわるか」と批判した。
結果としては、1977年にOPPの遺伝毒性の実験が完了し、人体への影響が否定された。食品衛生調査会での審議をへて、1977年4月30日からOPPおよびOPPナトリウムが食品添加物に指定された(5月2付厚生省環食化28号)。その使用基準は、OPPはかんきつ類以外の食品には使用してはならず、かんきつ類1kgにつき0.010gを越えて残存しないように使用しなければならない。また、OPPナトリウムについても、かんきつ類以外の食品には使用してはならず、OPPとして、かんきつ類1kgにつき0.010gを越えて残存しないように使用しなければならない。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
OPP検査の暫定法の開発は国立衛生試験所と東京都立衛生研究所が中心になって行われた。

事例の教訓・反省:
OPPの食品への使用については、大きく問題となる前年に、すでにかんきつ類の箱にOPP、TBZの使用が表示されていたことが発見されていた。さらに自主検査により150検体中14件の不合格が出ていた。この時点で厚生省から、表示を適正化し、指定外添加物が使用されたものを輸入しないように輸入業者に指示が出ていた。しかし指導と、その後の監視が不十分であったために翌年に大きな問題となった。

現在の状況:
OPPを含む防カビ剤については1976年以降定期的な行政検査が行われているが、大阪府においては過去21年間OPPの使用基準違反は検出されていない。また1994年度に全国で行政検査された1676検体中、487検体からOPPが検出された。検査対象は84%がかんきつ類であり、その検出されたOPPの平均濃度は0.001g/kgであった。OOPの使用基準を越える食品中の残存は認められなかった。バナナやジュースなどからはOPPは検出されなかった。これらの測定値から推察されるOPPの一日摂取量は14μgであった。一方陰善方式によるOPPの1日摂取量は全果で24μg、可食部で0.09μgが報告されている。

今後の課題:

問題点:
OPPの諸外国での使用形態は、農薬としてポストハーベスト(収穫後)の使用が多い。アメリカやヨーロッパ各国では、OPPの残留基準はかんきつ類以外にも、キュウリ、ニンジン、リンゴ、メロン、トマト、マクワウリなどに設定されており、輸入農産物の種類が多くなると、外国で農薬として使用されたOPPが、日本では許可されていない食品へのOPP(食品添加物)の使用として今後も問題になる可能性は残っている。これは日本の法的規制が欧米とは異なるためで、今後国際食品規格の統一化の中で解決が必要と思われる。

関連資料:
1)長野健一,食品衛生研究,25,601-610(1975)
2)厚生省環食化28号(5月2付),厚生省食品保健課・乳肉衛生課・食品化学課共編,食品衛生関連法規集,中央法規出版,334-335(1990)
3)総合食品安全事典編集委員会,総合食品安全事典,株式会社産業調査会事典出版センター,652-653, 1084(1994)
4)Ishiwata H. 食衛誌.,38, 296-306(1997)

OPPについて
性状:白色、淡黄色または淡紅色の粉末、薄片または塊で、得意なにおいがある。性質:水にほとんど溶けないが、エタノールや油脂には溶けやすい。
融点:57~59℃。
FAO/WHOのADIは0~0.2mg/kg。
代謝:OPPをラットに経口投与すると未変化体とその抱合体(硫酸エステルとグルクロニド)以外に、酸化体2,5-ジヒドロキシフェニルとその抱合体(硫酸エステルとグルクロニド)として、投与量の約90%が尿中に排泄される。
毒性:OPPをF344ラットに13週間0.156~2.5%で混餌投与すると膀胱乳頭腫が1.25%の雄で6/12発生したとの報告がある。腎障害も投与量に依存して見られた。その他の報告で、発がん活性代謝物、性差、膀胱内のpH、ナトリウム濃度が重要であることなどが示されている。