No.819 メッキ工場から大量のシアン化ナトリウム流出

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:愛媛県立衛生環境研究所
発生地域:愛媛県松山市
事例発生日:1970年10月
事例終息日:
発生規模:
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:シアン化ナトリウム
キーワード:シアン化ナトリウム、メッキ工場、次亜塩素酸ナトリウム、河川水、水系毒物汚染

背景:

概要:
昭和45年10月5日、午後8時頃から翌6日の午前8時の間に、愛媛県松山市内の某メッキ工場から工場内のパイプの継ぎ目のゆるみが原因で、メッキ液(シアン化ナトリウム9.2%含有)が工場内の最終貯留槽をオーバーフローして工場外の農業用水路へ流出したのち、河川へ合流し4.5kmはなれた海(伊予灘)へ至った。
流出経路にあたる農業用水路と河川には、どじょう、ふな、なまず、こい等が大量に浮死しており、かなりの量のシアンが流れ出たことが予想できた。

行政の対応
10月6日朝、工場から松山保健所に事故の届け出があり、直ちに県薬務課、衛生研究所、松山保健所で事故調査班を編成し次のことを実施した。

(1)河川流域の井戸水を利用している約350世帯に対し、飲料水ならびに雑用水の使用禁止を呼びかけた。なお、地域住民への周知は公民館のマイク、市広報車、警察等の協力を得て実施した。
(2)住民への飲料水の供給については、松山市が自衛隊に飲料水の確保ならびに給水措置を要請し、1日3回、毎回約10トンを確保し自衛隊給水車2台、当工場の車11台によって給水した。
(3)工場から河川合流点までの農業用水路を閉鎖し、流出メッキ液が河川へ流出しないようにした。また、衛生研究所でのシアン化ナトリウムの分析の結果、約121kgのシアン化ナトリウムが工場外へ流出したことが判明したので、10月6日、午後、それを酸化分解するために有効塩素約11%の次亜塩素酸ナトリウム600kgを農業用水路に投入した。
(4)工場内の設備の総点検を実施し、パイプの継ぎ目等の補修を行わせるとともに、現在ある最終貯留槽の次に予備槽を設置させ、万一メッキ液の流出があっても工場外へ流出しないよう改善させた。また、末端の排水口にはストップバルブを取り付け作業終了時は締めることを指示した。

原因究明:

診断:

地研の対応:
(1)井戸水の検査については、保健衛生上の見地から、10月6日から10月9日までの間に周辺の利用井戸水延べ220件についてシアンの分析を行った。
結果は、当該地区の土質が粘土質であったことや周辺の井戸は全てが浅井戸であり、その水位が河川の水位とほぼ同じであったため河川からの水圧がなかったこと等が幸いして、全てが陰性であったことから10月10日には井戸水の飲用および雑用水への使用禁止措置が解除となった。
(2)工場での書類調査等により、10月5日午後6時頃、工場内に存在していたメッキ液(シアン化ナトリウムを9.2%含む)は2.26トンであり、シアン化ナトリウムとして約208kgであった。10月6日、工場内にある各槽の残液中のシアン化ナトリウムを定量したところ総計で約87kgが残っていたことから、工場外へ流出したシアン化ナトリウムは約121kgであることが判明した。
(3)河川水は、10月6日午前中は0.5~103ppm検出し、河口では0.3ppm検出したが、翌10月6日午後5時頃の検査では次亜塩素酸ナトリウムによる酸化分解が有効であったため全く検出しなくなった。
(4)工場内の各槽(調整槽を除く)に溜まっているメッキ液についてはポンプで吸い上げ予備槽へ移し、調整槽と予備槽それぞれに必要量の次亜塩素酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを加え酸化分解を行った。
調整槽内のシアン化ナトリウムは10月15日には、厚生省法で定量したところ0.3ppmとなり、毒物および劇物取締法によるシアンの排出基準(2ppm)を下回ったことから10月16日河川へ放流した。予備槽内のシアン化ナトリウムは酸化分解を受けにくく、11月13日には42ppm残存していたが、12月17日には4.2ppmとなり46年1月末には検出しなくなった。
その後の状況
当メッキ工場はシアンおよびクロムの廃液処理装置を整備していたが、当時愛媛県でシアンの廃液処理装置を整備していたのは10社中3社のみであった。この事件を機会に他の7社もシアンの廃液処理装置を整備するなどの安全対策をした。

行政の対応:

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
事故は発生させないことが最も重要であるが、ひとたび発生した場合は、今回の事例のように本庁担当課、所轄保健所、衛生研究所、市町村等がすばやく連携し、指揮命令系統を確立し迅速かつ正確に事故を処理することが大切である。このことにより住民への健康被害を出すことなく処理を終えることが出来た。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
参考
シアン化ナトリウムの酸化分解反応は次式により進行し、又、NaCN 100kgを分解するに必要なNaClO及びNaOHの量はそれぞれ380kg及び410kgである。
NaCN + NaClO → NaCl + NaCON
2NaCN + 5NaClO + 2NaOH → 2Na2CO3 + 5NaCl + N2 + H2O

文献
松田宏ほか:愛媛衛研年報、32,119(1971)