No.1058 クリプトスポリジウム症の集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:原虫・寄生虫・衛生動物
登録日:2016/03/11
最終更新日:2016/05/27
衛研名:北海道立衛生研究所
発生地域:北海道
事例発生日:2002年4
事例終息日:2002年6月
発生規模:
患者被害報告数:170名
死亡者数:0名
原因物質:クリプトスポリジウム原虫 (ヒト型)
キーワード:クリプトスポリジウム、集団下痢症、遺伝子診断

背景:
本原虫による集団発生は本邦では神奈川県平塚市、埼玉県越生町および兵庫県洲本市の3事例が報告されている。北海道において本原虫の存在は、家畜(牛)の調査および、散発的な患者の発生により確認されていた。

概要:
2002年4月に北海道において、室蘭保健所管内(胆振支庁)の宿泊施設を利用した札幌市の専門学校生300名のうち170名にクリプトスポリジウム感染による集団下痢症が発生した。検査を行った13名の糞便検体のうち6検体から原虫の存在を確認した。その後の聞き取り調査及び検便で、当該宿泊施設従業員28名及び、同時期に宿泊施設を利用した3名の感染者が発見されたが、施設の飲用水・使用水及び宿泊客に提供した食品については汚染を確認できなかった。

原因究明:
下痢症の検査は細菌学的な検査並びにウイルス検査で否定されたため、本症を疑い、クリプトスポリジウムのための検査を行い、本虫の感染を確認した。また、遺伝子型の決定を行い、本症がヒトのみで流行するヒト型のクリプトスポリジウムであることを明らかに
した。

診断:

地研の対応:
保健所経由で、当所に搬入された患者糞便、施設従業員糞便の原虫検査を行った。また、施設の飲用水・使用水及び宿泊客に提供した食品についても原虫検査を行った。

行政の対応:
札幌市の専門学校生の利用した宿泊施設において、所轄保健所により聞き取り調査が行われ、宿泊施設の飲用水・使用水及び宿泊客に提供した食品および宿泊施設の従業員の糞便の収集が行われた。また、本原虫の感染予防に関して指導を行った。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
検査に当たり、国立感染症研究所の指導を受けた。

事例の教訓・反省:
当所ではクリプトスポリジウム症に対して患者ならびに上水からの検出方法について検討を加えてきた。また平成12年度より原虫症の遺伝子診断の研究を行うことで本症の集団発生に備えていたため、検査診断における対応は円滑に行うことができた。これらの経験により本流行に対して迅速な対応が行われた。
遺伝子診断により、今回の集団発生が牛などの家畜由来病原体に起因するものでないことが早い段階で予測された。このことは本症の対策の方針を決定する上で、重要な情報であったと考える。クリプトスポリジウムなどの希少な感染症に関しては日常の検査業務に加え、研究レベルでの活動が重要であると思われた。

現在の状況:
当地研におけるスタッフの異動があったが、現在のところ技術、体制、整備等については、今後の発生に対しても対応可能と考えている。

今後の課題:
本症の流行の解析には遺伝子型の決定は重要な意味を持っていることから、これらの技術を維持する必要がある。流行に当たっての対応については、行政が適切な対応を行ったために、流行の拡大を防ぐことができた。集団発生事例の少ない感染症であるため、発生の規模によっては対策委員会等の設置が必要な状況もあると思われる。

問題点:

関連資料:
1) 北海道保健福祉部食品衛生課食品衛生係,北海道環境生活部環境保全課水道整備係:兵庫県の団体に発生したクリプトスポリジウムによる集団下痢症(食中毒疑い)に係る調査結果について,北海道保健福祉部,北海道環境生活部,札幌,2002
2) 札幌市保健衛生部地域保健課,生活環境課:下痢,腹痛等を呈する有症者の発生について(続報),札幌市保健衛生部,札幌,2002
3) 北海道保健福祉部保健予防課,北海道保健福祉部食品衛生課,北海道環境生活部環境保全課,北海道環境生活部廃棄物対策課:クリプトスポリジウム症患者の発生について(続報),北海道保健福祉部,北海道環境生活部,札幌,2002
4) 八木欣平、伊東拓也、山野公明、古屋宏二:2002年北海道で集団発生したクリプトスポリジウム症の原因となったCryptosporidium parvumの遺伝子型について:道衛研所報,53,39-42(2002)