No.1333 チョウセンアサガオかき揚げ事件

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:福岡県保健環境研究所
発生地域:福岡県遠賀郡岡垣町
事例発生日:2007年3月10日
事例終息日:2007年3月14日
発生規模:1家族
患者被害報告数:3名
死亡者数:0名
原因物質:チョウセンアサガオ
キーワード:チョウセンアサガオ、ブルグマンシア、ダチュラ、エンゼルトランペットアトロピン、スコポラミン

背景:
2007年3月に福岡県遠賀保健福祉環境事務所(遠賀HHE)管内でチョウセンアサガオによる食中毒事件が発生した。チョウセンアサガオは別名、ブルグマンシア、ダチュラ、エンゼルトランペットとも呼ばれる観賞用の植物である。一般にチョウセンアサガオと呼ばれるものの内、草本で一年草、花が上向きに咲く種類をダチュラ、木本で多年草、花が下向きに咲くものをブルグマンシアと分類され、希に果実を結実することがある。本事例ではその果実をオクラと誤認し調理していた。チョウセンアサガオの有毒成分はアルカロイドのアトロピン、スコポラミンであり、副交感神経抑制作用、中枢神経興奮作用を示し、言語障害、錯乱、瞳孔の拡大等の症状を発生させる.また,違法(脱法)ドラッグとして乱用も報告されている。チョウセンアサガオによる食中毒事件は、ダチュラ等の別名で呼ばれているためこれら植物に有毒成分を含むことが一般には認知されていないことから、最近頻発する傾向が見られるため注意する必要がある。

概要:
2007年3月12日9時30分、遠賀HHE管内の医療機関より、3名の食中毒疑いの患者が発生した旨の通報があった。患者は3月10日に搬送されており、主症状はめまい、幻覚、独語、瞳孔散大、意識障害であった。検査により、収集された患者尿及び残食のかき揚げの両者から、スコポラミン及びアトロピンが検出された。また、患者の自宅に、調理の際に残ったチョウセンアサガオのさやの一部が回収されたため、植物性自然毒による食中毒であることが断定された。検出濃度は、尿では、アトロピン0.0005~0.0017μg/mL、スコポラミンND~0.0003μg/mL、食品残品のかき揚げ中の実では、アトロピン24μg/g、スコポラミン160μg/gであった。

原因究明:
料理を食べた家族は事件直後の事情聴取に際し、タマネギとピーマンのかき揚と答えていたが、調理を行った母親がかき揚を作る際に、保存していたチョウセンアサガオの果実をオクラと間違え調理したことが判明した。チョウセンアサガオの果実は当該家族が当所に引っ越す前の住居で秋に結実したものであった。母親が珍しいと思い、引っ越し先に植える目的で保存していた。事件発生日にタマネギのかき揚を作る際、チョウセンアサガオの果実をオクラと思い込みかき揚にしたものであった。チョウセンアサガオは希に果実を作ることがあり、形状がオクラに似ていたことから誤食したものと推察された。

診断:
1.抽出方法
試料1gに5%硫酸ナトリウム溶液25mlを加えホモジナイズし、2500rpm、5分遠心上清をアンモニア水でpH9に調整後20mlジエチルエーテルで2回抽出、2N塩酸を加え水相を抽出、再びアンモニア水でpH9に調整後40mlクロロホルムで抽出、クロロホルム相を脱水、濃縮、乾固しアセトン1mlに溶解し分析試料とした。
2.分析方法
LC/MS/MS分析条件
カラム:Inertsil ODS-3(5μm,2.1×150)、オーブン温度:40℃
移動層:2mM酢酸アンモニウム:メタノール(73:27)
流速:0.2ml/min、測定モード:MRM、注入量:5μl

地研の対応:
3月12日16時29分に福岡県生活衛生課より食中毒発生状況および検査材料(食品残品、患者尿)のFAXがあった。患者症状が前年(2006年)に福岡県久留米HHE管内で発生したチョウセンアサガオの食中毒事例に類似していたことから検査対象物質をアトロピン、スコポラミンとして検査準備に取り掛かった。遠賀HHEから20時15分に食品残品(かき揚げ、大根漬物、ゆでブロッコリー、フライドポテト)および患者尿(3件)が搬入された。原因食品が不明で被害が拡大する可能性があったため、直ちに検査を開始した。食品の均一化の過程でタマネギとピーマンのかき揚とされた食品の中に明らかにこれらとは異なる植物破片(後にチョウセンアサガオの種と判明)が認められた。これら検体試料から植物アルカロイドを抽出し、LC/MS/MSにより原因物質のアトロピン、スコポラミンを定量した。翌朝、かき揚よりアトロピン、スコポラミンが検出されたため直ちに遠賀HHE連絡し、原因究明のための調査を行った。

行政の対応:
事件発生直後に遠賀HHE担当者が医療機関、家族から聞き取り調査を行ったが、調理を行った母親の意識が混濁していたため詳細は不明であった。夕食の食品残品、患者尿を採取し、保健環境研究所へ搬送、原因物質の究明を行った。翌朝、かき揚からアトロピン、スコポラミンが検出されたことを受け、直ちに調理した母親から聞き取り調査を行った。当初は記憶があいまいであったが、前年秋に収穫したチョウセンアサガオの果実を保存していたことを思い出し、誤って調理した可能性があることが分かった。台所の野菜くず入れから、調理残品のチョウセンアサガオの果実の一部を回収した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
特になし

事例の教訓・反省:

現在の状況:
標準品、分析法を保存し事件の発生に備えている。

今後の課題:
自然毒による食中毒は発生頻度が低く、原因物質の特定、定量に時間がかかる場合が多い。原因物質特定のために疫学情報の収集や、分析法、標準物質の入手など日頃からの準備が必要である。

問題点:
発生頻度の低い中毒事例に対する速やかで効率的な分析体制の確立。
有毒植物に対する住民の啓発活動

関連資料:
福岡県保健環境研究所ニュース 第60号 平成19年(2007)6月