No.1493 新型インフルエンザの大阪府内高校での集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:大阪府立公衆衛生研究所
発生地域:高校存在場所(大阪府茨木市)患者発生地域(大阪府全域、兵庫県の一部)
事例発生日:2009年5月
事例終息日:
発生規模:1高校における100名を越す患者発生
患者被害報告数:在校生・職員・患者家族における確定患者107名
死亡者数:0名
原因物質:新型インフルエンザ(パンデミックインフルエンザ H1N1 2009)
キーワード:新型インフルエンザ、アウトブレイク、学校閉鎖

背景:
平成21年4月24日ごろから「メキシコとアメリカで豚インフルエンザがヒトからヒトへ感染していることが確認された。」との情報が報道され始めた。それらの情報を受けてWHOは、4月28日(日本時間)に新型インフルエンザに関する発生段階が「フェーズ4」であることを宣言し、この宣言を受けて日本の厚生労働省も「新型インフルエンザの発生」を宣言した。

概要:
大阪府においては、神戸市で国内初の確定患者が確認された5月16日に、豊中市内に在住し茨木市内の私立高校に通学する生徒について、公衆衛生研究所でPCR検査を実施したところ新型インフルエンザウイルスの遺伝子が確認され(翌17日に国立感染症研究所における検査をもって確定)、府内初の確定患者となった。さらに、大阪府北部を中心として、当該患者が通学する高校の生徒を中心に感染が疑われる患者が相次いで報告されたことから、同様にPCR検査を実施したところ陽性と判定される事例が続き、新型インフルエンザによるアウトブレイクが起こったことが明らかになった。患者確定数は高校生徒86名、生徒家族19名、教員等2名であった。大阪府では18日から府内の中学、高校の全学を学校閉鎖とし、このアウトブレイクに関連した患者発生は一旦終息した。さらに大阪府立公衆衛生研究所では、この学校の同意を得た生徒・職員等について8月末に採血し、新型インフルエンザウイルスに対する中和抗体を測定した。対象者647名の抗体価分布は、160倍以上が102名(15.8%)、10〜160倍未満が211名(32.6%)、10倍未満が334名(51.6%)であった。
アンケート調査とPCR検査の結果、160倍以上の高い中和抗体価を有する対象者は、新型インフルエンザウイルスの感染を受けた可能性が非常に高いこと、中和抗体価160倍以上で採血時まで無症状であった約2割に相当する18名は不顕性感染の可能性が高いことが示された。

原因究明:
リアルタイムRT-PCR、MDCK細胞を用いたウイルス分離・血清学的同定、中和抗体価の測定

診断:
新型インフルエンザ(パンデミックインフルエンザ H1N1 2009)

地研の対応:
大阪府立公衆衛生研究所では、4月はRT-PCR法による検出方法を実施していた。5月上旬に国立感染症研究所がリアルタイムRT-PCR法による検出方法を確定したので、当所では5月9日にリアルタイムRT-PCR法を導入した。検査体制は、5月16、17日は24時間体制を採り、18日以降は1日2回検査を実施することになった。検査は呼吸器担当2名とその他の検査担当8名(合計10名)が行い、電話対応などは総務課からも1名/日の応援を得た。この検査体制は8月4日まで継続した。

行政の対応:
4月下旬、海外での新型インフルエンザの発生が報道された時点から、大阪府新型インフルエンザ対策本部事務局(健康医療部保健医療室地域保健感染症課)において、24時間体制で情報の収集を行うとともに、対策の協議を開始した。業務内容別に班体制を編成し対策に当たった。今回の新型インフルエンザ対策にあたって、保健所は、初動対応としての情報収集から、電話相談への対応、検疫所からの依頼による濃厚接触者の健康観察、発熱外来の設置依頼等の医療提供体制の整備、感染が疑われる患者の検体採取・搬送、積極的疫学調査と、その結果に基づく保健指導や予防内服の指示等の感染拡大防止措置など、広範な業務を担うこととなった。大阪府では新型インフルエンザ対策にかかる意思決定等を行うため、知事を本部長として副知事、各部局長をメンバーとする対策本部会議、担当課長をメンバーとする幹事会を設置しており、対策本部会議は7月13まで5回行われた。

地研間の連携:
大阪市環境科学研究所、堺市衛生研究所と連絡をとり、府全体としてインフルエンザウイルス検出状況をホームページ上に公開した。

国及び国研等との連携:
発生初期は国立感染症研究所から試薬が分与された。また、初期11検体については国立感染症研究所で確定検査を行った。

事例の教訓・反省:
当該高校では1週間前から学級閉鎖が行われていたが、当時はA香港型インフルエンザウイルスが流行していたことや、当該高校生に海外渡航歴がなかったために、新型インフルエンザウイルスの検査が実施されなかった。症例定義を満たさない場合でも、検査を実施するべきであったかもしれない。

現在の状況:
検査体制:病原体サーベイランスおよび集団発生に係わる病原体検索および重症サーベイランスを実施。検出方法はリアルタイムRT-PCRとウイルス分離同定検査。検査を円滑に行うためにP3安全実験施設、リアルタイムPCR装置、核酸自動抽出機が新規に導入された。

今後の課題:
新規感染症においてはできるだけ早期に患者発生を確認できるように、臨床現場、保健所、関係本庁担当課、衛生研究所が常に連絡を取りあって、症例定義等にかかわらずできるだけ柔軟に対応しなければならない可能性があること。

問題点:
現状がどのような段階にあり、どのような対策を行うかは、実情を把握している地方自治体の判断が優先されるべきである。今回の対策に関して、地方自治体には多くの人的、物的な負担が発生した。これに対しては、国において必要な財源措置を講じるべきである(検査試薬等が早期に地方衛生研究所に配布された点は評価できる)。また、地方自治体の負担が伴う対策を決定するにあたっては、事前に十分な協議を行うべきである

関連資料:
平成21年度 大阪府立公衆衛生研究所 年報
「新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)対策の検証」について(平成22年9月28日)
http://www.pref.osaka.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=4958

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