No.1543 利根川水系の浄水場におけるホルムアルデヒド検出事案

[ 詳細報告 ]
分野名:その他
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:群馬県衛生環境研究所
発生地域:群馬県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都
事例発生日:2012年5月17日
事例終息日:2012年5月20日
発生規模:利根川・江戸川流域の8浄水場で取水障害 千葉県内で36万世帯(87万人)が断水又は減水
患者被害報告数:0名
死亡者数:0名
原因物質:,3,5,7-テトラアザトリシクロ[3.3.1.13,7]デカン(別名「ヘキサメチレンテトラミン」)及びホルムアルデヒド
キーワード:キ-ワ-ド:ホルムアルデヒド、1,3,5,7-テトラアザトリシクロ[3.3.1.13,7]デカン ヘキサメチレンテトラミン、HMT、塩素、浄水場、水道水、河川水、水質汚濁

背景:
ホルムアルデヒドの規制関係水道水質基準:0.08mg/L
工場排水基準:10mg/L(群馬県の生活環境を保全する条例)

概要:
1被害の発生状況
平成24年5月15日、埼玉県企業局の定期水質検査において、水道水質基準に近い濃度のホルムアルデヒドが検出された。このため、利根川及び江戸川から取水している水道事業者等が水質検査を実施したところ、いくつかの浄水場から供給される水道水中のホルムアルデヒド濃度が水道水質基準を超過する見込みとなったことから、順次、取水停止等の措置をとった。
2水道事業者等における対応
(1)粉末活性炭による吸着処理や塩素注入点の変更を行ったが、その効果は極めて限定されていた。
(2)オゾン及び生物活性炭等の高度浄水処理設備を有していない浄水場では、原水中のホルムアルデヒド生成能の上昇により、取水を制限又は停止して、地下水等の他の水源への切り替え、ストックされていた備蓄水等の利用、影響のない浄水場からの融通等により対処した。
(3)希釈及び流下の促進を目的として、ダム等の貯水施設から緊急放流を行い、一定の効果があった。しかしながら、水道原水(河川水)に塩素を添加した後のホルムアルデヒド濃度上昇が長期間に及んだことから、水道水質基準を超過する浄水の供給を回避するため、5月19日に一部の浄水場で給水の停止に至った。
『影響のあった浄水場』
・茨城県五霞町川妻浄水場
5月19日3:00から9:00まで取水停止。活性炭注入と塩素注入点の変更で対応。
・群馬県東部地域水道浄水場
5月18日23:45から19日10:14まで取水停止。
・埼玉県企業局行田浄水場(利根川利根大堰)
5月18日22:30から19日5:19まで取水停止。
・埼玉県企業局庄和浄水場(江戸川)備蓄水と混合して供給。
・千葉県野田市水道局上花輪浄水場(江戸川)
5月18日15:55から取水及び配水を停止、5月22日午前6時から取水を再開。
・北千葉広域水道企業団北千葉浄水場(江戸川)
5月18日19:15から19日1:30取水停止、19日7:25から17:30取水停止(2回目)。
5月19日10:30から18:04、受水団体への送水停止。
・千葉県水道局栗山浄水場
5月19日0:30から8:05及び11:45から18:40まで取水停止。
・東京都水道局三郷浄水場
20日9:30に取水・配水を全面停止。その後、取水を再開。23日11:00より送水再開。
3水道の断水等の状況について
千葉県野田市水道局上花輪浄水場、北千葉広域水道企業団北千葉浄水場及び千葉県水道局栗山浄水場の取水停止に伴い、5月19日に千葉県内の5市(36万戸、87万人)で断水又は減水が発生した。
断水、減水となった市では、拠点給水所の設置、自衛隊給水車による応急給水等を行った結果、給水停止措置は5月20日にはすべて解消した。

原因究明:
埼玉県に所在する事業者が、高濃度のヘキサメチレンテトラミンを含む廃液の処理を、高崎市内の廃棄物処理業者に委託した。
委託を受けた事業者は、ヘキサメチレンテトラミンを含む廃液を、計65.91トン(廃液には約10.8トンのヘキサメチレンテトラミンが含まれると推定)受け入れ、5月10日~19日の間、中和処理を行い、処理水を新柳瀬橋上流で烏川に合流する排水路に放流した。
当該事業者が行った廃液の処理でヘキサメチレンテトラミンが十分に処理されないまま河川中に放流され、利根川水系の広範囲の浄水場において、浄水過程で注入される塩素と反応し、消毒副生成物としてホルムアルデヒドが生成した過去の事案と関連性が高

診断:
厚生労働省と環境省は5月21日に「利根川水系における取水障害に係る水質事故原因究明連絡会議」を開催し、連携して原因究明調査を実施した結果、以下が判明したため5月24日に報道発表した。
1 原因物質の推定
国立医薬品食品衛生研究所における検討により、事故発生時の水道原水の分析結果や水道原水のホルムアルデヒド生成能との相関関係から、今般のホルムアルデヒドの水道水質基準超過へのヘキサメチレンテトラミンの強い関与が示唆された。
2 排出された原因物質の量
国立保健医療科学院における推計(速報値)によると、水質異常の原因物質がヘキサメチレンテトラミンであった場合、水道原水のホルムアルデヒド生成能や利根大堰地点の流量、取水量等から、利根川水系に流入した原因物質の量は0.6~4トン程度と推計された。

地研の対応:
行政部局からの要請に基づき、河川水、事業所排水の分析を実施した。

行政の対応:
1.群馬県の対応
5月19日 河川水(7地点)事業所排水(1事業所)の調査を実施、5月20日に公表
5月20日 県内河川の定点監視体制(5地点)を整備
5月23日 県内河川の定点観測地点の追加(4地点)実施]
5月21~24日 アミン系化学物質を取り扱っている事業所への実地調査(16事業場)
5月25日 ヘキサメチレンテトラミンを取り扱っている事業所(3事業場)への追加詳細調査の実施
6月1日 ヘキサメチレンテトラミンの適正管理について業界団体等に通知
6月7日 利根川水系の浄水場におけるホルムアルデヒド検出事案の調査結果の公表
6月12日 関東知事会として「浄水過程においてホルムアルデヒドの生成させる物質の規制」について国に要望書提出
6月18日 県環境審議会に対して「利根川水系におけるホルムアルデヒドによる利水障
害に関する今後の措置について」諮問
6月22日 県環境審議会水質部会を開催し県独自の取り組み等審議
6月29日 群馬県として国の施策等に関する政策要求で「浄水過程におけるホルムアルデヒド生成物質の規制について」要望書提出
7月6日~ ホルムアルデヒド生成と関係ない物資を除外した85物質を取り扱う県内55事業場の調査を実施(7月31日まで)
8月30日 県環境審議会水質部会を開催し県独自の取り組み等審議
8月31日 県環境審議会から答申
12月14日 利水障害の原因となる化学物質の適正管理等を推進する趣旨の「群馬県の生
活環境を保全する条例改正案」が12月県議会で可決(12月28日公布予定)
2.利根川・荒川水系水道事業者連絡協議会
6月6日 利根川・荒川水系水道事業者連絡協議会(利根川及び荒川の両水系から取水する水道事業者43団体で構成)から「ホルムアルデヒド検出に関する国への緊急要望書」を提出
3.国における検討状況
環境省において「利根川水系における取水障害に関する今後の措置に関する検討会」を開催し、県も委員として参画。会議は6月14日に第1回が開催され、その後7月31日、8月9日に開催された。また、ヘキサメチレンテトラミンが水質汚濁防止法の指定物質に指定されるなど、所要の法令改正が行われた。
厚生労働省においても、7月20日に「水道水源における消毒副生成物前駆物質汚染対応方策検討会」を開催し、その後10月16日にも開催され、現在も、消毒副生成物等の取扱いについて、検討を行っている。

地研間の連携:
埼玉県環境科学国際センターからホルムアルデヒド生成方法及び分析方法について情報提供を受けた。

国及び国研等との連携:
ホルムアルデヒド生成と関係ない物資のリストについて、環境省を通じて国立環境研究所から提供を受けて、県内の事業場における実態調査を実施した。

事例の教訓・反省:
本県では河川中に微量に存在するホルムアルデヒドの調査研究を行っていたため、行政から要求された低濃度分析にも迅速に対応できた。

現在の状況:
水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)第2条第4項で定める指定物質として、ヘキサメチレンテトラミンが追加された。(平成24年10月1日施行)県では、利水障害の原因となる化学物質の適正管理等を推進する趣旨の「群馬県の生活環境を保全する条例改正」を行い、現在、規則や指針等策定作業を行っている。

今後の課題:
1. 人員や分析技術を含め、緊急時における未規制化学物質(特に化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)により河川環境中への排出量が届出されている化学物質)等の検査体制を検討する必要がある。
2. 水道部局(水道水調査機関)と分析技術等の情報共有を確立する必要がある。

問題点:
特記事項なし

関連資料:
利根川水系における取水障害に関する今後の措置に係る検討会(環境省)http://www.env.go.jp/water/confs/tonegawa_intake.html

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