No.1584 麻しんウイルスD8型の広域散発事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:川崎市健康安全研究所
発生地域:川崎市、東京都、藤沢市、静岡市
事例発生日:2013年8月6日
事例終息日:2013年8月31日
発生規模:5名(川崎市1名、東京都1名、藤沢市2名、静岡市1名)
患者被害報告数:
死亡者数:0名
原因物質:
キーワード:麻しん、Measles virus、RT-PCR、遺伝子型、D8、

背景:
麻しんは日本国内で以前循環していたD5株が2010年5月を最後に検出されておらず、土着株がない状況が続いている1)。現在報告症例の多くは散発例であるが、時にアウトブレイクも見受けられる2,3)。2013年7~8月にかけて、潜在的な疫学的リンクが疑われたD8型ウイルスによる麻しん症例が、川崎市を含めた複数の自治体において発生した。

概要:
2013年8月19日、台湾に渡航後、発熱・発しん・結膜充血を呈した麻しんが疑われる患者検体が搬入された。RT-PCR検査の結果、麻しんウイルス遺伝子が検出され、ウイルスの遺伝子型はD8であった。その後、7月1日以降に遺伝子型決定部位450塩基配列が完全に一致するD8型ウイルス株による麻しん症例が東京都に1例、藤沢市に2例、静岡市に1例あったことが感染症発生動向調査によって報告されたが、藤沢市の兄弟例以外の疫学的リンクについては不明であった。また、同時期に台湾CDCから感染症疫学センターに、台湾で土着株ではないD8症例が発生しているという情報が入った。複数の自治体でD8症例が報告されていることから、事例全体を把握することが重要と考え、厚生労働省は自治体間の情報共有の必要性について、関係自治体(東京都、神奈川県、川崎市、藤沢市、静岡市)に連絡を行い、10月10日には厚生労働省健康局結核感染症課、国立感染症研究所を交えた電話会議にて疫学調査に必要な情報の共有がなされた。

原因究明:

診断:

地研の対応:
医療機関から搬入された、血液、咽頭ぬぐい液ならびに尿について、RT-PCRによる麻しんウイルス遺伝子検出を試み、全ての検体が陽性となった。さらに、DNAシークエンスによる塩基配列解読とBLAST検索により、麻しんウイルス遺伝子型D8と判明した。

行政の対応:
各自治体の衛生研究所ウイルス検査担当と感染症情報センターがリンクすることで、ウイルス学的、また、疫学情報の詳細な解析を行うことができた。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
各自治体から遺伝子配列ならびに症例の情報を国立感染症研究所にて集約した。国立感染症研究所ウイルス第三部において麻しんウイルスD8型の遺伝子配列の系統樹解析を行った。その結果、相同性は100%一致した。また、関連自治体と厚生労働省健康局結核感染症課及び国立感染症研究所において電話会議を試行した。

事例の教訓・反省:

現在の状況:
麻しんウイルスD8の輸入症例は減少しているが、2014年1月現在、東南アジア圏、とくにフィリピン渡航者でB3が増加している。今後も麻しんウイルスの検査診断を継続して行う必要がある。

今後の課題:
本事例では4自治体から5例の麻しんD8症例が確認され、台湾との疫学的リンクがあった可能性も示唆された。ウイルス株は全遺伝子が解析されたわけではないが、遺伝子型決定部位が同一配列であったこと、過去の輸入症例とは異なるウイルス株であること等から、同一のウイルス株が広がった可能性が否定できない。また、ウイルス株の確認ができておらず、届出もされなかった症例の中に、疫学的リンクのある麻しん症例が存在していた可能性もあると考えられた。今回のように複数の自治体にまたがり症例が確認される事例では、自治体の枠を超えてウイルス株や疫学情報を共有することが重要であるが、各自治体の活動のみでは限界があると感じた。麻しん排除に向けて、各自治体から得られた情報を厚生労働省および国立感染症研究所が主体となり収集し、対策を行っていく枠組みが必要と考える。また、潜在的な疫学的リンクを明らかにするために、麻しん症例に対するウイルス遺伝子検査の施行および遺伝子配列の解析をより一層推進していく必要がある。

問題点:

関連資料:
1)IASR 33: 27-29, 2012
2)IASR 33: 31-32, 2012
3)IASR 33: 32-33, 2012