No.1599 弁当によるノロウイルス食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:広島市衛生研究所
発生地域:広島市及びその周辺
事例発生日:2012年12月10日
事例終息日:2012年12月14日
発生規模:
患者被害報告数:患者数2,035名(入院0名)
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルスG II
キーワード:ノロウイルス、食中毒、弁当、ノロウイルスG II/4Sydney2012

背景:
2012年は、ノロウイルスG II/4Sydney2012変異株が初めて検出された年であるが、広島市においても本変異株が10月から老人施設胃腸炎事例や食中毒事例において検出されていた。このような状況下で、12月に仕出し弁当及びスーパーで販売された弁当を原因とした食中毒事例が発生した。その規模は、患者数2,035名というノロウイルスによる食中毒
としては統計のある2003年以降国内で過去最多となった。

概要:
2012年12月12日、市民から「会社で給食弁当を食べた数十名が嘔吐、下痢等の症状を発症している」旨の連絡が広島市保健所にあった。また、同じ頃、弁当の製造者である株式会社D食品から「弁当の配送先10事業所等から体調不良者がでていると連絡があった」旨の報告があり、調査を開始した。
調査の結果、2012年12月10日(月)、11日(火)、12日(水)に(株)D食品が製造し、配達した仕出し弁当及びスーパー等で販売した弁当を喫食した2,035名(551事業所等)が、12月10日(月)から14日(金)にかけて嘔吐・下痢等の症状を呈していた。
検査の結果、患者便17検体、従事者便7検体、スワブ2検体からノロウイルスG IIが検出された。検食からはノロウイルスは検出されなかったが、患者間に他の共通食がなく、患者の発症状況が、ノロウイルス食中毒の症状及び発症時間と一致することから、当該施設で製造された弁当を原因とするノロウイルス食中毒と断定した。
検出されたノロウイルスについて後日実施した遺伝子解析の結果、遺伝子型は、ノロウイルスG II/4Sydney2012変異株であった。

原因究明:
患者便18検体、従事者便28検体、食品(検食)12検体、使用水(井戸水)1検体、施設のスワブ10検体を検査し、患者便17検体、調理従事者便7検体(調理担当4検体、盛り付け担当3検体)、2か所のトイレのスワブからノロウイルスGIIが検出された。しかし、食品及び使用水からはノロウイルスは検出されなかった。
汚染経路については、施設への立ち入り調査、患者の喫食調査、検体からのノロウイルス検出状況から、感染した調理従事者、若しくはトイレで汚染を受けた調理従事者が、調理場内にノロウイルスを持ち込み、調理、盛付工程で食品を汚染したと推察された。原因食品については、聞き取り調査データの統計処理、食品からのノロウイルスの検出結果からは、特定することはできなかったが、12月10日、11日、12日のいずれかの弁当しか喫食しなかった人からも発症が確認されており、汚染が3日間に渡って継続していたと推定された。
後日、トイレのスワブ2検体、従事者便4検体、患者便7検体から検出されたノロウイルスについて遺伝子解析検査を実施したところ、すべてがノロウイルスG II/4Sydney2012に型別された。

診断:

地研の対応:
搬入された患者便18検体、従事者便28検体、施設の拭き取り10検体、検食12検体、使用水(井戸水)1検体についてノロウイルスの検査を実施した(患者便、スワブについては、細菌検査も実施)。その他ノロウイルスの検出された従事者の陰性確認検査、及び遺伝子解析による遺伝子型別を実施した。

行政の対応:
広島市保健所は、2012年12月12日に本事例探知後直ちに調査を開始した。施設への立ち入り調査、患者の聞き取り調査、患者便の検査状況から施設に対し12月13日に営業禁止を命じた。その後、施設の調査、衛生指導、改善の確認、ノロウイルスが検出された従事者の陰性確認等を実施し、2013年1月7日に営業禁止処分の解除を行った。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:
国立感染症研究所感染症疫学センターの病原微生物検出情報事務局へ流行・集団発生に関する情報として報告した。

事例の教訓・反省:
2,035名という多くの患者を出した事例であったにもかかわらず、食品からノロウイルスを検出することができなかった。今後は、食品からのノロウイルスの検出感度を上げる手法の導入の必要性を感じた。

現在の状況:
食品からのノロウイルスの検出感度を上げるため、現在では、状況に応じてパンソルビントラップ法を実施する体制をとっている。

今後の課題:
原因究明のためには食品検体からノロウイルスを検出することが望まれる。しかし、食品のノロウイルス検査にパンソルビントラップ法を実施すると検出率の向上が期待されるが、従来法より費用と手間(工程が多い)と時間を必要とする。食中毒(疑い)事件が起きた場合、患者便、従事者便、スワブ、食品と多くの検体が時間差で搬入されてくる。検査員数、作業環境、時間等の制約がある中で、多数の食品検体を本法で検査することは、事件が大きいほど困難となる。疫学調査等によりいかに有効な検査を実施するかが課題である。

問題点:

関連資料:
1)田中寛子他:平成24年度に広島市内で発生した大規模ノロウイルス食中毒事例の検査概 要,広島市衛生研究所年報32.71-73(2013)
2)石井宏幸他:ノロウイルスの継続汚染が疑われた大規模食中毒事件の検証,平成25年度食品衛生監視員等業績発表会抄録(広島市)1-4
3)藤井慶樹他:2012/13シーズンに広島市で発生したノロウイルスによる大規模食中毒,ウイルス性下痢症研究会第25回学術集会抄録集15