No.1615 野外活動中のノロウイルスの集団発生

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:埼玉県衛生研究所
発生地域:埼玉県
事例発生日:2014年2月7日
事例終息日:2014年2月13日
発生規模:生徒約800名
患者被害報告数:295名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルス
キーワード:ロウイルス、野外活動、汚染環境

背景:
平成26年2月にA高校において約300人の生徒等が下痢・おう吐等の症状を呈した旨の連絡が保健所に入った。学校外で実施されたマラソン大会(大会)での集団感染が疑われたので、食中毒、感染症の両面からの原因究明調査が実施された。

概要:
保健所の疫学調査の結果、大会参加者712人のうち、295人に下痢等消化器症状の発症が認められ、大会に参加していない50人に発症者は認められなかった。発症時間は、大会実施日の午後から5日後の午前までに分布し、発症者の95.6%に当たる282人が大会終了後48時間以内の発症であった。また、学校の協力により早期に検体が収集された発症者18人中17人からノロウイルス遺伝子が検出された。発症者間の共通飲食物は、大会で配布された市販のアップルジュース(250ml入り紙パック)のみであった。当該品の内容物及び空き箱のふき取り検体からはウイルスは検出されなかった。一方、大会会場のトイレ、待機場所(芝生)等の環境検体の検査の結果、芝生に放置された便検体からノロウイルス遺伝子が検出された。行動歴調査結果と検査結果を総合的に検討した結果、汚染環境との直接又は間接的な接触により発症者自身の手指汚染が起こり、それを介した感染拡大の可能性が強く示唆された。

原因究明:

診断:
発症者及び環境検体からのノロウイルス遺伝子の検出は、RT-リアルタイムPCR法により実施し、ノロウイルス遺伝子検出例はいずれも遺伝子群GIIであった。

地研の対応:
1) 患者検便
発症者18人及びジュースを配布した非発症者2人の計20人について、カンピロバクター、サルモネラ、ウエルシュ、セレウス、赤痢、腸炎ビブリオ、病原大腸菌の分離培養及びノロウイルスの遺伝子検出を試みた結果、発症者17人からノロウイルス(GII)が検出された。
2)  環境検査
大会会場で配布されたアップルジュース、ジュースの空き箱、学校校舎内トイレ、大会会場のトイレ、大会会場トイレ清掃用具、大会会場芝生表面及び芝生上に放置された便についてノロウイルスの遺伝子検出を試みた結果、大会会場の芝生上の便のみからノロウイルス(GII)が検出された。
3) 疫学調査
保健所により送付された調査対象者の調査結果のクリーニング及び解析を行った。調査対象者762人中大会参加者は712人(生徒660人、教職員52人)、発症者は295人(生徒291人、教職員4人)ですべて大会参加者であった。大会におけるリスク行動と発症との関連を検討した結果、ジュースの飲用(オッズ比5.8 95%CI3.39~9.82)、トイレの利用(OR1.8 95%CI1.29~2.41)、芝生との接触(OR1.9 95% CI1.39~2.63)に有意差が認められた。

行政の対応:
特記項目なし

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
本事例は、発症者の流行曲線の特徴から集団食中毒が疑われたが、共通飲食物は市販のアップルジュースのみであった。当該品は、パックの側面にストローが添付されており、アルミ箔の蓋をそのストローで突き刺し飲む構造のものであった。汚染した手指でその行為が行われたことで感染が成立したと考えられた。野外活動を実施する際には、会場設営時に感染の原因となる便等不衛生なものがないか注意し、必要に応じ汚染物の除去や参加者への衛生上の注意喚起を行う必要がある。

現在の状況:
特記事項なし

今後の課題:
本事例は、感染性胃腸炎の流行期に発生したノロウイルスによる事例である。感染力の強い疾患の予防のためにも、流行に関する情報を注意喚起のための情報として発信するなどの工夫が必要と考えられる。

問題点:
本事例は、衛生研究所の移転中に発生したものである。移転は約3か月をかけ計画的に進行していたが、感染症、食中毒の発生時対応は計画調整が困難である。地研の対応のうち、病原体検査は旧庁舎で、疫学調査の支援は新庁舎で各担当が実施した。新庁舎ではインターネット回線など一部の通信インフラが開通していない状況であったが、所内外の連絡調整を行う管理者は移転計画のとおり移転終了まで旧庁舎での業務であったことが功を奏した。衛生研究所の機能として休止できない事例への対応は、業務継続計画(BCP)による衛生研究所の使命と考える。

関連資料:
川上宮子ほか、野外行事におけるノロウイルス集団感染事例,日本公衆衛生雑誌( supplement), vol61, 10, p247, 2014