No.1627 パンを原因としたノロウイルス集団食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性食中毒
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:浜松市保健環境研究所
発生地域:浜松市
事例発生日:2014年1月15日
事例終息日:2014年1月24日
発生規模:喫食者数 8,027名
患者被害報告数:1,271名
死亡者数:0名
原因物質:ノロウイルスGII
キーワード:ノロウイルス、パン、パンソルビン・トラップ法、学校給食

背景:
ノロウイルス食中毒の原因は、ウイルスを蓄積したカキなどの二枚貝の摂食による場合と、ノロウイルスに感染した調理従事者などの手指を介して直接的あるいは間接的に食品が二次汚染される場合に大別されるが、近年は後者による事例が多く見られ、また患者数も多くなる傾向にある。

概要:
2014年1月、浜松市内小学校において嘔吐・下痢などの症状を呈し欠席する児童・職員が多数発生した。調査の結果、患者は19の学校で発生し、摂食者数は8,027名、患者数1,271名となった。原因食品は市内業者の製造した食パンと断定され、検査の結果、患者、従業員、食パンなどからノロウイルスGIIが検出された。なお、検出されたノロウイルスGIIは、分子疫学解析の結果GII/4(2012変異型との相同性98%以上)と判明した。

原因究明:
・原因食品である食パンの焼成以降に関与する従業員23人中4人から、ノロウイルスGIIが出された。
・製造施設拭き取り検体(従業員トイレスリッパ)から、ノロウイルスGIIが検出された。
・トイレの手洗い設備は冷水しか出ず、時期的に十分な手洗いを行っていなかった。
・スライス後の食パンを検品する際は使い捨て手袋を着用していたが、手袋の交換についてはトイレ使用前後の交換が口頭指示されているのみで、明確なマニュアルがなかった。
・作業着は各自が家庭で洗濯するルールとなっていた。
以上のことから、トイレ使用後に手洗い不十分な状態で手袋を着用し、手袋自体にウイルスが付着、さらに手袋交換の頻度が少ないために、ウイルスに汚染された手袋を長時間使用することとなったことが推定された。また、自宅に持ち帰った作業着を介して、家庭からウイルスを持ち込んだ可能性も考えられた。

診断:
患者便121検体、調理従業員便(学校給食員を含む)12検体、給食食材(食パン)3検体、拭き取り検体2検体及び食パン製造業者作業服1検体、計139検体からノロウイルスが検出された。ノロウイルスの遺伝子型のほとんどはGIIだったが、学校給食施設拭き取り1検体及び食パン1検体からGIが検出された。検出されたGIIのうち56検体はシークエンス解析の結果GII/4(2012変異型との相同性98%以上)と判明した。なお、GII/4が検出された食パン2検体のウイルス量は、それぞれ2,400、3,333 copy/gであった。なお、食パン及びふき取りから検出されたノロウイルスGIは患者から検出されていないため、本事件と因果関係はないと思われた。
細菌検査では、患者便からCampylobacter coli、黄色ブドウ球菌、ウエルシュ菌、及びその他の病原性大腸菌が分離された。その他、給食原材料と食パン輸送用箱からセレウス菌が分離された。

地研の対応:
2014年1月16日から24日にかけて、患者便139検体、調理従業員便(学校給食員を含む)96検体、給食食材154検体、拭き取り検体46検体及び食パン製造業者作業服3検体、計435検体が搬入され、細菌及びウイルス検査を行った。ノロウイルス検査は厚生労働省通知に従って実施し、給食食材のうち、食パン22検体についてはパンソルビン・トラップ法を用いた。

行政の対応:
患者が発生した19の学校等に対し、学校閉鎖あるいは学級閉鎖の措置を取った(1月23日にすべて解除)。また、市内すべての小中学校および一部幼稚園の給食を、1月20日から27日まで中止した。
食パンを製造した施設(菓子製造業)
・従業員の衛生教育に対しては、1月17日から当分の間営業を禁止する行政処分を行うとともに、以下の指導を行った。
・開封済み食材の廃棄
・体調不良者のチェック方法の改善
・作業着の衛生確保(定期的な洗濯など)
・手袋などの衛生確保(手袋交換のマニュアル作成など)
・破損している施設設備からの汚染防止
なお、営業禁止処分は、施設の対策が確認できたことから、1月24日に解除した。

地研間の連携:
ノロウイルス検査試薬の不足分の提供と、食材検体128検体のノロウイルス検査を静岡県環境衛生科学研究所に依頼した。

国及び国研等との連携:
パンソルビン・トラップ法の実施、及び疫学解析に際して、国立医薬品食品衛生研究所に助言を求めた。

事例の教訓・反省:
浜松市で発生した食中毒事例としては過去最大規模となったが、それに対処する体制が整備されていなかったため、場当たり的な対応に終始してしまった。特に、マスコミ対応に際し、取材に制限を設けなかったため、ほぼ一日中対応に追われ、検査に若干の支障をきたすこととなった。また、検査担当者が不足したことから市役所内他部署からの応援を依頼したが、手順を定めていなかったため難航した。

現在の状況:
大規模事例の発生に備え、研究所内の体制整備、人的応援依頼体制の確立などを目的に、マニュアルの作成を行っている。また、食品のノロウイルス検査について、より精度を高めるべく検討も行っている。

今後の課題:
関東甲信静ブロック及び東海北陸ブロックの応援協定を含め、浜松市における検査体制を整備する。

問題点:

関連資料:
・衛生微生物技術協議会第35回研究会 講演抄録集
・第35回日本食品微生物学会学術総会 講演要旨集
・平成26年度(第29回)地研全国協議会関東甲信静支部ウイルス研究部会 抄録集