No.1633 幼稚園における麻疹集団感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:和歌山市衛生研究所
発生地域:和歌山県和歌山市
事例発生日:2014年3月15日
事例終息日:2014年4月8日
発生規模:11名
患者被害報告数:11名(園児9名,園児家族2名)
死亡者数:0名
原因物質:麻疹ウイルス
キーワード:麻疹ウイルス、修飾麻疹、ワクチン接種

背景:
2014年はフィリピンからの輸入例と考えられる遺伝子型B3麻疹の散在的流行があり、全国的に麻疹患者が増えた。和歌山市においても5年ぶりに麻疹の届け出があり、本事例及び家族内事例3事例を合わせて23名の患者発生があった。市外の3名を加えた和歌山県の麻疹患者数26名は、人口100万人当たりの都道府県別集計において、全国1位の25.9(平均3.6)であった。

概要:
和歌山市内の幼稚園の園児及びその家族において、遺伝子型B3の麻疹ウイルスによる集団感染事例があった。2014年3月15日から4月8日までの期間に、最初に7名、その後患者との接触により3名、さらに、その接触により1名の計11名が発症した。患者のうち1歳児を除く10名はワクチン接種歴があり、軽症の修飾麻疹であった。なお、感染源は不明であった。

原因究明:
2014年3月15日に園児の妹の1歳女児が最初に発症し、17日、19日、21日に2名ずつ6名の園児が発症し、その後3月27日、4月2日、5日に1名ずつ3名の園児が発症し、さらに、4月8日に3月27日に発症した園児の兄の小学生1名、計11名が発症した。麻疹ウイルスN遺伝子の系統樹解析の結果、遺伝子型はすべてB3型であり、幼稚園における集団感染と考えられた。疫学調査において、幼稚園では3月の初め頃に全園児を対象としたひな祭りやお別れ会などの行事が開催され、初発の1歳女児も家族と共に来園していたことが確認されたため、3月15日から21日までに発症した7名はこれらの行事において感染したと推定された。麻疹感染の潜伏期を考慮すると3月27日、4月2日、5日に発症した3名は患者園児との接触による2次感染と推定され、小学生の患者は2次感染者の兄であるため家族内における3次感染者と推定された。しかし、麻疹ウイルスの幼稚園への感染ルートは不明であった。

診断:
幼稚園関連の患者11名から採取した検体(咽頭拭い液11検体、血液11検体、尿3検体)すべてから麻疹ウイルス遺伝子が検出され、ウイルス分離培養の結果5検体の咽頭拭い液から麻疹ウイルスが分離された。

地研の対応:
麻疹患者の確定診断に関わる遺伝子検査を実施し、さらに、ウイルスの分離培養及び遺伝子型の解析を行なった。保健所の積極的疫学調査に伴い、患者接触者等の疑い患者を対象とした麻疹ウイルスの検査数が増加し、2014年1月から6月までに本事例関連を含め、疑い患者123名の咽頭拭い液121検体、血液108検体、尿43検体について遺伝子検査を実施した。

行政の対応:
2014年3月21日に初発患者である1歳女児の麻疹検査診断後、患者宅近辺の医療機関を重点的に市内の全医療機関に患者発生の情報提供と注意喚起を行なった。翌22日に初発患者の兄が通う幼稚園の園児2名の麻疹確定後、集団発生を疑い疫学調査を実施し、幼稚園に対して全園児と教職員のワクチン接種歴調査、ワクチン未接種者への接種及び発症時の受診勧奨を依頼した。患者家族や医療従事者等接触者には健康観察を行い、幼稚園周辺の医療機関に随時情報を提供し注意喚起を促した。麻疹疑いの患者は全数検体を採取し、衛生研究所で検査診断を実施した。園児の兄の麻疹確定後にはその通学する小学校にも幼稚園と同様にワクチン接種歴調査、近辺の医療機関への情報提供、注意喚起を行った。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:
発症者の園児9名は全てMR1期、小学生もMR1期2期接種済みであったため、比較的軽症の修飾麻疹を呈したものが多かった。また、幼稚園の園児413名中ワクチン未接種者は1名のみ(ワクチン接種率99.8%)であったため、大きく感染が広がらなかったと考えられ、麻疹防御にワクチン接種が有効であることが分かった。
一方、ワクチン接種済でも修飾麻疹を発症し、その患者からはウイルスが分離されたことから、修飾麻疹患者も感染源となり得ることが示唆された。感染の拡大を防ぐためには、医療機関で修飾麻疹を見逃さないように留意し、疑い患者については検査による診断が必要であると考えられた。

現在の状況:

今後の課題:
麻疹対策においては、保健所と衛生研究所の連携を密にするとともに、医療機関の協力を得て、早期に対応することが重要である。

問題点:

関連資料:
幼稚園における麻疹の集団発生事例について-和歌山市、病原微生物検出情報、vol.35、№11、p278-280 (2014.11)