No.1639 鳥類展示施設におけるオウム病集団発生事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:神戸市環境保健研究所
発生地域:神戸市中央区
事例発生日:2005年12月
事例終息日:2006年3月
発生規模:施設内従業員のみ,11名(オウム病確定例2名,可能性例2名,疑い例7名)
患者被害報告数:4名(肺炎),うち確定診断できたのは2名
死亡者数:0名
原因物質:Chlamydophila psittaci (オウム病クラミジア)
キーワード:オウム病,肺炎,集団感染,主要外膜タンパク(MOMP),ヒムネオオハシ

背景:
オウム病は,Chlamydophila psittaci (オウム病クラミジア)という細菌によって引き起こされ,肺炎,発熱,咳,頭痛,倦怠感,筋肉痛など,多様な症状を呈する感染症である。さまざまな鳥が感染しており,ヒトは鳥の排泄物を吸引することで感染する。鳥の約5%がオウム病クラミジアを保有していると言われている。2005年12月,神戸市中央区で「花と鳥との触れ合い」をテーマにした展示施設が,大量の鳥を集め開園に向けて準備を進めていたが,その施設内でオウム病が発生した。

概要:
2005年12月4日,最初の患者が発熱等を訴え,神戸市立中央市民病院を受診した。12月6日には,その患者が肺炎を呈したため,入院加療となった。診断した医師は患者が鳥の飼育を業務にしていたことより,オウム病を疑い,神戸市保健所に通報し,行政が探知することとなった。
保健所が,この展示施設に立ち入り調査したところ,1,000羽近くの鳥を飼育しているにもかかわらず,ほとんどの鳥が足輪による個体識別もされず,検疫も実施されていなかった。また,オウム病等の感染症に関する教育も行われておらず,マスク,手袋,手洗い等の感染対策も取られていなかった。
45日間,飲み水と餌にドキシサイクリンを混ぜ込み,除菌を試みた。しかし,抗菌剤投与後もクラミジアを排出している鳥がいることが判明したため,2006年2月10日より個体識別されていない全ての鳥(970羽)を捕獲し,個体識別するともに,総排泄腔スワブを入手するか糞を採取し,PCRによりオウム病クラミジア遺伝子の有無を検査した。オウム病クラミジア遺伝子陽性の鳥は隔離し,改めてドキシサイクリン投与を行い,陰性を確認した。

原因究明:
全鳥検査の結果,比較的大量のクラミジアを排出していた鳥に,ヒムネオオハシ1羽,オシドリ1羽,マガモ3羽がいた。また,死亡したオキナインコ1羽の臓器からも大量のクラミジアが検出された。主要外膜タンパクの塩基配列解析の結果,ヒムネオオハシが感染原因であることが分かった。ヒムネオオハシは閉鎖的な部屋に放し飼いにされており,その部屋に入って鳥の世話をした人が,糞を吸い込んで感染したものと考えられた。

診断:
肺炎を呈した患者は4名で,確定例2名(1名は気管支肺胞洗浄液からPCR陽性,1名はmicro-IFにて血清抗体価の上昇),可能性例2名(1名は補体結合反応(非特異的な反応の可能性が否定できない)で抗体価上昇,1名はいずれの検査でも未確定)であった。発熱,頭痛,咳等の症状のあった疑い例は7名(全員が鳥の飼育担当で,いずれの検査でも未確定)であった。上記の鳥の糞便からは,106~107個/gのクラミジアが検出された。

地研の対応:
患者検体(咽頭スワブ,気管支肺胞洗浄液)のPCR検査と蛍光抗体検査や970羽全ての鳥の糞便のクラミジア検査(PCR)を実施した。また,PCR陽性の検体の主要外膜タンパクの塩基配列の比較を行った。当初はconventional PCRで行っていたが,早々に多検体が処理できるreal-time PCRに切り替えた。

行政の対応:
外部のクラミジア専門家も招聘して,対策委員会を3回開催した。当該施設で感染対策,検疫等に関するマニュアルを作成してもらい,それらを遵守できるようになったので開園しても良いという判断に至った。

地研間の連携:
発生当時,神戸市環境保健研究所ではクラミジア検出用のPCRプライマーを準備していなかったので,大阪府立公衆衛生研究所に分与してもらい,検査を開始した。

国及び国研等との連携:
感染研と岐阜大学からクラミジアの専門家を招聘し,対策等の立案に協力してもらった。

事例の教訓・反省:
この会社は,松江市でも同じようにオウム病を発生させており,同じ過ちを繰り返させない対策が求められる。

現在の状況:
2014年に,経営者が代わり,別の会社が他の動物も追加して,同様に展示している。

今後の課題:
(1) 鳥などを飼育する人に,オウム病など人獣共通感染症に対する知識の普及と感染対策の必要を認識してもらう必要がある。
(2) 咽頭スワブにはクラミジアはほとんど感染しておらず,喀痰等,検体材料の選択を検討する必要がある。
(3) PCRでオウム病が確認できても,抗体価の上昇が起こらない症例があり,血清診断の方法について検討する必要である。
(4) 糞からクラミジアを検出する場合,PCR阻害物質が残存しており,その除去方法を検討する必要がある。

問題点:

関連資料:
飯島義雄、秋吉京子、田中忍、貫名正文、伊藤正寛、春田恒和、井上明、安藤秀二、岸本寿男.鳥類展示施設におけるオウム病集団発生事例. 日本感染症学雑誌 83: 500-505,  2009.