No.15012 レジオネラ属菌集団感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:岩手県環境保健研究センター
発生地域:岩手県盛岡市
事例発生日:2015年5月14日
事例終息日:2015年6月4日
発生規模:50歳代から80歳代の13名(男性12名、女性1名)
患者被害報告数:13名
死亡者数:1名
原因物質:レジオネラ属菌
キーワード:レジオネラ属菌、レジオネラ症、集団感染、公衆浴場、新規開業

背景:
レジオネラ症は、レジオネラ属菌による呼吸器感染症で、高齢者や基礎疾患を有する者など抵抗力の弱い人が発病しやすく、重症になると死亡することもある。レジオネラ属菌は、水中や土壌中でアメーバ等の原虫類を宿主として生息している細胞内寄生性の環境細菌であるが、衛生管理が不適切な循環式浴槽や冷却塔などの人工環境水中でも増殖し、エアロゾルにより感染する1)。

概要:
2015年5月14日から同年6月4日にかけて、13名のレジオネラ症の患者の発生届が所管保健所に提出された。13名全員が4月から5月にかけて同じ公衆浴場を利用していた。患者13名のうち8名の喀痰等の検体の検査をした結果、6名からLegionella pneumophila 血清群1を分離した。また、この公衆浴場の浴槽水を7カ所から採水し検査したところ、男性浴室シャワー水から6,000CFU/100mL、女性浴室湯から69CFU/100mLと、2カ所から基準値である10CFU/100mLを超えるレジオネラ属菌が検出され、L. pneumophila 血清群1と同定された。患者と浴槽水のL. pneumophila 血清群1をPFGE(Pulsed-field Gel Electophoresis)検査で泳動像を比較した結果、2つのPFGEパターンについて一致が認められ、所管保健所はこの公衆浴場を原因施設と判断した。
この公衆浴場は循環式浴槽で、同年4月23日に新築で新規オープンしたばかりであった。大規模なレジオネラ症の集団感染の原因として循環式浴槽が多く2)、また、公衆浴場の開業直後に発生したとの報告も複数ある3)。なお、今回の事例は、患者発生数では、国内規模で4番目の集団感染事例となった。

原因究明:

診断:
各患者は、医療機関が行う尿中抗原検査で確定診断された。また、当センターは、分離培養法により、患者喀痰等からレジオネラ属菌を検出した。この菌と、所管保健所で検出した浴槽水由来のレジオネラ属菌についてPFGE検査による遺伝子パターンの比較を行った。

地研の対応:
2015年5月14日から5月26日にかけて、尿中抗原で診断されたレジオネラ症の患者の8名に係る喀痰等の検体が当センターに搬入され、レジオネラ属菌分離培養検査を行った。その結果、6名からL. pneumophila 血清群1を検出した。患者由来の菌株と浴槽水由来の菌株について、PFGE法による比較を行った結果、2つの一致するPFGEパターンが見られた。便宜的に一方をパターンA、もう一方をパターンBとする。浴槽水2か所からは、それぞれAとBの2つのパターンが検出され、患者6名中4名からはパターンAのみが、2名からは浴槽水と同様にAとBの2パターンが検出された。すなわち、パターンAは検出したすべての検体である浴槽水2か所と患者6名から検出され、パターンBは浴槽水2か所と患者2名から検出された。
なお、分離培養法ではレジオネラ属菌を検出できなかった患者2名の検体について、LAMP法による遺伝子の検索を行ったが、陰性であった。
さらに、この2名の検体抽出DNAを国立感染症研究所に送付し、SBT(Sequence- based typing)法による疫学的解析の実施を依頼したが、遺伝子量が少なく検査に供することはできなかった。

行政の対応:
所管保健所は、
・患者および公衆浴場の浴槽水の検査などの感染症法に基づく積極的疫学調査
・同様の患者の早期発見や適切な治療につながるように各保健所及び医師会を通じての医療機関への情報提供及び注意喚起
・公衆浴場法第6条に基づき患者の利用した公衆浴場への立ち入り調査及び、LAMP法によるスクリーニング検査で陽性の施設への営業自粛の要請
・報道機関への情報提供
などを行った。
なお、同保健所は当該施設に対し、公衆浴場法に基づき60日間の営業停止を命令したが、当該施設は、その後営業を再開することなく廃業した。

地研間の連携:
特になし

国及び国研等との連携:
国立感染症研究所に、PFGEパターンの確認、SBT法の実施依頼、分離培養陰性検体のDNAの検査依頼をした。SBT法の結果、検出された2つのPFGEパターンの株について、パターンAはST679と、パターンBはST23と型別された。特にST23については、「現時点で国内臨床分離株において最も多いSTで、茨城県(2000年)および宮崎県(2002年)で起きた循環式浴槽を感染源とした大規模集団感染事例の原因菌と同じ遺伝子型である。病原性が強い遺伝子型ではないかと推測されている。」とのコメントがあった。

事例の教訓・反省:
現在、レジオネラ症の診断は、患者の負担が軽く検査結果が短時間で判明することから、臨床の場では尿中抗原検査での診断が行われている。感染源の解明には、環境分離株と臨床分離株との異同を確認することが必要であり、そのためには患者からの菌分離は欠かせない。
今回、保健所が積極的疫学調査を行うにあたり、岩手県が2月に策定した「入浴施設を利用したレジオネラ症患者発生時対応方針」に基づき、感染症法並びに公衆浴場法による調査や検査等について円滑に対応することができた。
感染症発生動向調査によると、2015年のレジオネラ症の患者の届出は1999年の調査開始以降最多となる見込みである。その原因は入浴施設だけではなく、原因不明の事例もあり、今後も発生する感染症と考えられる。しかし、レジオネラ症は他の肺炎と症状が鑑別し難く診断が遅れることがあり、今回の事例でも初診から診断までに15日間を要した事例があった。診断が遅れると重症化し、死亡する例もあるため、早期診断と早期治療には医師の皆様にもレジオネラ症を意識していただく必要がある。このことを含め、県民に対し、日頃から感染症情報センターや県のホームページなどを活用し、レジオネラ症に関する基本的な情報提供を行うことが重要であると考える。

現在の状況:
患者喀痰等からのレジオネラ属菌の分離には、検体をスプタザイム処理し、加熱処理、酸処理、加熱後酸処理を行い、BCYEα培地、GVPC培地、MWY培地を用いて37℃で7日目目まで培養を行っている。また、尿中抗原陰性でレジオネラ症疑いがある場合や、今回のように培養陰性で分子疫学検査を実施する場合、検体DNAを用いてLAMP法およびnested-PCRを行っている。
分子疫学的検査は、PFGE検査を実施している。

今後の課題:
リアルタイムPCR、SBT法の導入の検討

問題点:
特になし

関連資料:
1)IASR34:155, 2013
2)レジオネラ症防止指針第3版:5-6
3)IASR24:29-32, 2003