No.15015 沖縄県において初めて確認されたバンコマイシン耐性腸球菌感染症とVREサーベイランス調査

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性感染症
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:沖縄県衛生環境研究所
発生地域:沖縄県中部地区
事例発生日:2010年3月
事例終息日:2010年5月
発生規模:感染者数(検査確定例)11名
患者被害報告数:発症者数 3名
死亡者数:2名
原因物質:バンコマイシン耐性腸球菌
キーワード:バンコマイシン耐性腸球菌、サーベイランス、積極的疫学調査

背景:
腸球菌(Enterococcus)は、ヒトを含め動物の腸管内の常在菌である。1986年に英国からバンコマイシンに耐性を示すE. faecalisE. faeciumによる院内感染が報告され、その後、バンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin Resistant Enterococc:VRE)は、欧米で急速に感染が拡大した。健常者は、腸管内にVREを保菌していても通常、無害、無症状であるが、術後患者や感染防御機能の低下した患者では腹膜炎、術創感染症、肺炎、敗血症などの感染症を引き起こす場合がある。日本においては1996年に病院内における集団発生が報告された。VREは6つの遺伝子型(vanA、vanB、VanC、VanD、VanE、及びVanG)があり、特にvanAは、高頻度接合伝達性プラスミドが存在し、菌と菌との接合によって耐性プラスミドが伝達することがあるため、院内感染の原因菌として重要視され、また、感染症の予防及び感染症の患者と医療に関する法律(感染症法)の5類感染症に指定されている。

概要:
2010年3月10日、本県で初めてとなるVRE感染症患者1名が中部地区の医療機関(A病院)で発生した。さらに同年6月20日と28日に同じ地区の別の病院(B病院)から2名のVRE患者の届出があった。その後、B病院は独自に院内サーベイランスを実施し、新たに3名の入院患者からVREが検出されたため、保健所へ相談した。これら6名から検出された株について当所で検査したところ、すべてE. faeciumvanA型であった。
このような状況を受け、県は、中部地区におけるVREの感染拡大状況を把握するため、医療機関の協力を得て「VREサーベイランス調査」を実施した。調査場所は、上記の2医療機関を含む中部保健所管内の総合病院3医療機関で、調査期間は2010年8月、検査対象者は、1週間以上入院している患者で偽膜性大腸炎、バンコマイシン使用者、開腹・開胸手術後の患者等いつくかの条件を定め、主治医の判断によりリスクが高いと判断したものを対象とした。検体は便とし、検査は、バンコマイシンを6μg/ml Enteroccocosel Brothによる増菌培養の後、12.5μg/mlを含むD-Coccosel寒天培地で検出した。3つの医療機関で合計264名の患者から検体が採取され、検査の結果、新たに5名からVREが検出された(陽性率1.9%)。その内訳は、A病院から156名中2名(1.3%)、B病院から54名中3名(5.6%)陽性であった。一方、患者が発生していないC病院では54名の検査を行ったがすべて陰性であった。
サーベイランス調査で新たに検出された5名の株は、先の6名と同様すべてE. faecium vanA型であった。これら11名から分離された株について、遺伝的な関連性を比較するためパルスフィールド電気泳動法による解析を実施した結果、11名由来の13株は、遺伝子型の異なる4つのクラスターに分類された。そのため、今回確認されたVRE感染症は、単一暴露の集団発生ではなく、潜在的にVRE保菌者が存在し、院内で徐々に人や環境を介して感染が広がった可能性が示唆された。

原因究明:

診断:
バンコマイシン耐性腸球菌(Enterococcus faecium vanA型)による感染症

地研の対応:
中部地区VRE感染症予防対策会議への参加。VRE検査のプロトコールを作成し、検査に必要な選択増菌培地及び選択分離培地を3医療機関の細菌検査室へ提供した。医療機関で検査した結果、VRE疑いの菌株を入手し、遺伝子型(vanAvanBvanC1、 及びvanC2, 3)の検査及び薬剤耐性試験(KB法:17種類19薬剤)、及びパルフフィールド電気泳動法による解析を実施した。

行政の対応:
積極的疫学調査の実施。県及び中部地区医療機関によるVRE感染症予防対策会議の開催。県及び中部地区医療機関による広域的なVRE病原体サーベイランスの実施

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
医療機関では、細菌検査室にてVREが検出された後迅速に病棟における感染状況の把握、接触予防対策、職員の教育、陽性者のコホート、物品の個別化(血圧計、体温計、聴診等は患者個別使用)、環境の清掃、感染管理担当者による院内関連部所への情報提供などが行われた。また、適宜保健所への届出、相談を行った。その後、県が主体となったサーベイランスにて、新たに5名の感染者が見つかったものの大きな集団発生には至らなかった。院内ICTを中心とした迅速な対応と保健所など外部機関との情報共有及び連携が功を奏したものと思われる。その後、院内では適正な抗菌薬の使用、標準予防策の徹底が行われ、他の薬剤耐性菌も減少した。

現在の状況:
2010年10月2日以降、新たな患者発生及び保菌者は検出されず終息した。

今後の課題:
感染症対策地域ネットワークを構築し、VREを含めた医療関連感染の制御に関する情報交換、コンサルテーション、教育(研修会、ラウンド)、サーベイランス、地区医師会会員への情報提供などが必要と考えられる。

問題点:
特になし

関連資料:
1) 椎木創一、他.「当院におけるVRE検出報告」。沖縄県立中部病院雑誌、Vol.36、9-15、2010.
2) 久高潤、他.「沖縄県で初めて確認されたバンコマイシン耐性腸球菌感染症と病原体サーベイランス」.沖縄県衛生環境研究所報、第47号、37-42、2013.