No.1640 身体障害者施設におけるロタウイルス集団感染事例

[ 詳細報告 ]
分野名:ウィルス性感染症
登録日:2016/03/08
最終更新日:2016/05/27
衛研名:神戸市環境保健研究所
発生地域:神戸市
事例発生日:2000年4月
事例終息日:2000年5月
発生規模:身体障害者施設 (入所者 95名)
患者被害報告数:16名(胃腸炎)
死亡者数:0名
原因物質:ロタウイルス
キーワード:A群ロタウイルス,成人,在住期間

背景:
ロタウイルスは,1歳前後の小児の間で流行する急性胃腸炎の原因ウイルスである。多くの場合は乳幼児の間で感染を繰り返し,3歳位までに免疫を獲得するため,成人が感染することは珍しい。まれに高齢者施設において集団感染が起こっており,加齢に伴う免疫力の低下が感染原因と考えられてきた。2000年4月に,神戸市内の成人が暮らす身体障害者施設においてロタウイルス患者が発生した。

概要:
2階建ての身体障害者施設には,95名が暮らしていた。在所者の年齢は37歳から85歳で,平均年齢は62.3(+/-9.0)歳であった。障害は,視覚障害,聴覚障害,四肢の欠損,精神障害等,多様であった。この事例を対象として,成人におけるロタウイルス感染症のリスクファクターを検討した。
発症者と非発症者を比較したところ,年齢,障害の種類,性別,部屋の位置による差はなく,在籍年数に有意差が認められた(P = 0.01)。このような現象が見られたのは,身体障害者施設という,閉鎖的な環境下で,長期間免疫刺激がなかったために起こったものと推察された。
高齢者施設におけるロタウイルスの集団感染は,加齢に伴う免疫力の低下と考えられがちだが,今回の事例より,閉鎖的な環境下で5年以上暮らす人は,高齢者に限らず誰でも罹患・発症する可能性のあることが示唆された。閉鎖的な環境下では,ロタウイルス下痢症の流行に注意する必要がある。

原因究明:
ロタウイルスが,どういう経緯で施設に持ち込まれたかは不明であった。

診断:
ELISA,RT-PCRで確定診断を行った。

地研の対応:
ロタウイルスの遺伝子解析,疫学調査を実施した。

行政の対応:
検体の搬送だけで,感染症と判断されたため特に対応はなかった。

地研間の連携:
協力要請はしなかった。

国及び国研等との連携:
札幌医大の教授(ロタウイルスの専門家)に相談した。

事例の教訓・反省:
閉鎖的な環境下で長く暮らす人は,高齢者に限らず誰でもロタウイルスに罹患・発症する可能性があり,流行に注意する必要がある。

現在の状況:
特になし

今後の課題:
特になし

問題点:
特になし

関連資料:
Yoshio Iijima, Tomotada Iwamoto, Souichi Nukuzuma, Hideaki Ohishi, Kozaburo Hayashi and Nobumichi Kobayashi. An outbreak of rotavirus infection among adults in an institution for rehabilitation: long-term residence in a closed community as a risk factor for rotavirus illness. Scand. J. Infect. Dis. 38:490-496, 2006.