No.15016 2014年12月に発生したウエルシュ菌による集団食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2016/05/13
最終更新日:2016/05/27
衛研名:沖縄県衛生環境研究所
発生地域:沖縄県名護市
事例発生日:2014年12月2日
事例終息日:2012年12月4日
発生規模:喫食者270名中有症者数152名(検査確定例27名)
患者被害報告数:有症者数152名
死亡者数:0名
原因物質:Clostridium perfringens Hobbs型6
キーワード:Clostridium perfringens Hobbs型6、牛肉と筍オイスター炒め

背景:
ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)は、芽胞を形成する嫌気性のグラム陽性大桿菌でヒトや動物の腸管や土壌等の自然環境に広く生息する。ヒトに対する病原性の主なものは下痢原性とガス壊疽起病性であり、下痢原性因子であるエンテロトキシンを産生するA型ウエルシュ菌は食中毒を惹起し、主として100℃で1~6時間の加熱に耐える耐熱性芽胞を形成するため特有の感染機序を示す。本菌は、本菌で汚染された食品の加熱調理後の冷却とともに発芽し、食物中で急激に増殖する。本菌の発症に必要な菌量(106~107/g)にまで増殖した食品を喫食すると、腸管に達した本菌が芽胞を形成した際に放出するエンテロトキシンにより食中毒を引き起こす。

概要:
2014年12月、北部保健所管内施設においてウエルシュ菌による集団食中毒が発生した。下痢、腹痛を主症状とし152名が発症した(喫食者270名)。共通食は当該施設の食事のみであった。
当所の検査により有症者検便からエンテロトキシンが検出され、有症者検便、検食「牛肉と筍オイスター炒め」からClostridium perfringens Hobbs型6が分離された。分離菌株すべてからエンテロトキシンが検出され、同一PFGEパターンを示した。当所の再現試験により大量調理後の喫食前常温放置(3~4時間)が主たる要因と推測された。

原因究明:
PFGE解析において、有症者由来株14検体及び食品由来株1検体のPFGEパターンが完全一致した。
保健所の調査により、大量調理後本食品の不適切な温度管理が原因で食品内で本菌が発症に必要な菌量まで増殖したと推測されたため、再現試験を行い食品中における本菌の増殖態度について調査を行った。調理後の保管庫での保管(70℃保温区)、常温保管(約26℃常温放置区)、喫食会場での湯煎(42℃保温区)を想定して再現試験を行ったところ、42℃保温区では、保温開始から菌数の増加が経時的にみられ、保温2時間後以降で急速な増加がみられ、3時間後には発症を起こすのに必要な菌量にまで達していた。本事例で提供された牛肉オイスター炒めは、加熱調理後喫食開始までの時間が3~4時間であったため、本事例においても調理後の保存条件が変化する過程で発育至適温度付近をゆっくり通過し、その時間帯で急速に菌が増殖したと推察された。

診断:
ウエルシュ菌による集団食中毒

地研の対応:
始め当所に搬入された有症者5名の糞便についてPET-RPLA「生研」を用いたところ、ウエルシュ菌エンテロトキシンが検出された。また、各種細菌検査(下痢原性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ属菌、カンピロバクター属菌、腸炎ビブリオ、コレラ菌、ナグビブリオ、エロモナス属菌、プレジオモナス・シゲロイデス、エルシニア・エンテロコリチカ、黄色ブドウ球菌、ウエルシュ菌、セレウス菌)及びノロウイルス検査を行ったところ、ウエルシュ菌Clostridium perfringens Hobbs型6が分離された。追加搬入された23検体はウエルシュ菌に絞って検査を行い、22検体からClostridium perfringens Hobbs型6が分離された。残る1検体も再検査を行ったところ、同様にClostridium perfringens Hobbs型6が分離された。
原因食品と疑われる11検体、原因食品の原材料3検体(別ロット含む)、厨房施設の拭き取り検体10検体についてウエルシュ菌分離を行ったところ、「牛肉と筍オイスター炒め」からClostridium perfringens Hobbs型6が分離された。

行政の対応:
沖縄県北部保健所は、当該施設からの電話連絡にて本事例を探知後、直ちに原因施設の立ち入り及び聞き取り調査を開始した。主な有症者は修学旅行団体であるため県内を移動しており、摂食者への調査は移動先の沖縄県中部保健所に依頼した。糞便検査、検食及び拭き取り検査は沖縄県衛生環境研究所にて実施した。
疫学調査及び微生物学的検査結果より、北部保健所は原因を当該施設にて提供された食品と断定し、当該施設の4日間の営業停止処分(営業自粛1日間)を行い、調理事業者への衛生教育を実施した。また後日、原因施設に対し北部保健所と衛生環境研究所合同で指導事項の改善について現場確認を実施した。

地研間の連携:
なし

国及び国研等との連携:
なし

事例の教訓・反省:
多数の有症者であったが、医療機関では食中毒病因物質は特定されておらず不明であった。保健所と迅速に連携して検査を行い、ウエルシュ菌の特定及び行政処分を行うことができ、保健所との連携が非常に効率よく機能した事例であった。検査としては、短期間に多数の検体が搬入されたため、原因食品のウエルシュ菌数測定を行うことができなかったことが課題であった。
保健所の調査結果を踏まえ、文献等を調べた上で再現試験を行い、ウエルシュ菌の増殖態度試験を行ったところ、保健所の調査結果と近い状況が再現された。これらの結果を食品衛生監視員を対象とする講習会にて発表し、ウエルシュ菌による食中毒事例を報告した。

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1) 第46回沖縄県衛生監視員研究発表会、口頭発表
2) 第41回九州衛生環境技術協議会、口頭発表
3) 第36回日本食品微生物学会学術総会、ポスター発表
4) 沖縄県衛生環境研究所報、第四十九号二〇一五年(平成27年)、調査研究