◆「あさコラム」vol.21「記憶と記録」(2016年9月16日)

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◆「あさコラム」vol.21「記憶と記録」(2016年9月16日)

こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

先日、広島東洋カープが25年ぶりにプロ野球セントラル・リーグの優勝を飾りました。
優勝を決めた試合、カープの支柱である黒田博樹投手と新井貴浩選手のベテラン両選手の男泣きには、カープファンならずとも涙を誘われました。
今年は、黒田投手が日米通算200勝を、新井選手が通算2000本安打を達成し、両選手にとって節目の大記録を残した1年にもなりました。

実は、この広島東洋カープの前回の優勝時(平成3年)の前後に生まれた方々を中心に、麻しん感染の心配があります。
ご存じのとおり、麻しん対策については、平成18年度から麻しん予防接種を1回接種から2回接種に移行するとともに、平成20年から5年間の臨時措置で、当時の中学1年生相当の年齢の方(第3期)と高校3年生相当年齢の方(第4期)へ予防接種を進めてきました。
その結果、平成21年以降は患者数は激減、平成22年11月以降はウイルス分離・検出状況によると海外由来型のみとなったことになりました。その結果、平成27年3月27日、世界保健機関西太平洋地域事務局(WPRO)によって、わが国が麻しんの排除状態にあることが認定されました。
その一方で、全体の麻しん予防接種率の向上のおかげもあり、現在の20歳代、30歳代を中心とする未接種者の方々が麻しんウイルスの感染から免れてきていたとも言えるのです。
今回の麻しん感染事例を見てみますと、やはり予防接種歴がない方々の感染が多く、麻しんに関しては予防接種の効果の大きさを改めて感じているところです。

もちろん、予防接種も万能ではなく、2回の予防接種で麻しんの抗体価が絶対に上がるという訳ではありませんので、予防接種をしたのにもかかわらず麻しんに感染される方もいます。
しかし、その感染割合は低いというのが定説でしたが、とある事例報告によりますと、2回接種歴のある方々の麻しん感染比率が高かったとのことで、この点、私も不思議に思っています。
その理由を専門家の先生方にお尋ねしても、首をかしげて「よくわからない」との回答ばかり。
ただし、この事例報告では、麻しん予防接種歴の確認は母子健康手帳に留まらず、本人の記憶によるものも含まれているとのことでした。

ここでふと胸に手を当ててみると、私の母子健康手帳は、遠くの実家にへその緒と一緒に保管されているはずなのですが、この数十年、自分で確認したことはありません。
また、私の周囲で尋ねてみたところ、自分のお子さんの母子健康手帳は大事に保管していても、自分自身の母子健康手帳は手元にない(実家にある)との
回答多数。
こうした状況を踏まえると、麻しんに感染した20歳代以上の方々が、改めて麻しんの予防接種歴を母子健康手帳で確認することは容易ではないと思います。(実家に住んでいるならともかく、ですが・・・)

今やIT・スマホの時代。
予防接種歴を含めた個人の生涯の健康データについて、本人が容易に確認できる環境ができて当然ではないでしょうか。
自治体によっては電子母子健康手帳の試行が始まっていますが、こういった事業こそもっと促進し、更に踏み込んで電子生涯健康手帳なるものを開発して欲しいものですね。
麻しん流行が確認された現地で対応に追われている国立感染症研究所感染症疫学センターの多屋馨子先生も、「『記憶で接種2回』なのか『記録で接種2回』なのかはとても重要。き『お』く と き『ろ』く、ひらがな一文字大違いという部分です。」と、鋭い指摘をされています。

選手の初勝利や初安打、節目の勝利や安打などが直ぐに分かるのと同じく、予防接種歴や罹患歴など感染症に関する情報について、本人が容易に確認できるよう、私も何か考えていきたいと思います。
記憶も記録も大切なのは、プロ野球も感染症対策も同じですから。

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公開日:2016年09月21日

カテゴリー: 感染症