No.16002 高齢者福祉施設におけるウェルシュ菌による集団食中毒事例

[ 詳細報告 ]
分野名:細菌性食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2017/04/04
衛研名:堺市衛生研究所
発生地域:堺市
事例発生日:2016年1月5日
事例終息日:2016年1月7日
発生規模:高齢者福祉施設で提供された食事を喫食した施設入所者202名中95名が発症
患者被害報告数:95名
死亡者数:0名
原因物質:ウェルシュ菌(エンテロトキシン産生)
キーワード:ウェルシュ菌、高齢者福祉施設

背景:
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens CP)はヒトや動物の腸管や土壌、下水など環境に広く生息する。ウェルシュ菌食中毒はエンテロトキシン産生性ウェルシュ菌(下痢原性ウェルシュ菌)によって汚染された食品を喫食することにより、本菌が腸管内で増殖して、芽胞を形成する際に産生・放出するエンテロトキシンにより発症する感染型食中毒である。

概要:
2016年1月7日、堺市内高齢者福祉施設から、1月6日頃より多数の施設利用者が下痢等の食中毒様症状を呈している旨の届出があった。堺市保健所が調査したところ、患者はすべて施設入所者のみであり、その発生状況は1月6日にピークがある一峰性を示していた。喫食者202名中、患者は95名(66~101歳)であり、共通食は、施設で提供された食事のみであった。患者6名の便と1月5日夕食の保存食1検体(鶏と根菜の煮物)よりウェルシュ菌が検出され、加えて、これらの分離菌株が分子疫学解析(PFGE)においてパターンが全て一致していることから、当該施設で提供された食事を原因とするウェルシュ菌による食中毒と断定した。

原因究明:
本件においてはウェルシュ菌以外にノロウイルスも検出されたが、症状としてノロウイルス食中毒に多い嘔気・嘔吐や発熱(95名患者のうち2名のみ)が少なく、下痢(95名患者のうち95名)を主徴としていた。患者(7名)や洗浄のみの担当で食品に直接触れる機会がなかった従業員(1名)からGI.2のみが共通して検出されたが、その他の遺伝子型に一定の傾向はなかった。
また、ウェルシュ菌が検出された食品は「鶏と根菜の煮物」であった。通常、発症には1.0×105 CFU/gを要するが、本事例で検出された生菌数は5.0×101 CFU/gであり、少ない菌数であった。当該食品の製造工程は、加熱、放冷、盛り付け、温冷配膳車内での再加温、居室への配膳に区分される。加熱調理終了から温冷配膳車への配膳まで1時間50分間は室温で保管され、その後温冷配膳車内で1時間10分間加温されていた。社内マニュアルでは居室への配膳直前のものを検査用に保存食として冷凍保存する規定であったが、検出されたウェルシュ菌の菌数が極端に少ないことから、放冷完了後の初期の時期に採取され、直ぐに冷凍保管されたものが検査に供されたものと推測される。居室への配膳から喫食までの時間については、温冷配膳車が厨房を出てから30分後に喫食を開始し、その約1時間後に下膳されていた。少ない菌数の検出や発症要因として、加熱調理終了から盛り付け及び喫食までの温度管理や、患者が全て高齢者で免疫抵抗力の低い集団であったことが推察された。

診断:

地研の対応:
当所に搬入された検体は、患者便9検体、従業員便18検体(給食事業者従業員便:17検体、施設従業員便:1検体)、保存食39検体及びふきとり10検体であった。各種食中毒細菌検査及びウイルス検査を行ったところ、患者6名の便と保存食1検体よりエンテロトキシン産生ウェルシュ菌Hobbs UT(型別不能)が検出された。食品中の菌数は5.0×101 CFU/gであった。また、患者7名と従業員1名の便よりノロウイルス(NoV)が検出された。
[資料参照]
ウェルシュ菌の患者分離菌株と保存食分離菌株は全て分子疫学解析(PFGE)においてパターンが一致し、同一起源と考えられた。

行政の対応:
市内高齢者福祉施設からの届出後、直ちに施設の立ち入り、聞き取り及び検体回収を行った。疫学調査及び微生物学的検査より、当該施設で提供された食事を原因とする食中毒と断定し、調理業務を受託している給食事業者に対して3日間の営業停止処分を行った。また、再発防止のための施設の清掃等改善措置を命じ、食品の取り扱い等、衛生指導を実施した。

地研間の連携:

国及び国研等との連携:

事例の教訓・反省:

現在の状況:

今後の課題:

問題点:

関連資料:
1)微生物検査必携 細菌・真菌検査(財)日本公衆衛生協会