No.16022 フグによる食中毒

[ 詳細報告 ]
分野名:自然毒等による食中毒
登録日:2017/04/04
最終更新日:2017/04/04
衛研名:奈良県保健研究センター
発生地域:奈良県大和高田市
事例発生日:2016年1月16日
事例終息日:
発生規模:家庭内で2名喫食
患者被害報告数:2名
死亡者数:0名
原因物質:テトロドトキシン
キーワード:フグ、テトロドトキシン、動物性自然毒、おう吐、しびれ、脱力感、全身麻痺、家庭

背景:
フグ毒による食中毒は全国で近年30件程度発生している。内陸県である奈良県では平成8年~27年の20年間で1件と件数としては多くないが、発生した際には患者の症状が重篤化することが多く、検査には迅速性が求められる。

概要:
2016年1月16日(土)の正午頃、県内の家庭で2名(57歳男性、52歳女性)がフグの卵巣などを喫食し、2名とも、おう吐、しびれ、脱力感、全身麻痺の食中毒様症状を呈し、救急搬送され入院した。担当医は1月17日(日)の正午頃、管轄保健所に連絡を入れた。フグは52歳女性が大阪市内で入手した。57歳男性の自宅で野菜などとともに調理し、寄せ鍋として一緒に喫食した。

原因究明:
患者の気管から吸引摘出された卵巣様異物から中毒量を超えるテトロドトキシンを検出し、大阪市立環境科学研究所の協力を得て行った患者の尿及び血液からもテトロドトキシンを検出した。これらのことからテトロドトキシンを含む卵巣を喫食したと考えられる。
また、大阪市立環境科学研究所による魚種鑑別(遺伝子検査)の結果、テトロドトキシンが検出された魚の卵巣及び患者の気管から吸引摘出された卵巣様異物は何れもトラフグ(Takifugu rubripes)またはカラス(Takifugu chinensis)であることが判明した。

診断:
高速液体クロマトグラフ質量分析計を用い、テトロドトキシンの定性及び定量を行った。

地研の対応:
2016年1月17日(日)17時30分に保健所食品衛生監視員により調理済みの魚などが入った鍋、魚の下処理工程で発生したと思われる残液及び患者(57歳男性)の吐瀉物が搬入された。鍋の内容物は魚の卵巣及び肝臓、鍋汁に分けた。魚の卵巣は13断片あり、重量の大きいもの3断片を選別して試料とした。また、2016年1月18日(月)8時50分に患者(57歳男性)の気管から吸引摘出された魚の卵巣様異物が追加で搬入された。
検査の結果、卵巣3検体中1検体から 7.8μg/g、患者の気管から吸引摘出された卵巣様異物から6.3μg/gのテトロドトキシンを検出した。

行政の対応:
保健所は、2016年1月17日(日)正午頃に県内の医療機関から「フグ食中毒の疑いがある患者を治療している」旨の連絡を受けた。食品衛生監視員が調査したところ、県内の家庭で2名が魚の卵巣などを喫食し、2名とも嘔吐、しびれ、脱力感、全身麻痺の食中毒様症状を呈し、入院していることが判明した。有症者の症状が類似していること、有症者の尿、血液及び気管内容物(卵巣様異物)からテトロドトキシンが検出されたこと、さらに診断した医師から食中毒の届出があったことから、フグの卵巣を喫食したことによる食中毒と断定した。
奈良県消費・生活安全課は2016年1月26日(火)、報道機関に対しフグによる食中毒事件の発生について発表した。併せてフグに含まれる有毒物質(テトロドトキシン)や、フグの種類ごとに食用可能な部位が決められていること、素人によるフグの調理は危険であり、本県では食用としてのフグ処理を条例により規制していることについて、マスメディアを通じた県民への情報提供・啓発の協力を要請した。

地研間の連携:
患者の内1名(52歳女性)が大阪市内で入院していた為、大阪市立環境科学研究所と協力して検査を実施した。大阪市立環境科学研究所では血液及び尿中のテトロドトキシン濃度の検査と遺伝子解析による魚種鑑別検査を行った。
また、第53回全国衛生化学技術協議会年会において事例発表し、情報の共有に努めた。

国及び国研等との連携:
上記、年会にて国立医薬品食品衛生研究所等との情報の共有に努めた。

事例の教訓・反省:
食中毒事件では、臨床検体(血液、尿等)から病因物質を検出することが因果関係を立証するために必要なことである。今回の事例では、大阪市立環境科学研究所のご協力により、血液および尿中のテトロドトキシン検査と遺伝子解析による魚種の鑑別を実施することができたが、今後は当センターでも尿や血液等の検体や魚種鑑別にも対応できるよう、検査体制の強化に努める必要がある。

現在の状況:
大阪市立環境科学研究所の協力を得て遺伝子解析による魚種鑑別検査について職員に対する技術研修を行い、当センターでの実施が可能となった。

今後の課題:
血液、尿等の臨床検体についてもテトロドトキシンを検査できるよう、さらなる技術の研鑽が必要である。

問題点:
特になし

関連資料:
・厚生労働省 食中毒統計調査
・自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/poison/animal_det_01.html
・“食品衛生検査指針(理化学編)”厚生労働省監修,813-820 (2015),(社)日本食品衛生協会
・厚生省環境衛生局長通知環乳第59号「フグの衛生確保について」,昭和58年12月2日