ハンタウイルス感染症 (腎症候性出血熱) – hemorrhagic fever with renal syndrome,HFRS

はじめに

ハンタウイルスは 2つの症候群腎症候性出血熱(hemorrhagic fever with renal syndrome,HFRS)]と[心機能不全によらない肺水腫を症状とするハンタウイルス肺症候群(hantavirus pulmonary syndrome,HPS)を引き起こす。

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病原体の特徴

ハンタウイルスハンターン型,ドブラバ型,ソウル型,プーマラ型の4種が主な原因ウイルスである.ハンターン型とドブラバ型ウイルスによるHFRSが重症である.プーマラウイルスによるHFRSは比較的軽症で,流行性腎症(Nephropathia epidermica)と呼ばれる。各ハンタウイルスによる腎症候性出血熱の流行地は,表1に示した。

表1.ハンタウイルス感染症の特徴

自然宿主 疾患(死亡率,%) 流行地
ハンターン(Hantaan) セスジネズミ 重症型HFRS(5~10) アジア
ソウル(Seoul) ドブネズミ 中等度型HFRS(1〜5) 中国,韓国
ドブラバ(Dobrava) キクビアカネズミ 重症型HFRS(5〜10) 東欧
プーマラ(Puumala) ヨーロッパヤチネズミ 軽症型HFRSいわゆる流行性腎症)(0.1〜0.3) 北欧

動物実験施設関連感染事故の報告もあり,動物施設におけるげっ歯類の飼育・管理には特段の注意が必要である。

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主な臨床像

このウイルスはヒトに感染すると状況により重篤な全身感染,あるいは腎疾患を生じ,以下の型が知られている。

  1. 重症アジア型
    発熱で始まる有熱期、低血圧期(ショック)(4~10日)、乏尿期(8~13日)、利尿期(10~28日)、回復期に分けられる。全身皮膚に点状出血が出ることがある。発症から死亡までの時間は4~28日で、尿素窒素は50~300mg/dl に達する。高度の蛋白尿、血尿を伴う。
  2. 軽症スカンジナビア型(流行性腎症)
    ごく軽度の発熱、蛋白尿、血尿がみられるのみで、極めてまれに重症化する。

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臨床検査所見

白血球数低下とそれに引き続く増加,血小板減少、蛋白尿、および、肝機能障害(GOT,GPT,LDHの上昇)と腎機能障害(BUNやクレアチニンの上昇)を呈する。

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確定診断

  1. ウイルスの検出
    1. 血液や急性期の尿からのウイルスの検出(分離,RT-PCR)
      RT-PCR法による病原体の遺伝子の検出には末梢血液全血が検体として適している。
    2. 病理学的検出
      剖検時に採取された臓器からのウイルスの検出(分離,RT-PCR,感染病理学的抗原検出)
  2. ウイルス抗体の検出(発症時すでに抗体が検出され得る程度に上昇している)
    ELISAや間接蛍光抗体法による急性期と回復期におけるIgG抗体の有意な上昇の確認、もしくは、IgM抗体の検出。

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治療

安静,ショックに対する治療,輸液・循環の管理などの対症療法が基本で,特異的治療法はない。

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予防(ワクチン)

有効なワクチンはない。腎症候性出血熱流行地に滞在する場合には,感染予防が必要。

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バイオハザード対策

ヒトからヒトへの感染は起こらない。国内各地の港湾部において、ハンタウイルスキャリアとなったドブネズミの存在が確認されている。ラットによる実験室感染に注意する必要がある。ハンタウイルス感染ネズミと接触する機会が増えるような家事,職業,野外活動がハンタウイルス感染症の感染リスクとなる。ネズミが家や職場に営巣しないように衛生環境を改善し,感染ネズミからの分泌物や唾液がエアロゾル化しないように行動する。家や物置などの構造物の中に,食物を置かない,営巣可能な所をなくす,ネズミが出入りできる穴をふさぐ,ネズミ取りや殺鼠剤を用いたネズミの捕獲などの対策が感染予防に有効である。ネズミが営巣していると思われる建物に入る時には,必ず,窓やドアを開けて,外気が入るようにする。建物に入室する時は,激しく動き回らず,ホコリを吸い込まないようにする。ハンタウイルスは,希釈されたブリーチ,洗剤,一般的な消毒液に感受性し,これらで消毒可能である。ネズミが営巣している可能性のある建物の中の汚染されている場所・物品は10%ブリーチ液やその他の消毒液で消毒する。ホウキや掃除機を使ってネズミの営巣場所を掃除しない。捕獲されたネズミや死んだネズミは,10%ブリーチ液に浸けて消毒してから扱う。使用済みのネズミカゴや手袋は,必ず消毒する。実験においてハンタウイルスを扱う場合には,BSL-3実験室で行う。

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感染症法における取り扱い

四類感染症に指定されており、下記の場合、法第12条第1項の規定による届出を直ちに行わなければならない。

  1. 患者(確定例)
    症状や所見から当該疾患が疑われ、上記の検査によって病原体の診断がされたもの。
  2. 無症状病原体保有者
    臨床的特徴を呈していないが、上記の検査により、病原体の診断がされたもの。
  3. 感染症死亡者の死体
    症状や所見から当該疾患が疑われ、上記の検査によって病原体の診断がされたもの。
  4. 感染症死亡疑い者の死体
    症状や所見から、当該疾患により死亡したと疑われるもの。

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参考文献

  1. 有川二郎.腎症候性出血熱.日本臨床 65増刊号2:112-116, 2007
  2. 国立感染症研究所.感染症の話:腎症候性出血熱(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k04/k04_51/k04_51.html
2012年07月06日 16時00分 改訂