日本紅斑熱

病原体の特徴

日本紅斑熱は1984年に日本で初めて報告された疾患である。マダニの刺咬によって媒介されるリケッチア症であり、起因病原体はRickettsia japonica(以下、R. japonica)と命名された。R. japonicaは、偏性細胞内寄生菌でマダニから分離される。2006~2011年の国内の報告数は、それぞれ49、98、135、132、132、190と増加傾向を示している。近年は日本以外にも韓国、フィリピン、タイからも報告されている。

主な臨床像

2-8日の潜伏期を経て、発熱や頭痛などで発症する。つつが虫病の潜伏期10-14日に比べやや短いが、臨床症状から両者を区別することは難しい。急性期には39℃~40℃の発熱が見られ、悪寒戦慄を伴うこともある。つつが虫病と同様に、発熱、発疹、刺し口が主要3兆候であり、ほとんどの症例で見られる。発疹はつつが虫病のものと似ているが、つつが虫病の発疹は体幹から四肢に広がるのに対し、本症では四肢から出現して体幹に広がり、手掌や足底にもみられる点が特徴的である(図1)。また、刺し口中心の痂皮部分がつつが虫病よりやや小さいことも鑑別の参考所見となる。その他、麻疹や風疹などのウイルス性熱性疾患、薬疹などとも鑑別が必要である。

臨床検査所見

血小板の減少、肝酵素(AST,ALT)の上昇、CRPの上昇がみられる。白血球数はほぼ正常範囲内だが、異型リンパ球が出現することがある。重症ではDICとなり、死亡することもある。尿所見では蛋白や潜血が軽度陽性となることが多い。本症に特異的な一般検査所見はないが、臨床症状に比較してCRPが高く血小板減少が著明なときは、必ず本症を鑑別に挙げなければならない。

確定診断

確定診断は主に間接蛍光抗体法と免疫ペルオキシダーゼ法による血清診断で行われている。紅斑熱群リケッチアは種間での血清学的交差反応が強いため、R. japonicaを抗原として用いればすべての紅斑熱群リケッチア症の診断も可能である。したがって、日本にはない輸入リケッチア症にも対応できる。類似疾患の鑑別のためつつが虫病リケッチアの抗原を併用することが望ましい。

病原体診断としては、刺し口痂皮、発疹部皮膚生検、抗菌薬投与前の急性期末梢血中からのリケッチアDNA検出が行われている。リケッチアの分離は培養細胞を用いて行われるが、P3実験室が必要であり、時間も要するため実用的ではない。国内では、保健所に連絡し、都道府県衛生研究所又は国立感染症研究所に検査を依頼する。

治療

第一選択薬はテトラサイクリン系(ドキシサイクリンやミノサイクリンな ど)の薬剤である。初期であれば経口投与でも十分効果がある。例えばミノサイクリンの場合、200~300mg/日を経口投与し、解熱後も半量を1週間予防投与する。ペニシリン系やセフェム系などのβラクタム薬は全く(あるいはほとんど)効果がない。ニューキノロン薬はつつが虫病には無効だが、本症には効果があるとされている。重症の日本紅斑熱に対しては、テトラサイクリン薬とニューキノロン薬の併用療法を行うことが提唱されている。

予防(ワクチン)

現段階ではワクチンや予防薬による発症予防法はない。

バイオハザード対策

マダニの刺咬を防ぐことが重要である。発生時期や発生地を知り、可能なかぎり汚染地域に立ち入らないようにし、農作業や森林作業でやむを得ず立ち入る場合には皮膚の露出を防ぎマダニの付着を予防すること、マダニ忌避剤を使用することなどの対策を行う。また作業後は、入浴やシャワーをあびてマダニを洗い流すとともに、マダニが吸着していないことを確認する。着ていた衣類は洗濯や日光乾燥させて、生きたマダニが付いていないことを確認する。

感染症法における取り扱い

全数報告対象である4類感染症に指定されている。診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。

参考文献

1.馬原文彦:日本紅斑熱の治療- 重症例、死亡例の検討と併用療法の有用性。病原微生物検出情報2006; 27(2):37-38,2006.
2.Nakamura T, Takagaki K, Matsubara Y, Kikuchi K. Predictive values of clinical parameters for severe Japanese spotted fever. J Infect Chemother; 17:246-253,2011.
3.Hanaoka N, Matsutani M, Kawabata H, Yamamoto S, Fujita H, Sakata A, Azuma Y, Ogawa M, Takano A, Watanabe H, Kishimoto T, Shirai M, Kurane I, Ando S. Diagnostic assay for Rickettsia japonica. Emerg Infect Dis 15:1994-1997,2009.

 

画像

図1 日本紅斑熱の皮疹
IASR Vol.27 p 37-38:2006年2月号