銃創患者に対する院内診療手順

【アルゴリズム要点】

救急隊からの患者受け入れ要請(アルゴリズム0)

    • 救急隊あるいは現場、消防機関からの銃創患者受け入れ要請連絡を受けた場合、すみやかに関係スタッフ、システムのスイッチを入れ、病着前準備を開始する。多数傷病者で現場が混乱していたり、現場から病院までの距離が近い場合は、救急車搬送より先に直接来院する患者がいることもある。

病着前準備(アルゴリズム1)

    • 銃創・爆傷患者の搬送前準備は、鈍的外傷と同様である。
    • ただし、鈍的外傷と異なり、銃創患者は緊急手術が必要になる可能性が高く、手術加療が予後に直結するため、常時麻酔科を含め迅速に緊急手術が施行可能な体制を整えておくべきである。明確な基準はな いが、ショックを伴う銃創症例に対して手術室入室へ 10 分以上かかると死亡率が高くなるという報告もある1)。
    • 自施設でどの段階まで診療が可能なのか想定し、追加処置が可能な専門施設をあらかじめ把握しておく。
    • 活動性出血に対して,救急隊がターニケットを装着もしくは用手的圧迫をしてくる可能性がある。

初療室での処置(アルゴリズム2〜8)

    • 原則は JATEC に則った診療を行う。
    • 切迫心停止症例では、蘇生的開胸を行う。施行した症例では鈍的外傷よりも鋭的外傷の生存率が高く、必須の手技である(アルゴリズム2、蘇生的開胸術の詳細)。

    • 初期評価では E の評価、特に単純 X 線撮影での評価が重要である。全身観察をより注意深く行い、銃創の数、部位、活動性出血の有無などを確認する。創が奇数の場合、体内に弾丸が残存している可能性を 考える。銃創が複数ある場合、どこが射入口・射出口かは言及せず、銃弾の貫通経路はあらゆるパターンを考える。X 線撮影時には、創のマーカーとしてクリップなどを置く(アルゴリズム3)。

    • 循環動態不安定な症例は、原則手術であり、必要最低限の処置および検査を行っている間に手術の準備 を整え、すみやかに手術の可能な部屋へ搬入する(アルゴリズム4)。

    • 応急的な処置(アルゴリズム5):
      創部局所止血±中枢側血流遮断
      創部局所止血:ガーゼ圧迫、Foley カテーテル挿入による止血、止血剤
      出血部の中枢側血流遮断:ターニケット、外科的血管確保、血管内バルーンカテーテル挿入
      ※ターニケット装着不可能な部位の出血に対しては、創部局所止血のみ施行し、すみやかに手術室へ移動する。

    • 最小限の検査(アルゴリズム6):
      頭部⇒ CT
      体幹部⇒ FAST(FASTの詳細)、単純 X 線撮影
      (四肢⇒単純 X 線撮影)

    • ターニケットは途中で緩めてはならない。原則は、手術室など適切に対応できる環境下で外す。
    • 循環動態の安定している症例も多くある。ただし、常に急変のリスクおよび緊急手術になるであろうことを念頭に、迅速に診療にあたる。
    • 外出血なく、バイタルが安定している場合でも、むやみに初療室で創の検索は行わない。血栓や周りの組織による圧迫で一時的に止血されているようにみえるものの、実際には動脈の断裂があり、創の開放 とともに急激に出血することがある。
    • 具体的な手術術式や手術適応については、部位別の項目を参照(アルゴリズム7)。

    • 専門施設への搬送(アルゴリズム8):自施設では不可能な検査、治療が必要な場合は、循環動態の安定化を図ったうえで、すみやかに専門施設へ転送とする。

【銃創症例全体の死亡率】

【初療室ですべき診察、処置、検査】

  • 鋭的外傷に対する CT の有用性に関して

⇒有用である可能性がある。

 特に循環動態の安定している体幹部鋭的外傷(あるいは銃創のみ)を対象として、手術を行う必要があるかないかの decision making の一助となったり、損傷の有無・程度が明確になる可能性が示唆された報告が散 見される 1)- 4)。CT による開腹手術の必要性の予測に関して、感度 94。9%、特異度 95。38%、正診率 94。7% との報告もある 5)。ただし腸管損傷に対しては診断が困難であることが多い 6).

1)Grossman MD, et al : Determining anatomic injury with computed tomography in selected torso gunshot wounds。 J Trauma 1998 ; 45 : 446 – 456.
2)Munera F, et al : Gunshot wounds of abdomen : evaluation of stable patients with triple-contrast helical CT。 Radiology 2004 ; 231 : 399 – 405.
3)Shanmuganathan K, et al : Penetrating torso trauma : triple-contrast helical CT in peritoneal violation and organ injury- a prospective study in 200 patients。 Radiology 2004 ; 231 : 775 – 784.
4)Velmahos GC, et al : Abdominal computed tomographic scan for patients with gunshot wounds to the abdomen selected for nonoperative management。 J Trauma 2005 ; 59 : 1155 – 1160.
5)Goodman CS, et al : How well does CT predict the need for laparotomy in hemodynamically stable patients with penetrating abdominal injury? A review and meta-analysis。 Am J Roentgenol 2009 ; 193 : 432ー437.
6)Butela ST, et al : Performance of CT in detection of bowel injury。 Am J Roentgenol 2001 ; 176 : 129 – 135.

【鋭的外傷の初療での適切な輸液、輸血による蘇生】

 鋭的外傷に焦点を当てた初期輸液蘇生に関するReview は限られている。
 2013 年の Systematic review では、それぞれ鋭的外傷を 30%~ 94%含んだ 20 論文(計 12,154 症例)を検討している。ATLS や JATEC で述べられている1~2L の細胞外液による初期輸液急速投与ではなく、ダメージコントロール蘇生の一つとして、高比率 1:1:1 に近い比率で RBC:FFP:PLT の早期投与を行った方が、死亡率が改善したという報告が多かった(20 論文中 14 論文)1)。
 特に鋭的外傷の割合の明記はないが、重症外傷に対するダメージコントロール蘇生について 37 論文を まとめた EAST のガイドラインでは、DCR(ダメージコントロール蘇生)の原則として、
(1) 低体温の回避
(2) 根本的止血までの低血圧の許容
(3) MTP の使用4最小限の晶質液の投与
などを挙げるとともに、死亡率減少のために MTP を軸とした DCR を行うことおよび1:1:1に近い比率での RBC:FFP:PLT の 輸血を行うことを推奨している 2)。

【鋭的外傷に対する REBOA/IABO の有用性、および開胸大動脈遮断術との比較】

 現時点で十分な症例集積はされていないが、限られた数件の Review の報告および本邦での使用経験から、 鋭的外傷に対しての REBOA/IABO は安全で効果的である可能性がある。
 JTDB を解析した報告では、REBOA/IABO は初療室で施行することを考慮できるものだが、留置に成功し たとしても、一刻も早く手術や IVR などの根本的治療を開始するべきであるとしている 1)。
 対象に鋭的外傷症例を含む 7 件の報告をまとめた Review では、計 81 人の鋭的外傷症例に対して、主に心 肺停止切迫症例に対する出血コントロールおよび蘇生目的で使用されており、バルーンのインフレート時間の中央 値 63 分(33 – 88 分)、収縮期血圧上昇の中央値 51mm Hg(44 – 61mm Hg)、全体の死亡率は 35.4%であった 2)。 AORTA study では、鋭的外傷 43 例を含む 114 例の検討で REBOA/IABO と緊急開胸での比較がされており、 生存率に特に有意差は認めなかった(28.2% vs 16.1%, p=0.12)。特に致死的合併症は認めず、安全で効果的と結論付けている 3)。

KEY POINT

  • 鈍的外傷と異なり、銃創患者は緊急手術が必要になる可能性が高く、手術加療が予後に直結するため、 常時麻酔科を含め迅速に緊急手術が施行可能な体制を整えておくべきである。
  • 初期評価では E の評価、特に単純 X 線撮影での評価が重要である。
  • 鋭的外傷に対する蘇生的開胸術は、鈍的外傷に対してよりも重要度が高く、必須の手技である。
  • 鋭的外傷では腹部 FAST の感度はやや低く、体表創部から体外へ出血していることもあり、negative で も腹腔内出血は否定できない。

廣江 成欧


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