質問と回答

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知識確認問題

Q1 屋内ラドンの対策レベルは?

欧米の一部の国では先行して数値目標を決めている国が存在しますが、我が国ではもともと屋内ラドン濃度が低いこともあり、決めておりません。国際保健機構(WHO)ヨーロッパ支部は、 Fact Sheet No.4.6 で従既築住居で400 Bq/m3未満、新築住宅で 200 Bq/m3未満という対策の目標値を提案していました。WHO は国際ラドンプロジェクトを立ち上げて、屋内ラドンの参考値を検討中ですラドンハンドブックとして提示しました。また、国際原子力機構(IAEA)もまた、国際基本安全基準(BSS)の改訂作業の中で、屋内ラドンの参考値レベルに関する案を検討中です。【追記:BSSは改訂されています。
 国内では放射線審議会で議論がなされています。

Q2 放射能泉(含放射能-ラドン泉)につかっても大丈夫?

 ラドン・ガスによる肺がんのリスクは、高い濃度のラドン・ガスを20年〜30年と継続して吸い続ける場合に上昇します。温泉の浴室は、十分換気されており、岐阜県の温泉での実測測定で湯殿の屋内ラドン濃度は、秋期で 30〜75 Bq/m3と報告されています(下、小柳、床次ほか:岐阜県の一温泉施設のラドン濃度と被曝線量試算、温泉科学55巻4号:177-187,2006)。日本で一番ラドン濃度が高いといわれている温泉の湯殿の屋内ラドン濃度のデータはありませんが、湯殿の温泉水のラドン濃度は報告されています。換気が同じレベルとすると、温泉水のラドン濃度から推測される屋内ラドンの濃度は、下らが調査した岐阜の温泉の1.5〜2倍程度と思われます。このレベルであれば、年に数回、放射能泉(含放射能-ラドン泉)に浴しても、心配ありません。

Q3 ラドン濃度が高い地区の住民は大丈夫?

 土壌、岩石、地下水など環境中のラドン濃度が高い地域であっても、外気中のラドン濃度は十分低く、外気それ自体を呼吸していても肺がんリスクを心配する必要はありません。洞窟や地下室などラドンが溜まりやすい場所がありますので、そのような換気の悪い場所は注意が必要です。
屋内ラドンのレベルは、家の構造や換気率、換気システムなどにより、複雑に変化します(EPAの消費者ガイド参照)。御自宅の屋内ラドン・レベルがご心配の方は、信頼できる業者に頼んで、屋内ラドン測定をしてみてください。

Q4 良いラドン測定法を教えてください

 日本家屋には、ラドン-222 (狭義のラドン)とラドン-220 (トロン)が存在します。ラドンとトロンを分別測定しないと、屋内ラドンの過剰評価になってしまいます。そこで、屋内ラドンの測定をする場合には、ラドンとトロンを分別測定できる装置を使うことをお勧めします。換気率の季節変動により屋内ラドン濃度は変わりますので、ご自宅の屋内ラドン濃度を調べるためには、3ヶ月〜6ヶ月間持続的に測定する必要があります。
 測定装置は、大別するとポンプで空気を捕集して測定するアクティブ型ラドン濃度測定器と、自然な空気の流れに任せて測定するパッシブ型ラドン濃度測定器があります。精度管理されたアクティブ型ラドン濃度測定器は、大変高価なため、長期間貸し出して個人宅を測定する目的には向きません。この点、パッシブ型ラドン・トロン分別測定器がお勧めです。この装置は放射線医学総合研究所が開発し、その後、ハンガリーのRadoSys社が製品化したものです。私たちの研究では、この装置を使っております。【追記:商品名はRADUETです】)

Q5 ラドン測定業者を教えてください

 (エックスラウン)カブシキカイシャ、千代田テクノル

【追記:他にも多くあります。ここでの情報は特定の業者を推奨する意図を持っていません】
【追記:放射線防護用設備・機器ガイド

Q6 ラドンの肺がんリスクの大きさは、どの程度の大きさ?

 屋内ラドンの肺がんリスクに関しては、2つの方法からその大きさが推計されています。一つは、鉱山労働者の疫学調査から得られたリスク係数を用いて推計する方法で、米国科学アカデミーが設置したBEIR委員会や、米国環境保護庁EPAが採用している方法です。専門的になりますが、EPAの手法を翻訳したものをこのホームページに収録していますので、興味のある方は参照してください。もう一つの方法は、肺がん患者さんのご自宅と周辺の対照者のご自宅の屋内ラドン濃度を実測し、性、年齢、喫煙歴などを調整したうえで屋内ラドンの肺がん相対リスクを算定する疫学研究(症例対照研究)です。両方の手法で算出された屋内ラドンの相対リスクの大きさは、100 Bq/m3の屋内ラドン濃度で凡そ 1.08 〜 1.16 倍の増加です。

Q7 ラドンがホルミシス効果があるとききましたが、違うのですか?

 低レベルの放射線被ばくは、身体によい効果(ホルミシス効果)があるとの仮説があります。
 屋内ラドンとホルミシスに関しては、米国のCohen博士の報告があります。博士は、カウンティ(郡)毎の平均屋内ラドン濃度と肺がん死亡率の相関を調べる生態学的疫学研究を行い、たばこ消費量を調整してもラドンの中等度に高いカウンティ(郡)ではむしろ肺がん死亡が少ないことを報告しました。そして、屋内ラドン濃度のレベルの被ばくは、むしろ肺がんを予防するホルミシス効果があると報告しました。
 しかし、米国科学アカデミーの BEIR 委員会を始め、多くの研究者がCohen博士の結論に疑問を発しております。Puskin博士は、肺がん以外にも喫煙に関連する複数のがんが同じようにラドンの高いカウンティ(郡)で少ないことを報告し、生態学的疫学研究には内在的限界があり、Cohen博士の研究では喫煙によるバイアスを解決できていないと批判しました。北米、中国、欧州の肺がん症例対照研究のプール解析の結果、100 Bq/m3の屋内ラドン・レベルの被ばくであっても、肺がんリスクが有意に高いことが判明してきており、仮にホルミシス効果があったとしても、Cohen博士が提唱したよりもずっと低い屋内ラドン・レベルでしかその効果はないと考えられています。

Q8 屋内ラドンの低減策を教えてください

 米国環境保護庁EPAの消費者ガイドを翻訳したものをホームページで公開しています。参照してください。
 日本国内でもこのガイドに沿って屋内ラドンの低減策が講じられた例があります。地下居室設置は日本でも可能ですが、そのための法的基準 (建築基準法第29条)では、換気設備が設けられていることも要件となっています。

Q9 逆線量率効果ー鉱山労働者の疫学調査結果を屋内ラドンのリスクへ外挿することに問題はないの?

 一般に、放射線健康影響は、線量が増加するに従って増加します。一方、同じ総線量の被ばくであっても、線量率が変わると影響の出方は異なります。エックス線やガンマ線の被ばくの場合には、線量率が増加すると健康影響リスクが高まり、線量率を下げると、リスクは低下します。他方、アルファ線被ばくでは、あるレベルの線量率を越えると、それからは線量率を増やすと逆に健康影響リスクが低下する現象が観察されます。これを逆線量率効果と呼びます。
 ラドン被ばくにおいても逆線量率効果が観察されています。鉱山労働者の疫学調査では、作業中のラドン被ばく線量が同一であっても、線量率が低い集団ほど肺がんのリスクが高かったのです。この現象の生物学的な背景として、ラドン娘核種に由来するアルファ線が肺の標的細胞(あるいはその周辺の細胞)に複数回ヒットする場合に、ヒット回数が増えていくと標的細胞における突然変異誘発効果に飽和現象が起きるためと考えられています。さらに、複数回ヒットによって発がんイニシエーションを受けた標的細胞が細胞死を起こすことによるリスクの低下が伴うためと思われます。
 米国科学アカデミーの BEIR VI 委員会は、最もラドン曝露の低かった鉱山労働者の疫学データから得られた放射線リスク係数を使用して屋内ラドンの肺がんリスク推計モデルを構築しました。逆線量率効果をモデルに取り入れるために、被ばく年数によりリスク係数が段階的に低減する調整手法を取り入れています。BEIR VI 委員会のモデルを改良した環境保護庁 EPA のリスク推計モデルでも、この手法が踏襲されています。これらのリスク推計モデルの妥当性は、実際の疫学調査結果と照合することにより検証される必要があります。今世紀になってから報告された北米、中国、欧州の肺がん症例対照研究をプール解析した結果と照らし合わせますと、屋内ラドン・レベルでも有意に肺がんリスクがあり、その大きさは鉱山労働者のリスク係数を使ったリスク推計モデルで算出されるリスクの大きさとほぼ一致することが判りました(Krewski et al)。

Q10 欧米人の放射線リスクの大きさは、そのまま日本人へも適用できるの?

 放射線DNA損傷修復に係わるゲノム遺伝子および放射線細胞死・炎症応答等に係わるゲノム遺伝子には、遺伝子多型が存在します。これらのゲノム遺伝子の多型は、放射線への感受性を変える可能性があります。また、食生活を含めた生活習慣は、放射線障害を修飾する事が判っています。このため、放射線リスクの大きさは、厳密には個々人で違ってきます。ゲノム遺伝子の多型の分布は人種によって異なり、また、食習慣は文化によって大きく異なります。このため、「 欧米人の放射線リスクの大きさは、そのまま日本人へも適用できるの?」といった疑問が出てくるのは当然のことです。
 ちなみに、皆さんは、放射線防護の世界では放射線リスクの標準になっているのが日本人であるということを御存知でしょうか?ABCC/放射線影響研究所は、60年余にわたり広島・長崎の原爆被爆者集団を追跡調査しております。この縦断的疫学調査によって得られた放射線発がんリスクのデータが、そのまま国際放射線防護委員会 ICRP 等の国際機関の基礎資料となり、ICRP 勧告等の科学的根拠になっているのです。これまでのところ、欧米の医療放射線被ばく集団のがんリスクの大きさは、原爆被爆生存者から得られたリスクの大きさと大きな差は認められておりません。言い換えれば、エックス線やガンマ線やベータ線の放射線影響では、人種差はあまり大きな変更要因にはなっていないように見受けられます。ただし、アルファ線の人体影響に人種差が有るのか否かは、未だ十分な疫学的知見が蓄積されていません。


最終更新日:2024年1月29日

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