1.屋内ラドンと肺がんに関する
国際的な疫学研究の概要
     
   鉱山労働者の疫学調査から、ラドンが肺がんのリスク要因であることは以前から知られておりました(原子放射線の影響に関する国連科学委員会2006年報告書、アメリカ合衆国BEIR IV委員会報告)。しかし、鉱山という環境よりラドン濃度が低い一般住宅でもラドンが肺がんのリスク要因になっているか否かは、確定的ではありませんでした。以前より、米国は屋内ラドン濃度の参考レベルを148 Bq/m3に設定しており、また欧州の多くの国は200〜400 Bq/m3に設定していました。

今世紀になり、それまでに実施されてきた肺がんと屋内ラドンに関する症例対照研究のデータを統合して、再解析する研究が相次いで実施されました(北米プール解析北米・中国プール解析欧州プール解析)。この結果、屋内ラドンの濃度レベルであっても、ラドンは有意に肺がんのリスクになっていることが判明しました。屋内ラドンが100 Bq/m3増加するたびに、喫煙の有無にかかわらず、肺がんのリスクは10〜20%程度増加します。詳細は、WHOラドンハンドブックの第1章を参照して下さい。

これらの新知見を背景に、国際保健機関(WHO)や国際原子力機関(IAEA)や国際放射線防護委員会(ICRP)は、ラドンの参考レベルを改訂し始めました。具体的には、WHOは屋内ラドンの参考レベルを100 Bq/m3未満(それが実際的でない地域においても300 Bq/m3未満)に改訂しました。

 
     WHOハンドブック(Darbyらの文献)より引用
横軸は屋内ラドン濃度(Bq/m3)、縦軸は肺がんの相対リスクを示す。屋内ラドン濃度が増加すると直線的に肺がんリスクが増加していることに注目されたい。