〈出典〉ADA(American Dental Association) Fluoridation
Facts (1999)
翻訳:山下文夫(宮崎県子供の歯を守る会),川崎浩二(長崎大学歯学部)ほか
【質問16】
むし歯を減らすために、毎日フッ素はどれくらい必要ですか?
●解答
毎日摂取するフッ素の量は、年齢や体重によって違います。他の栄養素と同じように、正しく用いればフッ素は安全で効果的なものです。
●解説
1997年、医学協会の食物栄養委員会は飲食物の栄養摂取について参考値を発表しました(74)。これらの新しい参考値、食料参考摂取値 (DRI)は、1941年から米国科学協会が示してきた推奨食料許容量(RDA)に代わるものです。新しい値は健康のために必要な栄養を示しており、栄養を取りすぎることによるリスクを減らすために、初めてその最大値を設定しました。むし歯に効果があるので、カルシウム、リン、マグネシウム、ビタミンDと同じように、フッ素についても食料参考摂取値が設定されました。
表2 飲食からのフッ素摂取量参考値 医学研究所食品栄養局(Food and Nutrition Board of the Institute of Medicine)1997年
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参考 至適 上限
年齢群 体重 摂取量 摂取量
Kg* (mg/日) (mg/日)
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0〜6か月 7 0.01 0.7
6〜12か月 9 0.5 0.9
1〜3歳 13 0.7 1.3
4〜8歳 22 1.0 2.0
9〜13歳 40 2.0 10
少年14〜18歳 64 3.0 10
少女14〜18歳 57 3.0 10
男性19歳以上 76 4.0 10
女性19歳以上 61 3.0 10
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* アメリカ合衆国第3回国民健康栄養調査(NHANES III)の一部である1988〜1994年のデータに基づく値である(74)
表2に示すように米国におけるフッ素摂取は幅広い安全域にあります。
第一の食料参考摂取値は、適切摂取量(AI)であり、これは副作用がなく、健康を維持していくための摂取目標が設定されています。フッ素の適切摂取量は軽度の歯牙フッ素症を起こすことなくむし歯を減らすために必要な一日の摂取量です。他の色々なもの(フッ素添加飲料水、食物、飲料、歯科用フッ化物、フッ化物補助食品)から摂取するフッ素の適切摂取量は0.05mg/kg/dayに設定されています。
0.05mg/kgという設定された適切摂取量(AI)を用いて、健康のために一日に消費されるフッ素量を性別と年齢別に算出(平均体重として表現)しました。(表2参照)
食料参考摂取値(DRI)はまた許容上限摂取レベル(UL)といわれる最大レベルの参考値も設定しました。許容上限摂取レベル(UL)は適切摂取量(AI)よりも高く、摂取の推奨レベルではありません。許容上限摂取レベルは健康に悪影響を及ぼさない最大摂取レベルです。様々なもの(フッ素添加飲料水、食物、飲料、歯科用フッ化物、フッ化物補助食品)から摂取するフッ素の許容上限摂取レベルは幼児、小児から8歳まで、0.10mg/kg/dayに設定されています。それ以上の子供や成人では、もはや歯牙フッ素症の心配はないので、フッ素の許容上限摂取レベルは体重に関わらず10mg/dayに設定されています。
フッ素について設定された許容上限摂取レベルを用いて、8歳以下の子供たちについて軽度の歯牙フッ素症のリスクを減らすために一日に消費されるフッ素量を性別と年齢別に算出(平均体重として表現)しました(表2)。
実際の例として、一日に2mgのフッ素の摂取は、9〜13歳で体重88ポンド(40kg)の子供たちにとって適量となります。これは、0.05mg/kg/day(AI)×40kg(体重)=2mgという計算によります。同時に88ポンド(40kg)の子供は許容上限摂取レベルとして一日にフッ素10mgを摂取できます。
水道水フッ素化地域に住む子供たちは、フッ素添加飲料水や食物、様々な飲料物などからフッ素を摂取しています。フッ素添加飲料水では、フッ素1mgを摂取するのに1ppmのフッ素添加飲料水1リットルを摂取しなければなりません(17,103)。6歳以下の子供たちの平均飲用量は、一日に0.5リットル以下です(103)。したがって、6歳以下の子供たちは至適濃度のフッ素添加飲料水(1ppm)を飲むことで一日に0.5mg以下のフッ素を摂取します。
もし子供が水道水フッ素化が行われてない地域に住んでいたら、歯科医師あるいは医師はフッ素補助剤を処方することができます。表1の「フッ素補助食品表 1994」(質問9.
を参照)に示したように、現行の適用量表でそれぞれの年齢の適切摂取量より低い量で、フッ素の補助剤を用いることが勧められています。適用量表は軽度の歯牙フッ素症を発症することなく、安全な領域でむし歯を減らすことができるように処方されています。例えば、3歳の子供は0.7mg/dayです。水道水フッ素化が行われていない地域に住む3歳の子供たちに推奨されるフッ素補助食品の適用量は0.5mgです。これは食物や飲料、その他から摂取されるフッ素のための余地が残してあるためです。
最近の子供たちは以前に比べて、様々なものからフッ素を摂取していることから、広い地域でむし歯は減ってきました。多くは局所的な使用と考えらますが、子供が不注意にフッ素を摂取してしまうことがあります(109)。口腔の健康における利益を損なうことなく歯牙フッ素症のリスクを減らすために、不注意なフッ素の摂取には気をつけなければなりません。
小さな子供たちは歯磨きの度にフッ素添加歯磨剤から平均0.30mgのフッ素を飲み込むという報告があります(110-113)。もし子供が一日に2回歯磨きをするなら、0.60mgが摂取されます。これは表2から適切摂取量を僅かに超えます。0.60mgの摂取は6〜12ヶ月の子供にとって適切摂取量値を0.10mg超過し、1〜3歳の子供の適切摂取量より0.10mg少なくなります(74)。歯磨剤は飲み込むものではないものの、子供たちは歯磨剤だけから推奨された一日のフッ素の適切摂取量を摂取するかもしれません。歯牙フッ素症のリスクを減らすために、アメリカ歯科医師会は1992年から、両親や子供の世話をする人に歯磨きの時は子供用の歯ブラシの上にフッ素添加歯磨剤は豆粒大1ヶ分だけのせるように推奨しています。小さな子供が歯磨きをするときは歯磨剤を飲み込まないように監視し、吐き出すことを教えなければなりません。
ここでは摂取するフッ素の量について述べてきました。フッ素を摂取した場合、一部は体内にとどまり、一部は排泄されます。このことについては質問17で述べます。
17) Newbrun E. Fluorides and dental caries, 3rd ed. Springfield, Illinois:
Charles C. Thomas, publisher; 1986.
74) Institute of Medicine, Food and Nutrition Board. Dietary reference intakes
for calcium, phosphorus, magnesium, vitamin D and fluoride. Report of the Standing
committee on the Scientific Evaluation of Dietary Reference Intakes. Washington,
DC: National Academy Press; (In press).
103) Rugg-Gunn AJ. Nutrition and dental health. New York: Oxford University
Press; 1993.
109) Levy SM, Maurice TJ, Jakobsen JR. Feeding patterns, water sources and fluoride
exposure of infants and 1-year-olds. J Am Dent Assoc 1993; 124: 65-9.
110) Barnhart WE, Hiller LK, Leonard GJ, Michaels SE. Dentifrice usage and ingestion
among four age groups. J Dent Res 1974; 53(6): 1317-22.
111) Ericsson Y, Forsman B. Fluoride retained from mouthrinses and dentifrices
in preschool children. Caries Res 1969; 3: 290-9.
112) Bruun C, Thylstrup A. Dentifrice usage among Danish children. J Dent Res
1988; 67(8): 1114-7.
113) Ekstrand J, Ehmebo M. Absorption of fluoride from fluoride dentifrices.
Caries Res 1980; 14: 96-102.